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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百四十節、素直な謝罪

『破魔一刀流』の広い道場の中央に座らされていたダインは、こちらに向け“土下座”をする総勢四十名もの門下生を前に困り果てていた。

「え〜、と…?」

これは一体なんの儀式だろうと困惑しているところで、彼らから示し合わせたかのような声が響き渡る。

「ごめんなさいッ!!!」

腹の底からの謝罪の声だった。

「へ…?」

ダインはぽかんとしており、背後に並ぶシンシア、ニーニア、ティエリアの三人も困惑顔を晒している。

彼女らのさらに後ろにいたリィンだけは笑いを堪えており、シンシアの母マミナは無言のまま頷いていた。

「あの、これは一体…」

ダインが誰にともなく質問すると、

「この間の件だよ」

とリィンがいった。「お父さんがダイン君を呼びつけて、痛めつけようとしたじゃない」

適度に悪意が散りばめられた台詞だが、事実だ。

「うぐ…」

土下座()()()()()()()ゲンサイからうめき声が漏れる。

「みんな申し訳ないと思っていたんだよ。だからこうしてダイン君に謝ってるの」、とリィン。

「いや、割と古い話じゃ…っていうかいつまで引きずってんすか」

ダインは覚えてないわけではないが、もうとっくに終わった話だと思っていた。

「古いけど、門下生の人たちにとってはまだ現在進行形で続いていたんだよ」

笑いを堪えつつ、リィンはシンシアのほうをチラリと見る。「この子、まだギクシャクしてたみたいだからねぇ」

「え?」

ダインはついシンシアを振り返ってしまう。彼女もこの展開は予測できてなかったのか、固まっていた。

「少しは門下生の人たちに対する対応が戻ってきたみたいだけど、奥底ではまだ許せない部分もあったんだろうね。練習試合のときいつもシンシアがお弁当作ってくれるんだけど、目に見えておかずの量が減ったからなぁ」

それが門下生たちの喫緊の問題だと、リィンはいった。

「あう…」

シンシア本人も自覚はあったのだろう。気まずそうな表情で俯いている。

「だから形式的なものでもいいから、みんなシンシアの前でちゃんとダイン君に謝罪したかったみたい。でもお父さんもなかなかガンコだから、見かねてお母さんが呼んできてくれたってことだよ」

ね?、とリィンが顔を向けた先にはマミナがおり、彼女は頬に手を添えたまま困った表情でいた。

「まったく、夫のガンコさったらないんだから。いまのいままでダイン君に謝罪がなければ、シンシアがお世話になったお礼もしてないだなんて、格式ある破魔一刀流の師範代以前の問題よ。人として重大な欠陥があるとしか思えないわ」

マミナの指摘にゲンサイは胸がえぐられるばかりで、いまや苦渋の表情を浮かべている。

「まぁそういうわけだから。シンシア、満足してくれた?」

リィンにきかれたシンシアはくぐもった声を漏らし、顔を赤くさせたままダインとニーニア、ティエリアを俯き加減で見回している。

根深い女だと思われたかもしれないと考えたのだろう。

「も、もういいから」、と、シンシアは門下生の彼らに向けていった。

「もう気にしてないよ。ちゃんとダイン君に謝ってくれたんだから、これでもうこの話はおしまい。ね?」

手早く打ち切ろうとしたシンシアだが、

「じゃ、じゃあ、玉子焼き以外のおかずも…」

ゲンサイの一番弟子、グリードが遠慮がちに顔を上げた。

「う、うん。ウィンナーだよね」

「か、唐揚げは…」

そうきいたのは、グリードの後ろにいた男、ガイーダだ。

「唐揚げもね、うん」

「スパゲティも…」

恐る恐ると、また別の男、ジェイドが顔を上げる。

「も、もー分かったよ!」

なんともみみっちぃ話をしていると思ったのか、シンシアは痺れを切らしたように叫んだ。「ウィンナーも唐揚げもスパゲティも、ミニハンバーグもちゃんとつけるから!!」

とそこで、門下生たちから「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」、と歓喜の声が沸きあがった。

