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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百五十一節、似た者同士

朽ちた巨木の中に避難しても、ダインはぐったりとしたまま動かなかった。

「しっかりしてよ、どうしたのよ、ダイン!」

ラフィンは必死な様子で彼の身体を揺らしている。

しかしそれでも彼から反応はなく、青ざめ苦しそうな表情で唸っており、小刻みに体を震わせていた。

「ダイン! ねぇ、ダイン!」

初めて見る姿だった。

どんな窮地でも規格外な力で切り抜けてきた彼なのに。苦しむ姿なんて想像すらできなかったはずなのに。

「ダイン…!」

ラフィンは激しく取り乱していた。何をすればいいか分からず、とにかく彼の目が覚めるよう揺らし続けてしまう。

「ちょっと黙ってて」

そんな彼女を押しのけ、ディエルはダインの容態をジッと見つめ診察を始めた。

彼の顔色や表情、体温を確認し、他に似た症状はないかを記憶の中で照合する。

やがて彼女は、

「風邪…だと思う」

医学知識はあるものの、かじった程度でしかないので、やや自信なさげにいった。「一般的な風邪じゃなくて、重度の…多分ね」

「多分って何よ!」

取り乱していたラフィンはディエルに詰め寄る。「どうしてはっきりいえないのよ!」

「医者じゃないんだから、断定できないわよ。でもあなたより医学知識はあるつもりだから、少し特殊な風邪と見て間違いないはずだわ」

ディエルはそのまま分析を続けた。「ダインが苦しんでいる主な原因は、空気中に漂っている毒気とこの寒さね。凍えると抵抗力が薄れていっちゃうから、そこに毒気が気管に入って中から悪さをしてるみたい」

