百三十四節、作戦会議
「今週末にしましょうか」
突然シエスタはいった。
「何をだ?」
ダインが尋ねると、「プノーの救出よ」、紅茶の入ったマグカップを優雅に傾けながら彼女は答える。
夕食後のホッと一息ついた瞬間だった。ダイニングルームでシンシアたちと明日の予定を話し合っていたところ、シエスタが突然ねじ込んできた。
「ちょ、ちょっと早くないですか」
少し驚いた様子できいたのはシンシアだ。「今週の始めにドラゴンが三体討伐されたばかりなのに…」
急ぎすぎではという彼女の意見に、「だからこそよ」、シエスタはいった。
「ガーゴは世論の批判を受け、信頼回復に努めているから動けない。こっそり事を済ますにはいましかチャンスはなさそうだもの。鉢合わせたら絶対に面倒なことになるからね」
確かにその通りだ。しかし救出作戦を開始するには、こちらも色々と準備が要る。
「まだ移動手段などが決まってないのでは…」
ティエリアが指摘すると、「その問題については本日解決いたしました」、サラがいった。
「船よりも安全に、かつ確実にたどり着ける方法が見つかったのです」
「俺何もきいてないんだけど…どうやって行くんだよ?」
「この子ですよ」
と、サラはおもむろにしゃがみ込み、そこにいた緑色のドラゴン…シャーちゃんをテーブルの上に置いた。
「シャー!」
ダインたちの注目を受け、彼は得意げに鳴き声をあげる。
「ダインは触手を使って魔法力を相手に流し込むことができる」
シエスタがいった。「信頼関係が結ばれているのなら、ヒトでなくても逆流が可能だということがお昼の時間に証明されたわ。そしてこの子達は魔法力の影響を受け、成体となることができる。お昼のときのように、まとめてダインたちを運ぶことが出来るのよ。シャーちゃんは飛ぶのが得意だものね?」
シエスタに聞かれ、彼はまたシャーと鳴いた。
「空を飛べば海がいくら荒れてようが関係ないし、ティエリアちゃんかラフィンちゃんならダインを抱えて飛べるでしょうが、それも大変だし」
「いや、センタリア海域の中は四六時中暴風域の中みたいなもんだってきいたぞ? んな危ないところに連れて行けないよ」
ダインはすぐさま反論した。「風があって大雨も降ってるだろうし、何百発と雷が落ちる地点もあるらしいし、危険すぎる」
その彼の声に、「何を仰います」、サラはくすりと笑った。
「ダイン坊ちゃまには自然災害をものともしない、とても頼りになる方々がいらっしゃるではないですか」
シンシアたちのことをいっているのだろう。サラは続ける。「ニーニア様のいらっしゃるリステニア工房では、あらゆる災害に対応した便利なアイテムを開発してらっしゃいますし、ティエリア様は絶対無敵のバリアを張れる。三人パーティを組めるのですから、プノー戦で必ずご活躍になられるシンシア様も安心して赴けるというものです」
「心配なのはシャーちゃんだよ」
ダインの目の前で胸を反らせているシャーちゃんの小さな頭を指で小突き、ダインはいう。「目的地は七竜のいるところだ。もしコイツが何らかの影響を受けたりしたら厄介だろ。それについこの間まで眠らされていたんだし、ずっと飛び続ける体力も、飛行技術もまだ取り戻せてないだろ」
彼の身体を気遣ってダインがいうものの、「シャ!」、彼は短い鳴き声と共に翼を広げた。
そのままトットットッと走り始め、助走と共にテーブルを蹴った。低空飛行から上昇し始め、やがて天井近いところで部屋の中をグルグル回りだす。
「おー! そのからだでも飛べるんだね!」
ルシラはいい、鳴き声をあげるピーちゃんらと共に彼を追いかけていった。
どの障害物にも当たらないよう器用に飛び回っていた彼は、やがてダインの頭の上に着地する。
「シャー!」
そしてまた鳴き声。心配には及ばないということを、彼は体現して見せたのだろう。
「シャーちゃんはやる気のようだな」
