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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百三十一節、ピクニック日和

ダインたち一向は、カールセン邸の裏側に位置する山の中にいた。

山の中腹辺りに開けた場所があり、ダインの修行場でもあったそこに、彼らは集まっている。

いまや五匹も増えてしまったチビドラゴンたちの運動不足解消のためにも、散歩は日課となっており、開けた場所に出た途端、彼らは大きく翼を広げながら好き好きに走り回っている。

ダインたち一行プラス、サラを入れて総勢七人。みんなピーちゃんたちが大好きな人たちだ。

ただでさえ大好きな散歩でテンションが上がっていた彼らにとって、今日ほど興奮した日はない。

「ピィ!」

「シャー!」

「ニャー!」

「ワン!」

「ガー!」

それぞれが特徴的な鳴き声を上げながら、走り回る彼らはところ構わず小規模のブレスを吐き散らかしている。

見るからに嬉しそうな彼らは可愛らしいことこの上なく、子供は遊びたい盛りというのは種族も関係がないようだった。

「あまり羽目を外し過ぎないように」

サラは彼らに忠告し、このほんの僅かな空き時間を使ってルシラが解いた問題集の採点を始めようと思ったが、ピーちゃんたちとは別の場所で固まっているダインたちに視線が動いた。

円状になっていた彼らは、何かを話し合っているようだった。

「あ〜、あのさ」

まずダインが口を開く。「やっぱり無理してしなくてもいいんじゃねぇかなって思うんだけど…」

何かを躊躇っている彼に、「駄目よ」、と強くいったのはラフィンだ。

「奇襲戦のような“事件”がまた起こらないとも限らないっていう、サラさんの意見はその通りなんだから」

ラフィンの話に、「その通りね」、と珍しくディエルが同意している。

「私とラフィンはいいけど、シンシアもニーニアもティエリア先輩も、人が良すぎるから誰かに騙されることもあるかも知れない。ダインは心配じゃないの?」

「いや、そりゃ心配は心配だけど…」

ダインは退学となり、平日は学生であるシンシアたちとは離れて日常を送らなければならなくなった。

日中はお互い干渉できない中、校内で厄介なトラブルに彼女たちが巻き込まれた場合、シンシアたちを守るためにダインができることは何なのか。

散歩中にサラが問題提起し、その通りだとシンシアたちは真剣に考え始め、広場に着いたときに“ある結論”に達したのであった。

「ほら、別に“あの方法”を取らなくても、ニーニアが作ってくれた指輪があるんだからさ…」

なおも渋るダインだが、「ピンチを知ったところで、あなたは何も出来ないでしょ」、そういったのはラフィンだ。

「そもそもあなたは学校の中に入れないんだし。この子たちを助けるには、“ダイブ”しか方法がないのよ」

ダイブ━━

自らが思念体となって、相手の精神に潜り込み、その肉体を支配する。

ニーニアとシンシアに使って見せたダインの“特殊技”を、サラは“ダイブ”と命名したのであった。

そのダイブはヴァンプ族が出す触手のように、距離も障害も関係なく、いかなる状況であろうと相手の中に入り込むことが出来る。内側から助けることが出来る。

シンシアたちが大ピンチに陥ったときの切り札として、使えるようになったほうがいいのでは━━

サラのその意見に完全同意した彼女たちは、いまからその“ダイブ”の発動条件や方法を探ろうとしていたのだ。

しかし相手の肉体を奪うに等しい行為なので、ダインにとっては後ろめたさしかなかった。

