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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百三十節、旧友

「な、何故ここに…」

彼女たちは、驚愕したまま書斎にいるクラフトを見つめている。

「何って、この格好を見たら分かるだろう?」

スーツ姿のダインの元担任は、朝の日差しに相応しいほどの爽やかな笑顔でいった。「セブンリンクスの教師というものは、週末も忙しいからな」

いま現在も仕事中だといいたいのだろう。だがシンシアたちが驚いているのはそこではない。

何故、退学となったダインの家に、彼がいるのか。

固まったままシンシアたちが用向きを尋ねようとしたところで、ラフィンから「あ」という声が漏れる。

「ダインが退学となったことへの説明をしに来られたのでは…」

呟くようにいうと、クラフトは「そうだ」、頷いた。

確かに、よくよく考えれば当たり前な話だった。

セブンリンクスは由緒ある学校なだけに、入学金は決して安くはない。その上厳しい試験を乗り越えようやく入学を果たせたのに、退学だけは一瞬で済ませられたとあっては、保護者感情としてそう易々と受け入れられるものではないのだろう。

法律の観点からも退学に関する説明義務はあるはずで、だからダインの元担任だったクラフトが説明をしにやってきたのだ。

「あの、私たちもここにいていいですか?」

シンシアがいい、狭い書斎で横に広がる彼女たちの真剣な眼差しがクラフトに注がれる。

ダインの復帰を説得できるチャンスだと、彼女たちは思ったのだろう。

クラフトが語る退学理由の内容によっては、逐一突っ込みを入れてダインは悪くないと反論するつもりだったのかも知れない。

「どうするんだ?」

一番奥の椅子にかけていたジーグがクラフトに目を向ける。「私はどちらでも構わないと思うのだが」

「あーいや…」

クラフトは困った表情でいった。「悪いが、プライベートな理由も含まれていることもあるから、当該する生徒の保護者にのみ、退学理由を説明することになっているんだ。だから席を外してくれると助かる」

「で、ですけど━━!」

食い下がろうとしたシンシアたちだが、クラフトは片手を突き出し、「分かってる」、と彼女たちにいった。

「先生…いや、グラハム校長にお前たちが嘆願書を送ったことは知っている。校長も俺も、みんながどんな思いでいるかも理解している。だがこちらにも色々と事情があって難しいんだ。とはいえ決して悪いようにはしないから、ここは一つ折れてくれないか」