リビングの端で新聞を広げていたジーグが笑う。「彼には送り迎えのみを任せればいい。現地に着いたら転移シールで一度帰ってもらって、プノーを救出できたらそのシールを使って呼び寄せたらいいだろう」
「いや、でもなぁ…」
まだ難色を示す彼に、「みんなあなたのことが大好きなのよ」、微笑みながらシエスタはいった。
「大好きな人の力になりたいと思うのは自然なことだし、それにダインが自分たちの仲間を助けに行ってくれるのだから、どんなことでも協力したいって思ってるのよ」
いつの間にはダインの周囲にはシャーちゃん以外のドラゴンたちが集まっており、ダインに向けて訴えかけるように鳴き声をあげている。まるでシエスタの意見に同調しているかのようだ。
「ガーゴが動き出す前に私たちは動かなければならない。手段を選んでいる暇はそんなにないと思うけど」
シエスタの意見は正論だった。一刻も早く残りのドラゴンを助けて欲しいというピーちゃんたちの心情を思えば、こうしてるいまですら時間は惜しいということだろう。
「分かったよ…」
ダインは自分の頭に乗っていたシャーちゃんを両手で掴み降ろし、視線を合わせた。
「頼めるか?」
きくと、彼は嬉しそうな声でまたシャーと鳴いた。
「るしらも何かできることないかな!?」
やや興奮した様子でルシラがダインの側まで寄ってくる。「るしらも何かだいんの役に立ちたい!」
「ルシラはそのままでいいよ」
ダインは笑って彼女の頭にぽんと手を乗せる。「いつも通りに、美味しいご飯を作ってくれたらいい。正直、毎日楽しみにしてるんだ」
彼にそういわれ、ルシラは途端に満面の笑みになって、「うん!」、と本当に嬉しそうに頷いた。
「移動手段は確定として、残る問題は同行者の選定ですね」
サラがいい、シンシアたちはピクリと反応する。全員の視線がダインに注がれており、そわそわしだした。
「まぁこちらのほうは、そう安直に決められるものではありませんがね。ダイン坊ちゃまの心配ももっともです」
サラが続ける。「七竜は間違いなく危険なモンスターなのですから。本来であれば、百戦錬磨の軍人が部隊を編成して挑まなければならない相手なのです。お嬢様方の親御さんの心配もございますでしょうし、説得に失敗したか、もしくは黙って事を進めようとした方もいらっしゃるのでは?」
サラの指摘は鋭かった。シンシアもニーニアもティエリアも顔を俯かせており、気まずそうにしている。その反応からして、誰も親に救出作戦のことを話していないのだろう。
相談しなかったのは、きっと話しても反対される。強行しようとしても、決行日になって最悪幽閉されることも考えられるからに他ならない。
やや空気が重たくなったが、
「というわけで」
シエスタはぽんと手を叩き、明るくいって注目を集めた。「親御さんたちの心配を取っちゃいましょうか」
「? 心配を取るって…?」、ダインが尋ねる。
「親が子供を心配するというのは当たり前な話なんだもの。危険な場所に行くというのならなおのこと。でもこの世の中、日常生活を送るのにだって危険はいっぱいだわ」
紅茶を飲み、シエスタは持論を述べる。「外を歩いていたら誰かに襲われるかもしれない。何か事故に巻き込まれるかもしれない。人攫いにあってしまうかもしれないし、偶然が重なり合って思いがけない災害に見舞われてしまうかもしれない。あげたらキリがないけれど、でもそんな中でもあなたたちのご両親は学校に送り出している。どうしてかしら?」
はい、シンシアちゃん、と、シエスタは彼女に答えを求める。
「え、え〜と…事件や事故に巻き込まれる可能性が低いから…とか?」
「そうね」
シエスタは頷く。「可能性が低いから、ご両親はあなたたちを外に出している。学校に通わせている。つまりそれほど心配というわけじゃないのよね。そもそもそういう心配を排除していけば、究極として家の中に閉じ込めることになっちゃうんだもの」
再びお茶を飲んで区切りをつけ、「でも家の中にだって危険はあるわ」、突然始まった彼女の講義は続いた。