「他に方法があるのなら強制はしないけど…でも、あの子たちはもうあなたの意見を聞く気はないみたいよ」

ディエルが指摘している通り、シンシアとニーニア、ティエリアの三人は真剣な表情で“ダイブ”がどんなものだったのか話し合っている。

「私としても無茶苦茶気になっているし、あなたになら別に身体を乗っ取られても気にならないしね?」

ディエルがいい、ラフィンも何度も頷いている。二人とも顔が赤いところは突っ込んだほうがいいのだろうか。

「一通り試してみようよ」

話し合いが終わり、シンシアがいってきた。「ダイブはダイン君にしかできないことだから、ダイン君に慣れていってもらわないと」

「ええ、そうね」

まだ躊躇うダインを無視して、彼女たちは「魔法力が低い順で並びましょ」、と勝手に整列を始める。

ダインから見て左からニーニア、シンシア、やや揉めてディエル、ラフィン、そして右端にティエリアが立った。

主役であるダインの意見は一向に聞き入れられることなく、「まずはニーニアちゃんから!」、シンシアがニーニアの背中を押し、ダインの前に立たせた。

「ど、どうぞ…」

顔を赤くさせていたニーニアは、ダインに向かって両手を広げる。

「あ、あのさ、もう少し準備ってもんを…」

ようやく自分の意見を差し込もうとしたダインだが、そんな彼の背後にサラが忍び寄った。

「いい加減男を見せてください」

サラに背中を押される。

よろめいたダインは、ニーニアとぶつかりそうなほどの近い位置に立たされてしまった。

「だ、ダイン君…」

緊張で潤んだ瞳がこちらを見上げている。周囲からは期待のこもった視線が向けられ、もはや後には引けない空気だ。

「わ、分かったよ…やってみる」

散々暴れまわっていたピーちゃんたちは、ダインたちが何をしているか気になったようで近づいてきた。

「もうすぐ面白いことが起こりますよ」

サラはピーちゃんたちにそういって、ダインの動きに注視する。

ニーニアをそっと胸に抱いたダインは、とりあえず触手を出してニーニアの全身に絡めていった。

「ふわ…」

途端に腰が砕けそうになるニーニアだが、どうにか耐えた。

「え〜と…」

そのまま、どうやったらニーニアの中に入り込めるか考えているダインに、サラが助言を飛ばす。

「魔法も吸魔も、何事もイメージが大切です。ニーニア様と一体化するように想像を働かせてみてください」

その言葉に従い、ダインはニーニアと融合していくよう、イメージした。

触手を通じて、ニーニアの小さな身体に自分の意識がゆっくりと流れ込んでいくように…。流れ込んで、一つに解け合って、一心同体になっていくように。

すると次の瞬間、二人の体が突然光りだした。

「わっ!?」

太陽よりも激しく輝きだし、シンシアたちが思わず目を覆い…そしてその一瞬の間に光が収まる。

すぐに手を下ろし二人の姿を確認する彼女たちだが、そこにニーニア“だけ”がいたのを見て、目を見開いた。

辺りにダインの気配はしない。

「え…ま、まさか…」

驚愕したまま、ディエルが尋ねる。「成功した…の?」

聞かれたニーニアも、少し驚いたような顔で自分の手足を見ている。

「そう、みたい…だな」、ニーニアは…いや、“ダニー”はいった。

「おおおおお! 久々のダニーちゃん!」

シンシアは大喜びでダニーに抱きつく。

「ふがっ!」

「お、おはようございます、ダニーさん!」

「い、いや、ここで挨拶はおかしい」

成功に沸くシンシアとティエリアだが、二度目の“奇跡”を目の当たりにしたディエルは驚くばかりで、ダインが誰かに乗り移ったところを初めて目撃したラフィンは目を白黒させている。