全員が手を振り上げて喜びを表現しており、ガッツポーズしている者までいる。

みんな心の底から喜んでいるようで、シンシアはますます顔を赤くさせていく。

彼女にとっては、まるで友達に身内のだらしないところを見られたように感じていたのだろう。「も、もぉ…」、といって頬を膨らませている。

「はいはい! それじゃそういうことだから、みんな稽古を続けて!」

リィンが号令をかけると、彼らは「はいっ!!」、と気持ちいいほどの返事と共に各々打ち込み稽古を始めた。

木刀を打ち付けあい、威勢のいい掛け声が響き渡る。以前のような活気溢れる道場に戻ったようだ。

そんな中そそくさと定位置に移動するゲンサイは、その厳つい顔つきに似合わないほどしょげた顔をしている。腕を組んではいるが、威厳のようなものはまるで感じられない。

夫の気落ちした様を見ていたマミナは、「よし、鼻が折れたかな」、そこでようやく満足げな笑みを浮かべた。

「ありがとうね、ダイン君」

「え、いえ、俺は何も…っていうかこれでいいんすか」

「オッケーよ」

人当たりの良さそうな笑みのまま、「じゃあ厨房に行きましょうか」、と両脇にいたニーニアとティエリアの手を掴んだ。

「この間は私が留守中に夫が勝手に暴走したから、ろくにおもてなしできなかったんだもの。エーテライト家の秘伝の調理術を見せてあげる」

意気込むマミナに、「い、いいのですか!?」、滅多にない機会だと、ティエリアは目を輝かせた。

「飾り包丁やお出汁の作り方など教えていただいても…」

「ええ、もちろん。シンシアからあなた達は料理上手だと聞いているけど、私だって負けてないわよ?」

そう不敵に笑ったマミナは、「こう見えて栄養士なの、私」、と続けた。

「そ、そうだったんですね!?」

ニーニアは驚愕していった。「シンシアちゃんの料理が美味しいのは、ちゃんと裏づけがあったんだ」

話を振られたシンシアはまだ顔が赤いものの、「ま、まぁ…」、恥ずかしそうに頷いた。

「ふふ。じゃあ行きましょ。ほら、ダイン君も」

マミナに誘われダインも厨房へ行こうとしたが、

「あー待って」

何故かリィンが止めた。「悪いけど、ダイン君はまだもう少しだけ貸して欲しい」

「え」

シンシアがぴくりと反応する。

「まさかまた何か暴力的なことを…」

彼女は警戒しだしたが、「違う違う」、リィンは手をひらひらと振って否定した。

「ちょっとお話するだけだよ」

「お話?」

「うん。あ、念のためにいっておくけど、シンシアが考えてるような“余計なこと”じゃないから安心して」

それだけでシンシアには何の話か伝わったようで、また顔を赤くさせていく。

「余計なことって?」

ダインがきくと、「な、何のことだろうね?」、シンシアはマミナたちの背中を押していった。

「ほ、ほら、みんないこ!」

逃げるように道場を出て行こうとするが、「あ、で、でもお姉ちゃん」、とシンシアが振り返ってきた。

「ほんとにちょっとだけだよ。すぐに様子見に戻るから」

余計なことを言い出しかねないと思っていたのだろう。リィンは「はいはい」、と笑った。

そのままマミナ含むシンシアたちは道場を出て、渡り廊下を歩いていく。

彼女たちの背中が見えなくなってから、リィンはダインを見た。

「ちょっと外に出ようか」、そういって道場の外を指差す。



「でもほんと、ようやくダイン君が来てくれたよ」

道場に面した軒下に出たとき、リィンがダインにいった。「この間のことでシンシアもなかなかここに呼べなかっただろうし、門下生のみんなも気まずかっただろうし。ね?」

シンシアにも門下生たちにも、ダインに対する負い目があったのだろうと、リィンは続ける。

確かに、ダインが初めてこの道場に訪れたときの門下生たちの殺気立った雰囲気といえば、凄いものがあった。

初対面なのに初めからダインを敵視しており、シンシアにつく悪い虫だと彼らは考えていたのだろう。

痛い目にあわせてやろうと、誰一人として耐え切れた者はいなかったはずの連撃戦を仕組んだまではいい。

しかし蓋を開けてみればダインはその試練を軽く飛び越えてしまい、リィンとの対決を経て姉妹喧嘩が勃発という前代未聞のことが起きてしまった。

道場は滅茶苦茶になるしシンシアは怒り狂った挙句気を失ってしまったし、その後シンシアと門下生らとの関係も一変したこともあって、シンシアは気軽にダインを実家に呼べなくなってしまったのだ。