「キッチンには刃物があるし、お風呂場には溺れてもおかしくないほどの水があるし、階段だって針だってある。心配すべき危険は家の中にもたくさんあるのに、親御さんたちはそれほど心配してないのはどうしてかしら?」
はい、ニーニアちゃん、と、今度はニーニアに回答を求めた。
「えと…家の中の危険は、回避しやすいから…かな」
「その通りね」
またシエスタは笑顔になって頷いた。「気をつけて回避できる程度の危険なら心配じゃなくなる。いまでこそダインが料理するのを私は平然と見ていられるけど、物心がつかないほどの子供だったら、この子が刃物を持っただけで叱り付けていたわ。大人と違って子供は危なっかしいからね」
そこでシエスタは最後にティエリアに顔を向けた。「ティエリアちゃん、子供と大人の差って何かしら? 経験以外で」
「え? け、経験以外で、ですか」
「そう。子供の頃は危なっかしくて見てられなかったけど、大人に近づくにつれ放置しても安心だと思うようになったのはどうしてかしら」
少し考えたティエリアは、「でしたら…体の大きさ…いえ、力の差、でしょうか? 刃物を楽に扱えますし、危険なものは察知することができますから」、と答えた。
「そうね」
これもまた正解だったのか、シエスタは頷く。「つまり七竜を相手にしても、シンシアちゃんたちなら大丈夫だと思わせればいいのよ。七竜を、楽に回避できる程度の危険にしちゃえばいい」
「要はシンシアたちが強いってことをちゃんと分からせればいいってことか?」
ダインが単純化して尋ねると、シエスタは並んで座るシンシアたちの肩をまとめて抱き寄せ、ええ、と頷いた。
「仮にシンシアちゃんたちの親が私だったら、救出作戦に参加したいっていっても絶対に認めなかったでしょうね。子供は親より弱いものだという先入観があるし、何より可愛い子たちだし。でもこの子たちが自分よりも強かったら? 七竜を相手に堂々とした立ち振る舞いが見られれば、安心だと思うんじゃないかしら?」
確かにシエスタの言うとおりだろう。
しかしそれをどう証明するというのか。七竜を相手に、という辺りも現実的ではない。
「説得できればいいのよ。現実に七竜を相手にした映像を見せて、ね?」
「現実に…?」
母親のいいたいことが少し分からなくなってきた。
「つまりどういうことだ?」
ダインが率直に尋ねるが、彼女は何故か顔を横に向ける。
視線の先にいたジーグに、「あなた、返答はどうだったの?」、そうきいた。
自身の通信機に視線を落としていたジーグは、「うむ」、と頷く。
「使用許可が下りた。明日の午前中だけ使って良いそうだ」
「そう。良かった」
シエスタはシンシアたちに笑顔を向ける。「ということで、明日はみんなで遊びに行きましょう」
勝手に話が進んでいき、「ど、どこへですか?」、彼女たちは疑問符を浮かべる。
「ニーニアちゃんのお家の近くよ。といっても、地上になるからお家よりは遠いけど」
というシエスタの返事を聞いて、何か思い当たる節があったのか、「あ」、とニーニアが声を出す。
「まさか…“試験場”のことですか?」、そうきいた。
「ええ、そうよ」
「もう完成したんだ…」
「ニーニア、何の話だ?」
ダインがきくと、彼女はすぐに説明してくれた。「最近流行りだしてるバーチャルリアリティ技術を使った空間のことだよ」
「バーチャル…仮想現実ってやつか?」
「うん、そう。そういったアトラクションを作れないかって工房に依頼が来てたみたいで、せっかくだから大規模なものを作ろうって、トルエルン大陸の地上にある砂漠地帯に試験場を設置したらしいよ。そこは現実にあるかのようにリアルで、でも何でも作り出すことが出来る場所で…ラビリンスのようなものだと思ってくれていいかな」
建設予定地を見せてもらったと彼女は続け、「システムも機材も全く新しいものだったから、完成は来年だってきいてたんだけど…」、少し驚いた顔で呟いた。