「え、ほ、本当、に?」

ディエルもラフィンもまだ懐疑的ではあったのだが、「ああ」、と答えるニーニアの表情は普段とは真逆なほどに凛々しく、また立ち姿も男のようにがに股だ。

どうやらダインとニーニアが一つになったのは間違いないようで、ありえない現象に二人はまた目を丸くさせていた。

「ねぇ、ダニーちゃん、“ニーニアちゃん”はどんな感じかな?」

興奮した様子のままシンシアがきいた。「前みたいに寝ちゃってるの?」

「あーいや、起きてるよ」

ダニーは答えた。「なんか、ふわふわいってる。前と同じく“肉の壁”に閉じ込められてるみたいだ」

その様を想像したティエリアは、「あ、そ、そうなの、ですね…」、顔がみるみる真っ赤になっていく。

「ま、まぁとにかく、ニーニアとのダイブは成功ということで、次に行きましょ」

昼まであまり時間がないことを告げ、ディエルが仕切った。

「離れ方がよくわかんないんだけど…」

素直にいったダニーに、「ここもイメージですよ、ダニー坊ちゃんお嬢様」、サラがまた助言してくれた。

「ニーニア様の存在を強く認識し、離れていくようイメージしてください」

ヴァンプ族の歴史の中でも初の現象だったにも関わらず、サラの指南は的確だった。

彼女が言った通りに意識を動かすと、途端に“ダニー”の全身が輝きだし、その光が二つに分かたれた。

「ふわ…」

姿を現したニーニアはそのまま膝を崩しそうになり、サラがすかさず受け止め、地面に座らせる。

「…自分でいっておいてなんだけど、本当にできるなんてね」

驚いたままディエルはいい、「次は…」、と視線を動かす。

「ダイン君!」

指示される前に、シンシアがダインの目の前に躍り出た。

「どおぞ!」

満面の笑顔で両手を広げている。

「あー、お、同じでいいのか? さっきと」

手帳を手に記録をとっているディエルに顔を向けると、「ええ」、と彼女は頷いた。

「とりあえず誰が成功して誰が駄目なのかを確認したいから」

もうこうなっては自分は従うしかない。ゴネたところで誰も聞き入れてはくれないというのは、他の誰よりもダインが痛感していた。

「分かった」

これまでサラやシエスタから施された“秘密訓練”の数々を思い出し、シンシアをゆっくりと抱き寄せる。

彼女の柔らかさと体温に一瞬理性にヒビが入りそうになってしまったが、訓練に比べれば何のことはない。

「え…えへへ」

腕の中からシンシアの嬉しそうな声がした。

ダインもつられて笑ってしまい、そのままダイブを試そうとしたが、

「ダイン君」

ダインの胸板に顔面を押し付けたまま、ぼそっとシンシアが呼んだ。

「あの、ありがとう、ね」

「ん? 何のことだ?」

「き、昨日のこと…」

その瞬間、ダインはシンシアと同じ事を思い出したのだろう。

彼女の唇の感触が蘇った彼は、瞬く間に顔が赤くなっていく。

「その…う、嬉しかった…」

小さくそういって、ダインを強く抱きしめてくる。

その台詞も仕草も、ダインにとっては不意打ちに近いものだった。

鉄壁の防御でどんな事態にも揺るがないと身構えていたはずなのに、全く予期しないところから一撃をくらったかのようだ。

結果としてその“鉄壁”は脆く崩れ去ってしまい、ダインの体内にあった触手が予想だにしない動きを見せ、シンシアの全身に絡み付いていく。

「ひゃわっ!?」

シンシアが驚いている間に触手を使って彼女から聖力を吸い上げてしまい、そして二人は突如眩い光に包まれた。

その光はすぐに収束し、そこにはシンシアのみが立っている。

「す、すごいです!」

ティエリアが驚いた声を上げた。「もうこんなにスムーズにダイブが…!」

「も、もう慣れた感じなの?」、ラフィンが“シンシア”にきいた。

「え、い、いや、どうなん、だろ…」

まさか先ほどの“不意打ち”で成功したと正直に言いづらく、“シンシア”は言いよどんでしまう。

「ふむ、さすがダイン坊ちゃま。もうコツを掴んだご様子」

サラはいい、現象をよく理解してないピーちゃんたちは“シンシア”を見上げたまま、しきりに首を傾げている。

彼らには、シンシアからダインそのものの気配も感じ取っているのだろう。かなり不思議そうにしていた。

「ルシラが思いつきそうな思考で命名するならば、“ダイシン”様といったところでしょうか」

勝手に決められてしまった。

「別に無理して名づけなくても良いと思うんだが…」

“ダイシン”はいい、すぐにシンシアから離れようとした。

が、その口から「う」、というくぐもった声が漏れ、一瞬慌てたような顔になる。

「どうしたの?」

ラフィンが尋ね、「い、いや…」、ダイシンは首を横に振りながら、彼女たちから少し距離をとって背中を向けた。

「し、シンシア、もうそろそろ…な?」

なにやらぶつぶつ呟いている。

「い、いや、嫌だじゃなくてだな、みんなも待ってることだし…あ、ああ、分かった。近日中にまた…な?」