最後に、「頼む」、とクラフトは生徒たちに向けて頭を下げた。

校内の彼では想像つかないような真摯な態度だった。

教師に頭を下げられては、シンシアたちはそれ以上居座るわけにはいかない。

「わ…分かりました…」

彼女たちは明らかに落胆した様子で踵を返し、とぼとぼと書斎を出て行った。

取り残されたダインは、彼女らの姿が見えなくなってからクラフトに顔を向ける。

「先生、タイミング悪すぎっすよ。何もみんなが泊まりに来てくれてる日に来なくてもさぁ」

彼は軽い調子でいった。「朝から重い空気になっちまったじゃないすか。どうしてくれるんすか」

「お、俺に言うなよ。今日ここに来ることはお前が退学になったその日に決まっていたんだから」

言い訳を始めるクラフトに、「お世話になりましたって言おうと思ってたのに、最後の最後でこんな迷惑をかけられるなんて」、とダインの文句が続く。

「お、お前な…退学を受けたっていうのに相変わらずだな…いいからお前も席を外せ」

「へーへー」

半笑いのままダインが書斎を出ようとしたとき、

「ダイン」

クラフトが彼に声をかけた。

「はい?」

「その…すまなかったな」

元生徒に向け、クラフトが謝罪を口にする。

「あ、じゃあ先生があいつ等をギャグか何かで笑わせて空気を軽くさせてもらって…」

「そっちじゃない!」

クラフトがすかさず突っ込と、彼の後ろにいたジーグから笑い声が漏れた。

「そっちじゃないって、じゃあどっちっすか」

「だから退学のことで…あーもういい。いいからさっさと行け!」

そこでダインは笑いながら書斎を出て行った。

足音が聞こえなくなってから、クラフトが大きなため息をつく。

「全く、どう育てたらあんな風になるんだ」

「私にとっては自慢の息子なのだがな」

ジーグが笑いながらいう。「まぁ、とはいえもう少し大人しい性格だったら、退学にならずに済んだのやも知れんがな」

クラフトは同意するかと思いきや、「…どうだろうな」、少し神妙な面持ちになった。

「ああいう性格だからこそ、学校は救われたともいえるが…」

「ふむ?」

ジーグがどういうことかと尋ねようとしたが、クラフトは立ったまま持っていたカバンを漁りだす。

「えーと、書類書類…あった」

カバンからA4サイズの書類を取り出し、ジーグに体を向けた。

「ではジーグ…いや、ジーグ君。さん? 様か? いやどうでもいいか」

独り言を呟きつつ、「ダインが退学となった理由を申し上げさせていただく」、ジーグに改まっていった。

「どうぞ」

ジーグも椅子に座りなおし、背筋を伸ばしたままクラフトを見上げる。

「ダイン・カールセンの保護者へ━━」

クラフトは静かに書類の内容を朗読した。「この度、来るイベント“奇襲戦”内において、当生徒が重大な規約違反を犯したことが発覚し、基本校則第一条、その五を適用した旨を報告する。当生徒における規約違反はこれまでにも数々あり、それらを複合して勘案した故の結論であり、これに納得できない場合は当校ではなく国立児童相談窓口に…」

書類に書かれた文章を読み上げている途中、クラフトの口が止まった。

「うん? どうした?」

静かに聞いていたジーグが不思議そうに声をかける。

「もういいだろ」

クラフトはそういって、手にしていた書類を突然くしゃくしゃに丸めだした。

「おいおい、突然どうしたのだ?」

「連中が先生に無理に書かせたものだ」

クラフトは忌々しげにいった。「読んでるだけでイライラする。こんなものはこうするに限る」

と、丸めた書類をジーグの脇にあったゴミ箱に放り投げた。

「ったく、相変わらずろくでもない組織だよ」

ネクタイを緩め、スーツを着崩したクラフトは、そのまま椅子にどかっとかけた。

不機嫌そのものの彼に、「珍しいな」、ジーグは笑った。

「昔のお前では、どれだけ不平不満があろうと決められたことは実行していたはずなのに」

ジーグもまた楽な姿勢でクラフトを見る。その表情はどこか懐かしそうだった。

「せめて読みきってから捨てた方が良かったんじゃないかと思うんだが。昔から、形式的なことは最後までこなしてきただろう?」

「培ってきた己の信条の方が大事だ。微塵も曲げるつもりはない」

クラフトはぶっきらぼうにいった。「あんなのを読ませられるぐらいなら、絵本をお前に読み聞かせた方が数万倍はマシだ」

「幼児向けの絵本ならここにあるぞ」

「本気で捉えるなよ」

クラフトが突っ込むと、グラハムはまた豪快に笑う。

「とにかく教師の仕事は以上だ」

ここからはプライベートだとばかりに、「でだ」、クラフトの口調は幾分か穏やかなものに変わった。

「ダインをいつ復帰させたらいいんだ?」

あまりにも唐突な質問だった。「手筈はもう済ませてあるぞ」

「随分準備がいいな」

ジーグはやや驚いた表情でいう。「息子は重大な規約違反を犯して退学になったのだろう?」

とぼけたような彼の言い方に、

「あのな」

旧友を前にしたからか、クラフトは若い時分の真面目さを発揮したような表情で口を開いた。

「俺の目も先生の目も節穴じゃない。ダインが学校で何をしてきたかはちゃんと見ていたし、あいつの校内での行いが退学に相当するかどうかなんて考えるまでもない話だろ」

「そうなのか?」

「お前には適度に連絡していただろうが。それに復帰は難しいといったときの、さっきのあいつ等の顔を見たか? 嘆願書の件もそうだし、ダインがどれほど愛されてるか、復帰が望まれてるか俺でも分かる。それにあんまり落胆させ続けると、俺だけじゃなく先生の評価まで落とされかねん」

