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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百二十四節、彼の想い、彼女の想い

「レパートリーがそんなになくて申し訳ないが」

そういってダインはシンシアたちのいる広いテーブルに、次々と料理を運んでいく。

彼女たちの前にはサラダや汁物、焼き魚が並べられていった。

「んはー! んっまそー!」

シンシアが早速手をつけようとしたが、「ま、待ってください!」、突然ティエリアが止めた。

「全部揃ってから画像に収めたいので…」

そう話す彼女は手に携帯を持っている。

「あ、そうですね!」

ナイスアイデアだとシンシアも携帯を取り出し、ニーニアもディエルも同じように構え始める。

「いや、そんな大層なもんじゃ…普通の定食だぞ?」

ダインは笑いながら、「まだあるから」、といって厨房へ行こうとする。

「あ、あの!」

そのときラフィンが声を上げた。

「あの、そろそろ状況の説明をして欲しいんだけど…」

彼女はまだ困惑していたようだ。

無理もない。突然見知らぬ土地に連れてこられた挙句、知らない店に入らされ、そこには自分には会う資格がないと思っていたダインがいたのだから。

「あー、悪い」

厨房を見てから、ダインは謝った。「いま揚げ物してるから、大まかなことはシンシアたちから聞いてくれ。そっちには話してあるからさ」

そういって彼は厨房へ歩いていく。

入れ替わりにルシラがお盆に人数分の茶碗蒸しを乗せてやってきた。

「わ、とと…」

お盆を持つ彼女の小さな手は震えており、シンシアたちはハラハラしながら彼女の動きを見つめている。

「る、ルシラちゃん、大丈夫? 私が…」

シンシアが助け舟を出そうとするものの、「だ、大丈夫だよ!」、ルシラは気丈にいった。

「しんしあちゃんたちはおきゃくさまだから…」

そろりそろりとシンシアたちのテーブルまでやってきて、各々の前にその茶碗蒸しを置いていく。

「はー、できた」

冷や汗を拭うルシラに、シンシアたちも同じように安堵する。

「まだまだあるからね!」

ルシラは笑って、小走りで厨房まで向かっていった。

シンシアは笑顔でルシラに手を振った後、固まったようにしていたラフィンに顔を戻す。

「え〜と、とりあえず状況の説明からするね」

シンシアはゆっくりとした口調でいった。「このエレイン村こそ、ダイン君がいるところなんだよ」

「あ…え? あ、そうなの」

「うん。だからここはダイン君の地元のお店ということだね」

「へぇ…」

ラフィンはそのまま店内を見回す。全てが木で出来ている店内はそこそこ広い空間で、大きなテーブルが二十ほどあり、カウンターもある。天井からは造花と見られる花々が垂れ下がっていて、まるで森の中にいるような落ち着く内装をしていた。

が、椅子やテーブル、足元は綺麗に掃除が行き届いてはいるが、所々に傷がある。カウンターに置かれている瓶やグラスの数から、ある程度年季の入ったお店だということが分かる。

「ダインはここでアルバイト…してるっていうこと?」

続けてラフィンがシンシアにきくと、

「シャクだったからな」

再びダインが両手いっぱいに皿を持って厨房からやってきた。

「この間退学になったからって、ことあるごとにサラの奴がニートニートっていってきやがるからさ。だからサラの恋人…ジェイルさんっていうんだけど、その人に無理言って、勤め先のこのレストランに限定的に店をオープンさせてもらうことにしたんだ」

ダインがそういった後、「サラさんっていうのは、カールセンさんのメイドさん兼、ダイン君のお世話係の人だよ」、とシンシアがラフィンとディエルに補足する。

「なるほど。それでこのお店の看板とあなたがつけてるエプロンの店名が違うのね」、と、ディエル。

ダインが腰に巻いているエプロンは、少し崩したような字で『るしらん』と書かれてある。もちろんルシラからもじった店名なのだろう。

「たまにこの『やったるDAY』も夜まで営業してることはあるんだけど、予約がないときは基本閉めてるからな。その時間を有効活用させてもらうことにしたんだよ」

彼が話してるところで、

(だいーん! ごはんの食器はー!?)