「じゃ、じゃあ、どうすれば…」

「まずはこの澱んだ空気をどうにかできれば…」

周囲を見回すディエルは、最後にラフィンを見上げた。

「ラフィン。この朽木の中だけでもいいから、強力な…空気すら入り込めないようなバリアって張れない?」

「え? あ、え、ええ。やってみる」

目的を聞こうともせず、ラフィンはすぐさま周囲に密度の高いバリアを展開させた。

「それで、次は?」

「確かダインがガスマスクを持ってきてたはず…」

ディエルはダインが持っていたカバンを漁り、中からガスマスクを取り出す。

「このフィルターを使って汚染された空気を洗浄するわ」

と、今度はディエルが風の魔法を使って、バリア内の空気を動かした。

すると地面に置いたガスマスクが空気洗浄器の役割を果たし、やがて薄く濁っていた空気がクリアなものになってくる。

「次はどうするの?」

「え〜と、次はダインの身体を温めたいんだけど…」

火の魔法を使って枯葉を燃やそうとしたディエルだが、途中で止めた。「毒を吸って成長した枯葉を燃やすのはまずいか。それに酸素が減るし…」

火を使ってダインを暖めることができない。

「ど、どうするのよ! 火が使えなくちゃどうしようも…!」

またうろたえだすラフィン。

冷静にダインが置かれている状況を分析していたディエルは、彼の衣服がまだ濡れていたことに気がついた。

「とりあえず、服は脱がせた方が良いかも。濡れた服着てるとどんどん体温が下がっていっちゃうから…」

「分かったわ!」

またディエルがいい終える前に、ラフィンは躊躇いなくダインの服を脱がしにかかる。

「ちょ…! あ、温まれるものを用意してから!」

ディエルは慌てて各自のカバンの中を漁る。ダインのカバンからは替えの服と大量のタオルが出てきた。海を渡るということで準備していたのだろう。

三人分のお弁当やハンカチまで出てきて、とにかく何でもいいから乾いた布製のものをラフィンとディエルのカバンからも引っ張り出していく。

その間にもラフィンはダインの衣服を脱がしている。恐らくダインを心配するあまり、彼の裸を見ることに対する躊躇いや羞恥心など吹き飛んでいたのだろう。

そして裸に剥かれたダインに大量のタオルやハンカチ、衣類まで被せ、そこでようやく一息つくことが出来た。

「ふぅ、こんなものね」

「次は?」

ラフィンはディエルに次の指示を仰ぐ。「まだやることあるでしょ」

「え、いや、とりあえず一安心だと思うけど…」

「衣類かけただけじゃ温まれないわ。ダイン本人の体温が下がってるんだもの」

確かに、彼女の言う通りだろう。暖まるまでの時間が長引けば長引くほど、病気というものは深刻化する。

「う〜ん、でも火の魔法は使えないし…」

腕を組み、首を捻るディエル。

脳内であらゆる豆知識を模索していた彼女は、

「…あ」

やがて、とても“ありきたりなこと”に思い至ってしまった。

「い、いやいや、アレはさすがに…」

一人で悶々とし始める。

「何? 思いついたのなら教えて」

ラフィンがずいっとディエルに迫った。思いつくことは全てやる気でいたのだろう。

「い、いやぁ、でも…」

「いいから! 何?」

ラフィンの激しい剣幕に押され、ディエルは思いついたことを呟く。

「ひ…人肌…」

「人肌?」

「え、ええ。ドラマとかでよくあるの。雪山に遭難した人が、凍えないために裸になってお互い抱き合ったりして…人肌の温もりって実は結構合理的な暖の取り方で…」

とディエルが話している間に、ラフィンは服を脱ぎだした。

「ちょぉ…!? な、何すぐ実行しようとしてんのよ!」

ディエルは顔を真っ赤にさせて止めさせようとしたが、

「四の五のいってられないわ!」

ダインが助かるのなら何でもする気でいた彼女は、ディエルの制止も聞かず一糸纏わぬ姿となる。

そのまま、積み上がった衣類の中に潜り込み、同じく裸でいたダインを抱き寄せた。

「ダイン、もう大丈夫だから…」

そう囁きかけている。

ラフィンの一切の迷いのない行動に、ディエルはしばし呆気に取られていた。

ダインの衣服を剥いだり、自身の服を脱ぐことにも全く躊躇いがなかった。

その真っ直ぐな気持ちはダインを助けたいという一心に他ならず、次にディエルの胸に沸き起こってきたのは悔しさだ。

恥ずかしがっている場合じゃない。そう話すラフィンの言葉はその通りだ。

単なる風邪とはいってもここから重症化する恐れもあるのだから。とにかく早急にダインの体温を高めて抵抗力を取り戻させなければ。

「…あーっ! もう!」

自分の頭をかきむしったディエルは、覚悟を決めて服を脱ぎだした。

自らも素っ裸となり、衣類の山に潜り込んで、ラフィンとは反対側から顔を出す。

「ちょ、ちょっと、何してるのよ。あなたは外で危険がないか見張っててもらわないと…」

「強力なバリア張ってあるんでしょ? 問題ないわよ」

と、ディエルもダインを抱き寄せ、彼に触れたところでハッとする。

彼の身体は驚くほど冷たくなっていたのだ。

きっと濡れた服のまま歩き回っていたのがまずかったのだろう。こんな状態では、たとえヴァンプ族であろうと抵抗力が薄れるのは当然で、毒気のせいで倒れてしまったのも当たり前のことだったのかもしれない。