「中間職は大変だな」

ダインの保護者でしかないジーグにとっては、クラフトの苦悩などまさに他人事である。「上からは圧力をかけられ、下からは突き上げられる。教師モノのドラマでよく見る展開だ」

「お前の息子がそうさせてるんだろ」

クラフトはまたため息をついた。「だから俺としては出来るだけ早期にあいつを復帰させてやりたい。奇襲戦の一件でガーゴと学校の関係は冷え込んだし、やつらの要求は今後無視していいだろ。プライドだけは高いハイクラス以上の生徒がいくら騒ごうが、まとめて押さえ込んでやる」

「頼もしい限りだな」

嬉しそうにいったジーグは、「だが」、と表情をやや真面目そうなものに変えた。

「ご息女たちには悪いが、息子の復帰はもう少し待っていただこう」

「待つ?」

「ああ。ルシラのことや七竜のことなど、そろそろあやつ一人では抱え切れんほどに問題が膨らんできたのでな」

開けっ放しのドアの向こうからは、ダインを含めたシンシアたちの騒がしい声がする。

「ここらで一旦それらの問題に決着をつけ、解決してから学校に復帰できるのなら復帰させたいと考えている」

「その糸口は見つかったのか?」

尋ねるクラフトに、「ある程度はな」、ジーグが答えた。

「ダインは“入り口”を発見できたし、七竜についても残り二匹だ。このまま滞りなく進めば、近日中に懸念事項は終息する」

今後の展開を予測するその言葉を聞いて、腕を組んでいたクラフトは一瞬黙り込む。

その表情に、何か別の感情が過ぎったようだった。

どうしたのかジーグが尋ねようとしたが、「そろそろ全てを打ち明けてもいいんじゃないか」、逆にクラフトがジーグにいった。

「大体のことは知ってるだろ、お前。俺も逐一報告していたんだし、今回の騒動の中心人物になっているアイツには知らせておいたほうがいいんじゃないか」

真面目にクラフトが進言するものの、ジーグは笑顔で「いや」、と首を横に振った。

「伝えても奴は混乱するだけだろう。それに私がわざわざ言わなくとも、奴は己の力で真相に確実に近づいていっている。見聞しただけの我々とは違って、ダインが独自に調べ、己の目と耳で得た情報なのだ。我々のようなフィルター越しではない生の情報の方が信頼性があるし、我々では到達し得ないところまで、奴なら知ることが出来るかもしれない。私はそこに期待しようと思っている」

やや誇らしげなジーグの顔を見て、何かいおうとしていたクラフトは口を閉じる。

「…確かに、な」

彼は口元を緩め、キッチンから聞こえるやかましいほどの喧騒に耳を傾けた。

「で、お前はどうするんだ?」

クラフトがジーグにきいた。「アイツが救出作戦に動いている間、何もしないわけじゃないんだろ?」

「私はリステニア工房のギベイル殿とペリドア殿とで、七竜に関する調査を進めている」

「調査?」

クラフトは少し意外そうな顔をする。「まだ何か知りたいことがあるのか?」

ギベイルが調べ上げた七竜の正体については、クラフトもジーグから提供されていた。

「彼らの素性だよ」

ジーグはいった。「ドラゴンのような姿形をしたモンスターはこの世に多数存在しているが、属性が込められた強力なブレスを吐き、魔法を弾く特殊な肌を持つ七竜のようなタイプは確認されていない。彼らの生態を調べていくうちに、何かしらの真実が見えてきそうな気がしたのでな」

「なるほど。曲がりなりにも伝承のモンスターだからな」

納得した様子のクラフトに、「そっちはどうするんだ?」、今度はジーグがきいた。

「奇襲戦の件でガーゴを正式に非難したと、ディエル殿から聞き及んでいるのだが」

「引き続き質問状を送りつけたよ。ま、とはいってもテンプレートのような回答しかしてこないのだろうが。しかし今回の件でやつらも学校にちょっかいはかけづらくなっただろう」