「…どうしたのでしょうか」

ダイシンの背中を見つめながら、ティエリアはピーちゃんたちのように首を傾げる。「まさか何か問題が…」

「いえ、恐らく…」

ダイシンの様子を眺めていたサラは、その口元を緩めた。「抵抗なさっているのでしょうね。シンシア様が」

「え、抵抗?」

「ええ。きっと離れたくないとダダをこねているのかも知れません」

とそこで、ため息を吐いたダイシンはティエリアたちのところに戻ってきた。

「どうしたのよ?」

「い、いや、いま戻るよ」

ダイシンはいい、目を閉じて集中した瞬間、その全身が光りだし、一つが二つに分離する。

「ふやぁ…」

光の中からシンシアが姿を現し、すぐに倒れそうになる。

サラはすぐさま彼女を支え、同じくぐったりしていたニーニアの隣に座らせた。

「ね、ねぇ、ダイブって、体力か魔法力でも消費するの?」

そろりとラフィンがダインにきいた。「二人とも動けないみたいだけど…」

「あ、あーいや、多分“感触”のせいだと思う」

「感触?」

「俺はされてないから分からないけど、俺の触手ってちょっと“良い”らしいから…」

ダインの説明を聞いて、自身がダインの触手に襲われたときのことを思い出したのか、「あ、ああ、なるほど」、顔が赤くなっていった。

「あなたに身体を支配されてる間、自分自身はその触手に全身が包まれている、と考えていいのね?」

「まぁ、そういうこと…だろうな、あの様子を見る限りじゃ…」

ニーニアもシンシアも恍惚とした表情を浮かべている。こんな爽やかな日差しの下でしていい顔ではないんじゃないだろうか。

「ニャー?」

アブリシアことニャーちゃんと、シアレイヴンのシャーちゃんが二人の下へ近づいている。

その存在に気付いたシンシアとニーニアはそれぞれ足の上に乗せ、「大丈夫だよ」、と笑顔を向けていた。

「ま、まぁとにかく、順番で言うと次はディエルよね」

ラフィンがいい、メモ帳を手に記録をとっていたディエルから「ふぇ!?」、という声が上がる。

何故かディエルまでも顔を真っ赤にさせていた。

ペンを持つ手は小刻みに震えており、じっとりとした汗を滲ませている。

「あ…あ、え、え〜と、私は、その…き、記録とっているから、後でも…」

遠慮しだした。

「この期に及んで何いってるの」

同じく赤い顔のままラフィンがいう。「お昼まで時間がないんだから、早く済ませないと」

「い、いやっ…でも、その…に、ニーニアとシンシア見てると、なんか…想像してたのよりも凄そうで…」

「恐れることはありません!」

突然ティエリアがいった。「心地よさしか感じられませんので、ディエルさんも気に入ること請け合いです!」

彼女は躊躇うディエルの背中を押し、ダインの前に立たせる。

「ダインさん、一思いに!」

そういうティエリアからはかなりの気合を感じる。きっと早く自分の番まで回して欲しいのだろう。

「あ、と…や、やっぱり私は一番あとで…!」

逃げ出そうとしたディエルだが、突然その全身に光の鎖が巻きついた。

「うひゃっ!?」

「逃がさないわよ」

ラフィンがバインドの魔法を使ったようだ。「あなたも言いだしっぺの一人なんだもの。大人しく触手の餌食になりなさい。こうなってはもう、辱めは全員が受けるべきなのよ」

「あ…あ…」

ダインを見上げるディエルは見て分かるほどに顔面が羞恥に染まっており、足まで震えだしている。

ぐったりするニーニアとシンシアの様子から、想像を軽く凌駕するほどの快楽にさらされるとでも思っているのかもしれない。

「い、いや、俺も辱めを受けてる気分なんだけど…これ、誰が得するんだ?」

「私ですよ」

そういったサラは口元を歪めて笑っている。「さぁ、ダイン坊ちゃま、早く。早く残りの可愛らしい方々を快楽漬けにしてください」

「妙ないい方をするな!」

突っ込んだダインは、そのままディエルに顔を戻す。

「と、とりあえずさ、埒が明かないしこのまま一気にやっちまうな」

「え…え? ほ、ほんとに?」

「ああ。すまないが耐えてくれ」

「う、うそ…」

「切り株の木目を数えている間に終わりますよ」

サラがいい、「変な風に言うなっての!」、ダインはまた突っ込み、バインドされたままのディエルを抱き寄せた。

「にゃ…!?」

驚愕するディエルの目に映ったのは━━

「その…いくな? ディエル」

数十…いや、数百にも見える、透明な管のような触手たちだった。

「うひ…!?」

それらが一斉に動き出し、ディエルの全身に絡みつく。

そのえもいえぬ感触に満たされ、

「にゃ、にゃあああああああああああぁぁぁぁ!!!」

ディエルの大きな“喘ぎ”が、朝の晴れやかな青空にいつまでも木霊していた。

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