彼の体調に気付けなかった後悔と謝罪の念を抱きつつ、ディエルはダインにぴったりと寄り添った。

ラフィンもラフィンで自身の柔らかな身体をダインに押し付けており、二人分の体温のおかげもあってか、徐々に彼の寝顔が穏やかなものに変わってくる。

「これでもう、大丈夫?」

ラフィンは、他にできることはないのかとディエルに尋ねる。

「さすがにこれ以上は思いつかないわ。このまま暖めていたらマシになってくるはずよ」

「そ、そう…」

そこでようやくラフィンもほっと一息つけたようだ。

「でも…この状況、ダインが目覚めたらビックリするでしょうね」

ディエルが悪戯っぽい笑顔でいった。「両隣に素っ裸の私たちがいるんだから。何があったんだって混乱するんじゃないかしら」

ダインにとっては迷惑なことかもしれない。

「心配させまいと私たちを頼らず無理してたんだもの。当然の報いよ」

つんつんした表情でラフィンはいう。「いつも私たちのことを心配してくれるダインだけど、私たちだってどれほどダインを心配してるか、分かってないんだから」

「確かにそうね」

同意見のディエルは、やれやれとした様子でダインの頬を指でつつく。「優しい鈍感男なんて、恋愛もののテンプレ主人公はもう見飽きたわ」

「何よそれ」

良く分からないとラフィンは笑い出し、つられてディエルも笑顔になる。

周囲に漂っているのは穏やかな空気と暖かい温度だった。

中心にいるダインの体温はみるみる上昇していき、気付けば彼の口からゆっくりとした寝息が吐き出されている。

彼の体内を巡る毒気は完全に抜け、寒さも改善されたのだろう。ラフィンとディエルの対処が的確で迅速だったため、本格的に風邪を引く前に治ってしまったようだ。

「もう大丈夫そうね」

安心してラフィンがいい、「ちょっとお腹減ったわ」、安堵したディエルは眉を寄せていった。

岬を飛び立って、かれこれ五時間。昼はとっくに過ぎている。

安堵感によって、自分たちは空腹なのだということに気がついたようだ。

「そういえばダインのカバン漁ってるとき、お弁当見かけたんだけど…」、とディエル。

「ああ、私たちの分まで用意してくれてたらしいわ」

うつ伏せになったラフィンがその弁当箱を手繰り寄せ、蓋を開けた。

その弁当は肉と野菜がぎちぎちに詰め込まれており、かなり美味しそうだ。

「食べましょうよ!」

ディエルはいったが、ラフィンはやや躊躇っている。

「え、でも…勝手に食べてしまってもいいのかしら?」

「いいわよ。ダインはまだ起きる気配はないし、腹が減っては何とやらっていうじゃない」

欲望に忠実なディエルは、そのまま弁当を食べ始める。ちなみにまだ全裸のままだ。

「ご飯食べれば体温も上がるし。ダインをもっともっと暖められるわよ?」

「ま、まぁ確かに…」

ラフィンも遠慮がちに弁当を食べていく。

「あーっ! 美味しいわね〜!」

幸せそうにするディエルを見て、ラフィンは思わず笑い出してしまう。

「ん? 何よ?」

「い、いえ…何で私たち、裸で食べてるんだろうって…」

この異様な状況に、ラフィンは改めて疑問に思ったようだ。「プノーを助けに来たはずなのに、こんなところで裸になってお弁当食べてるなんて」

テーブルマナーを徹底して教えられてきた普段の彼女なら、あり得ないことだ。

裸になって寝そべったまま地べたでご飯とは、行儀の悪さでいえば相当なものだったかも知れない。

「私だってこんな格好、こんな体勢でご飯食べたことはさすがにないわ」

笑ってディエルはいう。「あなたが後先考えずに行動するからねぇ」

「うぐ…」

ラフィンは気まずそうな表情になるが、「でもそのおかげでダインの容態も回復したんだし、いいんじゃない? たまには」、この奇妙な状況を、ディエルは楽しんですらいるようだ。