「良い事だな」

「ああ。おかげで動きやすくなる。少し調べなきゃならんこともあるからな」

「調べること?」

ジーグの疑問にクラフトが答えようとしたとき、彼の持つ携帯からメロディー音が鳴った。

「悪いがそろそろ時間だ」、そういって椅子から立ち上がる。

「忙しいな。朝ごはんぐらい食べていけばいいのに」

「いや、そういうわけにもいかん」

きっぱり断るクラフトだが、せっかくの旧友の誘いを断るのにはある深い理由があった。

「ルシラがいるからか?」

ニヤリとしてジーグがいう。案の定クラフトの表情が硬くなった。

「“あの子”のほうはお前のことは知らないだろう。観察眼鋭いあの子ならば、きっとお前のことも気に入ってくれると思うのだがな?」

ジーグは愉快そうだ。反対にクラフトは眉間に皺を寄せながら肩をすくめた。

「無知というのは怖いもんだよ」、そういった。

「仮の話をするが、例えば近くにこの国の王…イグジリア国王がいたとして、お前は気軽に挨拶にいけるのか?」

クラフトからそう質問され、想像したジーグは「恐れ多くてできんな」、と答えた。

「そういうことだ。恐れ多い」

分かってくれたかとクラフトはいうが、「しかしあの子は別にエル族とは関係がないのだろう?」、ジーグがきいた。

「それどころかこの世界のどこにも属しておらん。お前自身がそういったではないか」

「それはそうなんだが…」

呟くクラフトは難しそうな顔で唸っており、「例えが悪かったな」、と別の仮定をいってきた。

「あの“お方”は大陸の主よりももっと偉大なものでな…」

「ふむ?」

一応耳を傾けたジーグだが、その表情がどこかからかっているように見えたのか、「まぁいっても分からんだろ」、クラフトは説得を諦めた。

「おいおい、説明してくれんのか」

「どうせお前のことだ。俺があの“お方”がどれほどの存在か懇切丁寧に説明したとしても、娘としか思えないとでも言うつもりだろ」

ジーグが笑い出す。「よく分かってるじゃないか。さすが私の旧友だ」

「まったく…“奇跡”そのものと寝食を共にするなど、想像できんことをするよな。お前も、ダインも」

「そうかもな」

笑い続けるジーグを見てもう一度嘆息してから、「まぁいい。このままここにいてはお前の奥方らに余計な気を使わせてしまう。早々に退散するよ」、とクラフトがいった。

「勝手口はどこだ?」

せっかちな性格らしく、彼はカバンに忍ばせていた紙袋を取り出す。中には靴が入っていた。

それほどルシラに会いたくない…いや、恐れ多くて会えないでいるのだろう。

ここでルシラを呼んだらどうなるか。悪戯心が湧いたジーグだが、あまりやりすぎると手痛い反撃を受けるというのは、経験上分かっていた。

のそりと身体を起こし、「こっちだ」、リビングに誰もいないことを確認し、書斎を飛び出し食堂を抜ける。

朝日に照らされた幻想的な中庭へ差し掛かったとき、

「ピィピィ!!」

ジーグとクラフトの姿を確認するなり、日向ぼっこしていた子供ドラゴンたちが、鳴き声を上げながらわらわらと寄ってきた。

大きな声にびくりと驚いたクラフトは、リビングの方を見つつ彼らに向けて口元に人差し指を立てる。

「シーシー!」

静かにしてくれと必死に訴えかけるが、ピーちゃんたちは一様に首を傾げていた。

「すまんな。見ての通り、こやつは極度の人見知りでな」

ジーグは顔をニヤつかせながら、彼らに説明を始めた。「ダインたち…特にルシラには気付かれたくないそうだ」

「ぴ?」

そうなの? というドラゴンたちの視線がクラフトに集まる。

「…何故俺たちの言語が理解できているのかは分からんが、そういうことだ」

やや戸惑いつつもクラフトがいった。「だから、あのお方…いや…る…ルシラ、様…には、くれぐれも見つからないように…」