「お母さんが行かなかったら、私が出向くところだったよ」

リィンはそういってやれやれとした仕草を見せた。「みんなまだまだ子供だよ、ほんと」

「影の首謀者がそれをいいますか」

ダインがニヤリとしてリィンにいうと、彼女は否定も肯定もせずただ笑うだけ。

「ありがとうね」

改めて、といった感じにダインにお礼をいった。

「ありがとう?」

エーテライト邸に訪れたことかと思いきや、

「シンシアの迷いを断ち切ってくれて」

どうやら違ったらしい。

「シンシアの“中”に入るとか、相変わらずダイン君は私の全く予想できないことをやってのけてるみたいだけど」

どうやら奇襲戦でのことはシンシアから一通りきいていたらしい。

「い、いや、別に意図してやったわけじゃ…」

そうダインがいうと、「あはは、分かってるよ」、とリィンは笑い声を上げた。

「でも偶然にしろ、ダイン君のおかげでシンシアの迷いは消えた。大切な人を守りたいという念がこもった一太刀は、私ですら受け止めきれずに地面に崩れ落ちるほどだったよ」

「ほんとに強くなったよ…」、というリィンはどこか感慨深そうだ。

話の先がなかなか見えてこないので、「あの、それで話っていうのは…」、ダインから振った。

「ああ、それはね…」

リィンが話し出そうとしたところで、また道場から誰かがふらりとやってきた。

大きな胴着をはためかせながら現れたのはゲンサイだった。

道場からはまだ元気な掛け声が聞こえる。どうやら彼らには稽古を続けるよう言い残し、自分は休憩に入ったようだ。

「ふぅ」

そう息を吐く彼は湯飲みを手にしており、もっさりとした動作で縁側に腰掛ける。

「ため息なんか吐いちゃって、どうしたの」

リィンが笑いながら父に声をかけた。「お爺ちゃんみたいだよ」

「ワシももう年だ。爺にもなる」

ゲンサイは少し疲れたような表情でお茶を啜り、中庭から青空を見上げた。「年を取れば取るほど、月日の流れというものは早く感じる。お前やシンシアがよちよち歩きしていたのが、ついこの間のことのように感じるよ」

その台詞ですら、老人を思わせるような口ぶりだ。ダインに顔を向けたリィンは、薄く笑いながら肩をすくめて見せる。

「当時のワシは大陸最強の剣士だともてはやされていてなぁ」

若人のリアクションなど意に介さず、ゲンサイの語りは続く。「名だたる剣豪や武道の達人を悉く薙ぎ倒し、当時の国王には一目置かれ、あらゆる称号と武勲を総なめにしたこともある。首都のお膝元であるこの地に道場を構えるほどにまでなったが、どうあっても年というものには勝てんよ」

一呼吸置き、ゲンサイの語りはまだ続く。「妻のマミナと契りを結び、リィンとシンシアという子宝にも恵まれた。目に見えて才能を開花させていくコヤツらの成長ぶりはワシも目を見張るほどで、反対にワシは若い頃に無茶をした反動がいまになってぶり返してきたよ。目が悪くなり、足腰は痛いし、肩も上がりにくくなった。何より反応が遅れるようになってしまった」

ネガティブな発言が目立つが、「でもそのときの頑張りがいまに繋がったんでしょ?」、リィンが笑っていった。

「子供がいて、お父さんに憧れてる人たちがたくさんいて、門下生の人たちに囲まれてる。孤独な人が多いこの世の中、お父さんは私から見ても羨ましい人生を送っていると思うな」