と厨房からルシラの声がした。

「いまいく!」、ダインはそういって再び厨房へ歩いていく。

「でもオープンって、さっき私たちだけの会員制っていってなかった?」

ディエルの疑問に、「はい」、と答えたのはティエリアだ。

「まだ飲食店を経営するための免許も何も持ってないので、修行という名目で限定オープンしたそうなのです。私たちはあくまでその試食係だと」

「そうそう。ここだと調理器具も揃ってるし、以前からダイン君が料理の勉強をしに来てたらしいから」、とシンシア。

「へぇ、そういうこと。ダインも色々考えてるのね」

ディエルは納得してから、隣にいたラフィンをチラリと見やる。「退学()()()()()暇になったものね」

その台詞は、太い針となってラフィンの胸に突き刺さったことだろう。

「おまちどーさまです!」

ルシラとダインは再び厨房から現れて、残りの料理をシンシアたちの前に置いていく。

「このごはんは、ぶらんどのお米で…えと…ひかり…ひかり? ひかりの、ゆめの、えっと…」

「輝きユメミマイだ」

ダインは笑いながら、持っていた巨大な船盛りをテーブルの中央にどかんと置いた。

「絶海魚の船盛りだ」

その船に乗る刺身は赤や白、黄色やオレンジといった、色とりどりの輝きを放っている。

「すっっごいね!?」

まさに宝船のような刺身盛りに、シンシアたちの目が輝き始めた。

早速手に持っていた携帯を操作して、様々な角度から撮影を始めている。

「あ、定食のメインはコッテリコッケイの唐揚げなんだけど、先輩のだけは地元の野菜を使ったかき揚げだから、安心してくれ」

ゴッド族は肉料理が苦手。

ダインの配慮に、「あ、ありがとうございます!」、ティエリアは大きく彼に頭を下げた。

「さ、以上だ」

笑顔のダインは小さく手を叩いていった。「原価無視の大サービスだ。食べてくれ」

その彼の合図と同時に、「いただきます!」、ラフィン以外のシンシアたちは両手を合わせて箸を手に取った。

本日のメニューは、ベーコン菜のおひたし。敏腕ナメコダケのお味噌汁。コッテリコッケイの唐揚げ。トロサンマの塩焼き。コッテリコッケイの茶碗蒸しに、船盛りとご飯。

定食にしてはやけに豪勢な料理を次々口の中に放り込んでいき、その味にお互い顔を見合わせて笑顔になる。

何も言わずとも感想が顔から漏れていた。

「…ごくり…」

お盆を手にしたまま、ルシラから喉が鳴る。

「はは、ルシラももういいぞ? そこの開いたところに座って一緒に食べたらいい」

「うん!」

大きく頷いたルシラは、急ぎ足で厨房まで向かい、お盆に自分用に用意されていた定食を乗せて戻ってきた。

ダインは店内の隅にあった子供用の椅子を引っ張り出し、テーブルの上座にルシラを座らせる。

早速唐揚げを口にしたルシラは、それを噛み締めた瞬間とろけるような笑顔になった。

「おいしー!」

足をパタパタさせながら、シンシアたちと同じように刺身やご飯にがっつき始める。

「デザートもいま作ってるからな。ちょっと待っててくれよ」

ダインはいって、また厨房の中へ戻っていった。

「んま、んま!」

腹ペコだった彼女たちは、空腹のあまりか食事の行儀が少々悪い。

そんな中、ラフィンだけはどれにも手をつけず黙り込んでいた。

「ラフィンちゃん、食べないの?」

シンシアが尋ねるも、「い、いえ…」、彼女はそういうだけで箸を掴もうとしない。

どうしたんだろうと全員が疑問に思ったとき、突然ラフィンは顔を上げて立ち上がった。

意を決したような表情のまま、早足で厨房まで歩いていく。


「あ、あの…ダイン!」

コンロの前に立っていた彼を見つけるなり声をかける。

「んお? どした?」

ダインは不思議そうに振り返ってきた。

「あの…あ、あの…」

何事か言いよどむ彼女に、「何か嫌いなもんでも入ってたか?」、ダインが察して尋ねるも、「そうじゃなくて…」、ラフィンは首を横に振る。

「あ、トイレか? トイレだったらあっちに…」

「だからそうじゃなくて!」

ダインの台詞を遮った後、ラフィンは改まったようにダインに体を向けた。

「その…こ、こんなことになってしまって…その…」

悲痛な表情でいた彼女は、彼に向けて平身低頭の姿勢で謝った。「ごめんなさい…」

顔を地面に向けたまま、彼女はぽつぽつと話し出す。「こんなことになったのは、全部私があの時ダインに退学を告げたせいだから、だから…その…」

一度ぐっと言葉を飲み込んで、再び口を開く。

「どうにか校長先生に頼み込んで、私の発言を撤回…」

続きを言いかけて、彼女は「んぐっ!?」、とくぐもったような声がして止まった。

口の中に何かが入り込んできたのだ。

困惑して顔を上げると、ダインの悪戯っぽい笑顔がその瞳に飛び込んでくる。

「どうだ? うまいだろ?」

そう話す彼は手に竹串を持っている。

口の中は甘辛い味がして、唐揚げを放り込まれたのだろうということが分かった。