「まだ枠組みの段階で、実用化にはもう少しかかるそうだがな」
ジーグがいってきた。「しかし土台は出来上がったから、そのテストプレイも兼ねて触ってみて欲しいそうだ」
「ラビリンスよりもゲーム性が高いから、いろんなことをして遊べるはずだよ。動物園を再現したり、水族館もパッと出現させることができるし」、とニーニア。
きいている限りだと確かに面白そうだ。
しかし先ほどのシエスタの話とどう繋がるというのか。
「それで、その試験場と七竜との戦闘っていうのはどういうことなんだ?」
シエスタに顔を向けると、「ニーニアちゃんがいったでしょ。何でも作り出すことができるって。ラビリンスみたいだって」
その返事を聞いて、ダインの脳裏には少し前のことが浮かんだ。
「…まさかその試験場の中に七竜を出現させようと?」
ダングレスの幻影と対峙したときのことを思い出す。
「まだ五匹しかいないけど、ダインのおかげでデータは揃ってるからね。残骸に組み込まれたデータを基に、彼らそのものを再現することができるらしいの」
「再現…す、すごいですね!」
ティエリアは目を丸くさせてニーニアを見る。
「七竜まで再現できるのは私も初めて聞いて…本当ですか?」
ニーニアはシエスタに目を向ける。
「あなたたちにはいわなかったけど、ギベイルさんのご厚意で試験場の中を見させてもらったのよ。その中で七竜が暴れまわっていたわ。討伐時の動きとほぼ同じだったわね」
試験場の中で七竜を再現し、その戦闘の映像記録を自身の親らの説得材料にしろとシエスタはいいたいのだろう。「模擬戦のアトラクションも組み込めるそうだから、実際に戦うことは可能よ。それに実体がないから攻撃を受けても痛くないし怪我もしない。安全面は確保されている」
絶対に安全だとお墨付きの上で、「どうする?」、とシエスタは彼女たちにきいた。
「出現するモンスターは現実と一緒だから、怖いかもしれないけど…」
「やります!」
シンシアは両手を握り締めてテーブルに身を乗り出した。「七竜の試練をクリアすれば、お父さんもお母さんも認めざるを得ないはず…ね、ニーニアちゃん、ティエリア先輩!」
「う、うん。そうだね!」
「はい!」
早くも七竜との戦闘をイメトレし始めたのか、彼女たちから相当な気合を感じる。
「う〜ん…」
しかしダインだけは微妙な表情で腕を組んでいた。
彼の様子から何を考えているのか読み取ったのか、「あら、あなたは乗り気じゃないの?」、シエスタがきいた。
「はっきりいって心配だよ」
ダインはいった。「その試験場だかで再現する七竜はオリジナルそのものなんだろ? 強さもそのままなんだとしたら、怪我はないにしても危険なんじゃねぇかな」
「危険…とは?」とティエリア。
「精神的なさ」
ダインが想像したのは、暴れまわるドラゴンのブレスに翻弄されるシンシアたちの姿だった。
巨大な足に踏みつけられ、横なぎに払ってきた尻尾の直撃を受け、あっという間にゲームオーバー。
「試練のせいで、逆にトラウマを植えつけられちまうんじゃ…」
「が、頑張るよ! お姉ちゃんと特訓してきたもん!」
シンシアは首を横に振って改めて気合を込め直し、ニーニアは何度も頷く。「わ、私も、戦闘用に最新の補助アイテム作っているし…!」
「私も有事の際のイメージトレーニングは欠かせないようにしておりますので…!」
彼女たちがこれほどやる気を見せるのは、ダインの役に立ちたいという想いがあってのことだ。
しかしそれでもダインは曖昧な返事しか出来ない。
「俺は参加できないからなぁ…」
彼女たちがどれだけピンチに陥ったとしても、ダインは見ていることしかできない。
「え、ど、どういうこと?」
てっきり彼も一緒に戦闘に参加すると思っていたのだろう、彼女らは驚いた表情で固まった。
「そもそも親御さんたちを説得するために七竜と戦うんだろ? 俺がいちゃ意味ないよ」
「ですね」