「その通りっすね」

ダインも同調する。「やりたいことがなかなか見つからない時代ですから。道場という地盤を持つ親父さんは下手なサラリーマンよりも強いと思いますけど」

そんな二人の声に、「青二才が、知った風なことをいいおって」、ゲンサイは鼻を鳴らしてお茶を飲んだが、その横顔はどこか嬉しそうだ。

が、その笑みもすぐに引っ込み、

「…なぁ、ダインよ」

庭木の一本を見つめたまま、ゲンサイはダインに声をかけた。

「シンシアの“中”に入り、あやつの根底を垣間見たであろうお主に問いたい。あやつの…シンシアの奥底に眠っているという真の力とは、一体何なのか」

「真の力?」

「うむ。シンシアから奇襲戦なるイベントの流れについては概ね聞いた。しかしその中で、どうにも気がかりなことがあったのだ」

ジグルが服用し続けた強化薬“パンドラ”の効果を一瞬で消し去ったという、シンシアの力。ゲンサイはそこに興味を抱いたようだ。

「私も気になってたんだよね」

ダインに来てもらったもう一つの理由がそれだと明かし、リィンはいう。「以前私の聖剣が砕かれたことあったんだけど、あのときに感じたものと同じ力だと思うんだ」

「う〜ん…」

ジグル戦のことを思い返し、ダインは首を捻る。

「本人にも伝えましたが、正直いってよく分からない力でした。再現しろといわれても、きっとできないと思います」

そう答える彼は、「でも」、といって続ける。「あの時は何故かできると思ったんすよね。この力を使えば、どんなものも破壊…いや、“斬れる”と思った」

「…斬れる?」

ゲンサイの顔がハッとしたように上がる。「破壊でも粉砕でもなく、斬れる…と?」

「ええ。斬れるかもしれない、じゃなくて、斬れるんだと。ちょっと微妙な表現ですが、細糸を目の前にハサミを持っているような感じ…でしたかね」

「へぇ〜」

リィンは興味深げな表情をゲンサイに向けた。「お父さん、これはいよいよ…?」

「そう、だな…」

ゲンサイもリィンも、何か思い当たることがあるようだ。

「あの、そのことで何か…?」

ダインが尋ねるも、「まだ憶測の段階だからはっきりとはいえん」、ゲンサイはそういって言及を避けた。

「しかしこれだけはいえる」

と、ダインに真っ直ぐな目を向ける。「あやつの力は、必ずやお主の…ダインを助ける“刃”となってくれるであろう」

ゲンサイは何か重要なヒントをダインに与えたかもしれない。

しかしダインには何のことか分からず、「は、はぁ…」、曖昧な返事をするしかなかった。

「抽象的なことしかいえなくてごめんね?」、とリィン。

「いや、それは別にいいんすけど…」

そこで会話が区切られ、二人が道場に戻ろうとした気配を感じ、「あ、そうだ」、ダインは二人を止めた。

「ちょうどいい。お二人に見てもらいたいものがあるんすよ」

そういってダインがポケットから取り出したのは、自身の携帯だ。

「おや、何かな?」

興味が向いたリィンとゲンサイに、早速“例の映像”を見せる。

それはつい先ほどまでシエスタが編集していた、七竜を前に奮闘するシンシアたちの戦闘記録だった。

「えぇ!? すごいねこれ!?」

一通り見たリィンが声を上げる。「やっぱりシンシアってものすごく強くなってる。さすが自慢の妹だよ〜。ね? お父さん」

話を振られたゲンサイは、「ああ、いや、うむ、そうであるが…」、やや不思議そうにしたまま、ダインに顔を向けた。「しかしダインよ、つまりどういうことだ?」

門下生たちの勇ましい掛け声が道場から聞こえ、誰の人影もないことを確認し、「実は…」、ダインは七竜救出作戦のことを二人に伝えた。

危険を伴うかもしれないその作戦に、シンシアを候補の一人として加えたい。

シンシアの独断ではなく、保護者である二人の賛同を得たいと伝えたのだが、

「何事も修行。いいと思う!」

リィンは快諾した。

「…駄目だな」

しかし案の定、ゲンサイは難色を示す。「強くなったとはいえ、あやつもまだまだヒヨッコ。低レベルのモンスターならまだしも、七竜など危険でしかないだろう」

親として当然の意見だろう。