「ほらほら〜、ダイン、早く目を覚まさないとあなたの分まで食べちゃうわよ〜?」

眠るダイン相手に挑発を始めた。その口元に唐揚げを押し付けている。

「ちょ、ちょっと、何してるのよ。せっかく体調が戻ってきたのに…」

「病気を治すのにだって体力がいる。ダインには早く起きてご飯食べて体力回復してもらわないと」

もっともらしいことをいっているが、ダインで遊びだしたことは明らかだ。

ラフィンはディエルを咎め、ディエルは笑いながらダインにちょっかいをかけ続け、そうするうちに弁当の中身は全て食べ終えてしまった。

「はー、満足…」

満腹になったディエルは、そのまま再びダインを抱き寄せる。

「私もちょっと眠ろうかしら…」

食欲が満たされ、次は睡眠欲。

「も、もう、欲望に忠実すぎるんじゃないかしら」

また真面目さを発揮するラフィン。

「だってダインが起きないことには私たちも何も出来ないじゃない。それに今日はちょっと早起きしたからね」

早くもディエルの目は半開き状態だ。本当にこのまま寝るつもりらしい。

しかし確かにディエルのいう通りだろう。ダインが起きなければ、自分たちも行動できない。

何もすることがないのはラフィンも同じで、やがて彼女もウトウトし始める。

しばし周囲は静かになる。バリアの外は相変わらず無音で、生き物の気配は微塵も感じない。

その静けさもラフィンの眠気を誘って、いよいよ寝てしまいそうになったとき、

「…ねぇ」

ふと、ディエルが静寂を破った。「あのときの返事…まだきかせてもらってないんだけど」

「え?」

何のことだと目を開ける。うつ伏せのディエルは頬杖をついたまま、ラフィンを見つめていた。

「忘れちゃった? 奇襲戦が佳境に入ったとき、私があなたに問いかけたこと。あのとき、あなた顔真っ赤にして逃げたじゃない」

『私はダインのことが好き』

当時のことを思い出したラフィンは、みるみる顔を赤くさせていく。

ディエルが自身の気持ちをラフィンに打ち明けたときのことだ。勝手にライバル宣言をされ、ラフィンはどうなんだときかれた。

「どう思ってるの? ダインのこと」

ダインの頭を撫でながら、ディエルは当時と同じ質問をラフィンに寄こした。「今回はさすがに逃げ場はないわよ」

「い、いや、そんな急に…き、きかれても…」

恥ずかしさが脳内を占め、眠気が片隅に追いやられてしまったラフィンは、忙しなく視線を動かしている。

明らかに動揺している彼女だが、それでもダインだけは離すまいと、彼の胸に腕を回していた。

ディエルはただラフィンだけを見つめている。問い詰めることも理詰めで迫ることもなかったのだが、その視線は正直にいえと訴えているかのようだ。

「う…うぅ…」

無言の圧力に押され、やがて観念したのか、ラフィンは…、

「…す…好き、に…き、決まってる、じゃない…」

と、ついにいってしまった。

ラフィンにとっては意を決した告白だった。

「な、何とも思ってないんだったら、こんなところにいないし、こんなところで裸になんかなってない…」

チラッとディエルの方を見ると、

「ふーん」

何故か彼女はさして驚いた様子はない。

「な、何よそのリアクションは」

「いやだって、前々からダインに対する態度を見ていて分かってたし」

今更だとディエル。

「じゃあなんできいたのよっ!」

鋭く突っ込むと、彼女は「あははっ!」、と可笑しそうに笑った。

しかしそれ以上茶化してこない。にんまりとした顔は本当に嬉しそうで、ラフィンの本心をようやく引き出せて満足しているのだろう。

「ライバルね」、ディエルがいった。

「ま、負けないんだから!」

敵対心を表すラフィンだが、「ライバルは私以外にもいるわよ?」、とディエルが返す。

「シンシアとニーニアと、それにティエリア先輩。あとは…もしかしたら、ルシラちゃんもね?」

ダインの競争率の高さを改めて認識させられた台詞だった。

「ま、全くもう…なんでこんなにライバルが多いのよ、あなたは…」

ラフィンはぶつぶついいながらダインの頬をつねりだす。

真っ赤になりながらも彼に対する文句を呟き始めた彼女を見て、ディエルは吹き出してしまった。

「な、何よ」

「いや、あなたってほんと、昔から変わってないわね」

頬杖をついたままのディエルは、どこか昔を懐かしんでいるかのような表情だ。「予想してない事態が起きるとすぐに取り乱しちゃうんだから、あなた」

「い、いきなり何の話よ」

「腐れ縁の賜物ね。昔、ピアノのコンクールに出てたあなたはガチガチに緊張していて、躓いて転びそうになったり楽譜が逆さまだったり、私近くで見ていたから笑いを堪えるのに必死だったことを覚えてるわ」