口にすることすら恐れ多そうに、彼が話したときだった。

「みんなー! ごはんだよー!!」

リビングから元気な声がした。ルシラの声だ。

「うげっ!?」

クラフトがうろたえ始める。

ぱたぱたという足音がリビングから聞こえ、どうやらこちらに向かっているらしい。

「みんな、頼む」

ルシラからクラフトが見えないよう、自らが遮蔽物となって、ジーグはピーちゃんたちにいった。

聡い彼らはそれだけでジーグの意図が読めたのか、それぞれ特徴的な鳴き声と共に敬礼するかのように翼を広げる。

「みんなー?」

ルシラは庭園用の靴に履き替え、さらに近づいてきた。

「みんなどうしたのー? パパも…あれ? そこに誰か…」

「ピィッ!!」

ピーちゃんが号令を発する。

その瞬間、彼らは振り向いて翼を広げ飛び上がった。

「わ!? わ、わわ…ほわああああああぁぁぁぁ!?」

ルシラの頭からドラゴンたちが降り立っていき、驚愕して転んでしまったルシラの全身に彼らが群がりだす。

「な、なに!? なになに…んにゃははははは! にゃ、にゃははははは!!!」

そのままピーちゃんたちは翼やクチバシを使ってルシラの全身をくすぐり始めたようだ。

彼らの突然の行動に驚きつつも、ルシラは笑い転げるばかりでこちらに気付いてない。

「クラフト、いまのうちに」

「あ、ああ」

ジーグはクラフトを引きつれ、一緒に中庭を抜けて裏口から外へ出た。


「あのドラゴンたち、随分と賢いんだな…」

完全に意思疎通できたように見えたのか、クラフトは驚いたようにいった。「何か仕込んだのか?」

「いや、あれも七竜の特徴なのかどうかは知らんが、彼らには我々の言葉が分かるらしい。直接会話することは出来んがな」

「すごいな…」

ただただ感心するクラフトに、「しかしこれで貸しだな」、ジーグは笑顔でいった。

「本当はあのままお前とルシラを引き合わせてやっても良かったのだぞ?」

「はいはい、近日中に先生も誘って良い店を紹介するよ」

小さく笑ってクラフトはいい、「じゃあな」、彼に背中を向けて立ち去ろうとした。

…が、彼はそのまま足を止めた。

「ん?」

何事か思案した彼であったが、

「…やっぱりお前には伝えておくか」

そういってまたくるりとジーグのほうへ身体を反転させる。

「うん?」

「ある“調査員”から寄こされた情報だ。まだ不確定な部分は多いがな」

そういって、彼は声を潜めた。「今回やつらが半ば強制的に推し進めている七竜討伐だが、宣伝目的のためだけに利用しようとしたことは失敗だったのかも知れん」

「ふむ?」

「そもそも七竜自体、国際条約もあって不明瞭な事象だ。かつての我々では手も足も出せず、滅亡の危機に追い込まれたところで、エレンディア様がその身を捧げて彼らを封印した。いまもなお世の平和を守ってきたその封印に、そして七竜に、我々は干渉してはならなかったんだ」

妙に含みのあるいい方だった。

「どういうことだ?」

クラフトはやや物憂げな顔をして、「ヒューマ族の文化の中で、一つ面白い“コトワザ”がある」、次に笑みを浮かべた。

「コトワザ?」

「ああ。藪から蛇、というな」

そのコトワザの意味を理解したジーグは、表情を徐々に真顔に戻していく。

「…つまり…」

「やつらは手出ししてはならないものに手を出してしまったということだ」

真剣な両眼をジーグに向けつつ、「いいか」、クラフトは続けた。

「七竜全てが討伐されたとしても、その“事象”は終わらない。いや、むしろ悪い方向へ傾くかもしれない」

そのとき一陣の風が吹き、二人の服と髪を揺らす。

「警戒はしていてくれ。ひょっとすれば━━世界がひっくり返ることになる」

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