「ダイン君がいるから大丈夫だよ?」

リィンは助け舟を出してくれるが、「シンシアが何か下手を踏むかも知れんだろう」、とゲンサイはなかなか折れない。

「気構えや何事にも動じぬ精神力を鍛えてからだな…」

「ダイン君はお父さんより強いし、シンシアだって素直に謝れないお父さんよりはしっかりしてると思うけどなー」

「うぐ…! こ、これは心情的な問題なのだ! ダインがどうの、シンシアがどうのということではない!」

「もう理論が破綻してるし…」

ゲンサイとリィンが揉めだしたところで、誰かの足音が聞こえてきた。

「もー! いつまでダイン君縛り付けてるの! もう時間切れだよ!」

そういって怒った顔を見せてきたのはシンシアだ。

「シンシア、駄目だからな」

そのシンシアに向け、ゲンサイは真面目にいった。

話の流れが全く分からないシンシアは、「へ?」、と素っ頓狂な声を上げる。

「救出作戦のことだよ」

笑いながらリィンが補足する。「今日の朝、七竜と戦ったんだよね? そのときのかっこいい映像をダイン君から見せてもらったけど、それでもお父さんは駄目だって」

「ああ、駄目だ」

ゲンサイは腕を組んで頑固者の一端を覗かせた。「驕りは自身の足元をすくう。未熟なお前にはまだ荷が重過ぎる」

そうはっきりといわれては、さすがのシンシアも黙っているわけにはいかなかった。

「そんなのやってみなくちゃ分からないじゃない」

ムッとして反論するも、「相手はあの七竜なのだろう? 一つの失敗が命取りとなる。やってみて駄目だったでは取り返しがつかん」、ゲンサイは至極真面目に返した。

「大丈夫だもん!」

シンシアはまた強く抵抗したが、「ふっ、ヒヨッコが」、ゲンサイは余裕たっぷりに笑う。

「そういうことはワシより強くなってからいえ」

「お父さ…!」

さらに怒った顔になってシンシアが詰め寄ろうとしたが、

「証明できればいいんだね?」

妹を制しつつリィンがいった。「お父さんより強いことが証明できれば、作戦の参加は認めると。そういうことだね?」

「かかっ! できるものならな!」

ゲンサイは豪快に笑う。「いくら年老いても、親と子の差はそう易々と縮まるものではないわ!」

「ふ〜ん」

含みのある返事と共に、リィンはシンシアに顔を向ける。「どうする?」

主語のない問いかけだが、そこは姉妹。シンシアはリィンの言わんとしてることが伝わったようで、「やるよ!」、真剣な表情で頷いた。

「お父さん、模擬戦を申し込むよ」

「はっ! いいだろう!」

弟子に木刀を持ってこさせ、ゲンサイは立ち上がった。

「その思い上がった性根を叩きなおしてやるわ!」

「そっちこそ!!」

道場は門下生が使ってるということで、決戦場はそのまま中庭で行われることとなった。

草履を履いた二人は縁側から中庭の中央へ向かい、お互いに体を向け合う。

「さぁ、どこからでもかかってくるがよ…い?」

威勢良くゲンサイがいおうとしたが、シンシアの隣にリィンが立っているのを見て顔に疑問符を浮かべた。

「…何故リィンがそっちに立っている?」

「え? いやだって、シンシアは仲間と一緒に七竜に挑むんだから、同じ状況を作ってるだけだよ」

リィンはニヤリと笑ったまま続けた。「つまりお父さんは七竜役。私たちは討伐者側だよ」

「い、いや、それではワシより強いという証明には…!」

「なるよ。シンシアがお願いしているのは救出作戦のことだけなんだから。要は勝てばいいの。ね? シンシア」

「うん!」

強く頷いたシンシアは、聖剣“ムンブルグ”を出現させる。そしてほぼ同時にリィンも聖剣“ミストルティン”を出現させた。

「ちょ…は、話が…」

聖剣使いの姉妹二人を前に、ゲンサイは動揺を浮かべる。「せ、聖剣とはどういう…」

「いくよ、シンシア!」

リィンの掛け声と共に、二人はゲンサイへ一直線に駆け出す。

「ちょ、ま…ちょまああああああああぁぁぁぁぁ!?」

ゲンサイの悲鳴と破壊音が鳴り響いたのは、ほぼ同時だった。

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