こんな場所でいきなり過去のことを暴露され、ラフィンはさらに赤面する。

「あ、あなたこそ、魔術大会の決勝で爆発魔法を暴発させて、大混乱に陥ってたじゃない」

と、すぐに反撃してきた。

ディエルの顔もさっと赤くなり、「先生に教科書の朗読を指名されて、別の教科書の朗読を始めたの覚えてるわよ」、とまた別の恥ずかしい過去を暴露しだす。

「あ、あなただって、調理実習のとき小麦粉落として、教室の中を真っ白にさせてたじゃない」

ラフィンもまたまた反撃し、それから二人はお互いの失敗談を暴露し合う。

そんな中でもダインは穏やかな寝息を立て続けており、ネタが尽きたのかラフィンもディエルも睨み合ったまま黙り込んでしまった。

一瞬静寂が訪れ、「はぁ…」、とラフィンの口からため息が漏れる。

「どうしてこんな場所で、裸のまま言い争いなんかしてるのかしら」

口調も仕草も飽き飽きとしたものだが、その声色は心の底から嫌がっているようには聞こえなかった。

「ほんと、やんなっちゃう」

ディエルも似たような声色と仕草で口を開く。「私とあなたは種族的に相容れない。エンジェ族とデビ族は決して交じり合わないものなの」

そう呟く彼女は、「そのはずなのに…」、ぽそっといった。

「妙よね。私とあなたの間には、似たところが多い」

ラフィンが、え、とやや驚いたような視線をディエルに向ける。彼女を見て一瞬微笑んだディエルは、そのまま続けた。

「ラフィンはずっと孤独だった。私には友達らしい友達がいなかった。どちらもお嬢様で、どちらも箱庭のような環境で育てられてきた」

つらつらと共通点を言い連ねていく。事実その通りだっただけに、ラフィンは何もいえない。

「いがみ合いながらも同じ学校に通って、同じ授業を受けて、同じ友達が出来ちゃって…嫌でも同じ思い出が沢山出来て…」

「そして…」、と、未だ眠り続けるダインに視線を落とした。「…同じ人を好きになった」

「…ディエル…」

「周りには誰もいないし、こんな状況でしか話せないけど…」

照れ隠しか、ダインの寝顔をジッと見つめたまま、彼女は続けた。「…あなたのこと、そこまで嫌ってないわ」

「…え?」

「“こういうの”もアリだと思ってる」

“まんざらでもない笑顔”というのは、いまのディエルのような表情のことをいうのだろう。

仲違いしているように見えて、実はお互いのことを憎からず想っている。

かつてダインが指摘したことをディエルがようやく認める形となったわけだが、「ラフィンはどうなの?」、というディエルの質問に、彼女はたじろぐばかりだ。

「い、いや、そんなこと突然きかれても…」

ラフィンの反応はディエルも予想していたのだろう。

「ほんと、どんなときも素直になれない奴よね、あなたって。私相手だと特にそう」

呆れたようにいうと、ラフィンの表情がムッとしたものになる。

「うるさいわね。これが私なの。文句ある?」

開き直る彼女に、「いーえ?」、ディエルも勝気に返した。「ガンコエンジェだものね、あなた」

「ふんだ」

ディエルにべっと舌を出すラフィン。

またお互い軽く睨みあっていたものの、やがてどちらからともなく笑い出す。

そこでとうとう話すことがなくなってしまい、また静かな…それでいて穏やかな間が訪れた。

ダインはまだ起きる気配がなく、彼の眠気に当てられたのか、いつの間にかラフィンもディエルも眠りに落ちてしまう。

空はいつの間にか薄暗くなっており、緩やかに夜が訪れた。

バリアの中から聞こえるのは、三人の安堵しきったような寝息だけ。その光景だけを見れば、とてもここが毒沼の散在する島だとは思えない。

仰向けで眠っていたダインの胸には、ラフィンとディエルの腕がある。

彼を守るようにして身を寄せ合っていたエンジェ族とデビ族の二人は、そのダインの胸の上でお互いの指を絡めるようにして、手を握り合っていた。

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