サラがいった。「シンシア様方のお力だけで七竜の試練をクリアしなくては、保護者の心情としても安心はできませんから」
ダイン側の意見は納得せざるを得ないものだった。
ダインの力を借りてクリアするのでは、説得材料にすらなりはしない。
「怪我とかそっち方面の心配はなさそうだけど、パラメータを弄ってない七竜は、ドーピングしてたジグルですら手こずった相手だ。奴らに蹂躙されるのは精神的に色々とまずいような気がするんだけどさ」
シンシアたちは、また荒れ狂う七竜の映像が脳裏を過ぎったのか、一瞬たじろいだ表情を浮かべる。
それでもぐっと両手を握り、「が、頑張るよ!」、といった。
「足手まといになりにダイン君についていくわけじゃないもん。ちゃんとダイン君の助けになるために、私たちはついていきたいんだから」
ニーニアとティエリアも同意を示し、何度も頷いていた。
しかし彼女たちがどう言おうとも、ダインの不安は払拭しきれない。強さ関係なく、大切な人たちであるから、できるなら危険なことはやめて欲しいのだ。
だがそうはいってもシンシアたちの頑張りを否定してはいけないし、逆の立場なら本人がどう思おうとも協力を申し出ていただろう。
「絶対に無理はするなよ」
だからダインはそういった。「無理そうならすぐに逃げてくれな。俺のためにって考えてくれるんなら、まず自分の体と心を大切にしてくれ。俺はそれが一番嬉しいから」
「分かった!」
ニーニアがいい、「決まりね」、シエスタは笑顔になって、ジーグに明日の朝に出発することを告げた。
「るしらもいっていいの?」
両手と頭にドラゴンたちを抱えながら、ルシラがシエスタに詰め寄る。
「ええ。ついてきてもいいけど、でもあなたは見るだけよ。まだ未完成な部分もあるから、遊ぶことも出来ないわ」
シエスタは申し訳なさそうにいうが、すぐに笑顔になる。「でもその代わりといってはなんだけど、あなたには私と夫とでついてきて欲しいところがあるの」
「ついてきてほしいところ?」
「そう。メインはピーちゃんたちなんだけどね」
「んん?」
シエスタは足元にいた彼らに笑顔を向ける。「気に入ってくれるといいんだけれど…」
「んじゃ明日は全員外に出るのか」
家を空けることになるなとダインがいうと、「いえ、私はここに残りますよ。掃除したいところがありますし」、と返してきたのはサラだ。
「明日は試験場終わりにリステン家の方々がお越しになられますし、カヤ様と昼食を作る運びになっております」
「え、そうなのか?」
「はい。リステニア工房の職人の方々を唸らせた料理術の数々、学ばせていただきますよ」
サラまで気合を奮い立たせているようだ。
「ま、またですか…」
ニーニアは少し頬を膨らませる。「もう、みんなこのお家に来すぎだよ…迷惑かけすぎている」
不満を漏らす彼女だが、「楽しいから全然いいのよ」、とシエスタは笑いかけた。
「話も面白いしな。迷惑などでは全くないよ」
ジーグまでそういい、「どうも我々は家族ぐるみでリステン家の方々の“世話好き”の対象になってしまったようだからな」、そう続け、くくっと笑った。
「確かにそうだねぇ」
シンシアまで可笑しそうに笑い出す。「ニーニアちゃんのお世話好きもかなりのものだもんね。おじさんもおばさんも、その上の人たちもそうなのは当たり前かも」
「ふふ、可愛いですね」
ティエリアもくすくす笑っている。
しかしニーニアだけは不満げな表情のままだった。
自身の身内がカールセン邸に来るのは何かの“仕事”らしいからまだいい。
しかしついでにダインの世話までしているというのが我慢ならなかったのだ。
(私のほうが先にダイン君と仲良くなったのに…)
ダイニングルームにいた全員が、きっと気付かなかったのだろう。ニーニアの中での“世話欲”がそろそろ限界を迎えそうになっていたということに。
彼女は始終そわそわしており、ダインに向けられたニーニアの視線にどれだけの熱が込められていたのか、誰一人として察知できるものはいなかった。