「お前ん家って健康的なもんしか出てこなさそうだからな。唐揚げなんてもん食べたのは初めてじゃないか?」

ダインは味の感想を言って欲しいようだが、罪悪感と緊張で頭がいっぱいだったラフィンには答えられるはずもない。

とりあえず口の中のものを飲み込んでから、

「私の話を…!」

口を開けてすぐ、またダインが何か突っ込んできた。

「次はプリンだ。後で出す予定だったんだけど、お前だけ特別に味見させてやるよ」

彼はスプーンを持っている。困惑していたラフィンは甘みしか感じられない。

「だ、だから、私の話を…!」

今度こそ話を聞いてもらおうと詰め寄ったとき、

「いいんだよ」

ラフィンに背中を向け、大きな蒸し器の中にあるプリンの出来を確認しながらダインはいった。「何も行動しなくていい」

「だ、だってそれじゃ…!」

「お前は何一つ間違った選択をしちゃいない」

彼はそのまま続ける。「“外の力”を借りて奇襲戦を終わらせたことは事実だからな。説明できない力を使ったんだから、反則と見られても仕方ない」

「で、でも…」

「まぁ聞いてくれ」

ラフィンに笑顔を向け、ダインはいった。「全部覚悟の上だったんだ。覚悟の上、あのときラフィンの聖力を借りて“あの魔法”を使った。特例制度を使用中での反則技だったんだし、連中にも目を付けられていたから、こうなることは予想できていたんだよ」

「…私が…あなたを退学にすると…?」

「ああ。お前は誉れ高きウェルト家の長女なんだろ? 私情に流されない公正な判断を下してくれると思ってた。だからそれに委ねることにした」

蒸し器を見つめていた彼は、ふと顔を上げて天井を見る。「仮に、あのとき生徒会長の役職がティエリア先輩のままだったとしたら、どうなってたと思う?」

「ティエリア先輩…?」

「あの人だったら、仮に俺がどんな罪を犯してどんな反則をしたとしても、俺に退学を宣告しなかっただろう。できなかっただろう。規則も校則も全て捻じ曲げてでも、私情に流されるまま連中の言い分を無視していたはずだ」

ティエリアの性格を考えたラフィンでも、容易に想像のできる話だった。

「もし俺に何のお咎めもなかったらどうなっていただろうな」

ダインは続ける。「例の二人組みに先輩は激しく責め立てられ、あの場にいた生徒たちからも不満の声が続出していただろう。贔屓する生徒会長だと噂され、分不相応だなんだと陰口を叩かれるようになり、あの人の立場も信頼も失墜することになっていた。結果として学校に居づらくなり、耐え切れなくなって辞めることになっていたかもしれない」

最悪の展開をラフィンも想像してしまったのか、その表情が少し歪んだ。

「それこそ俺は耐えられない。見てられない。さっきお前はあの時の発言を撤回したいと言っていたが、もしそれを実行し校長先生が聞き入れてしまったら、ラフィンにも俺が想像していたような憂き目に遭うことになるのは容易に想像がつく」

彼が話しているのは、あくまで過程の話だ。

だがラフィンは何もいえなかった。

由緒正しいセブンリンクといえど、生徒の質というものは他の学校と大差ない。自分は何も実行しないくせに、功績を上げた人を妬んだり、転がり落ちていく様を見て喜ぶような連中はどこにでもいる。

自分に全く関係のないところで罪を犯した者をいつまでも許さずにいて、復帰しようものならあらゆる手を尽くして妨害して蹴落とそうとする、どうしようもない奴がいるというのは、ラフィンにも分かっていたのだ。

「お前は何もしなくていい」

ダインは彼女を真っ直ぐに見ていった。「あのときのお前の判断は正しかった。ラフィンが生徒会長で良かったよ」

笑いかけてから、彼はすぐに蒸し器に体を向けて中の状態を確認する。

「…あなたは…いいの?」

しばし黙り込んでいたラフィンは、神妙な面持ちで言葉を紡いだ。「退学になったままで、あなたは…それでいいの? あなたは何も悪い事をしてないのに…」

「反則は悪いことだろ?」

「でもあれは正しい使い方だった!」

ラフィンは訴えかけた。「あんな、ガーゴが何か仕掛けてるとしか思えない状況で、生徒側の敗北が確実視されていた! そんな中勝利へ導いたのは間違いなくダインなのに、それで学校も生徒たちもみんな救われたのに、あなたが退学になるだなんておかしいじゃない! あなたに対する生徒たちの悪評はいまも絶えなくて、それ見たことかって未だに陰口をいっている人もいる! そんなの…そんなの絶対に間違ってる! 絶対に!!」

「でもお前の判断も正しかったんだぞ?」

「それでも、私は嫌よ!」

ラフィンはきっぱりといった。「あなたのいない学校なんて…あなたに憧れて、あの学校に入学して…命の恩人をずっと探してて…ようやく知り合えたのに…」

俯いて話す彼女を見て、ダインはハッとする。彼女の顔の辺りから、地面にぽたぽたと水滴が落ちていた。

「どうして私にあんなこと言わせたのよ…どうして私の気持ちを分かってくれないのよ…」

搾り出すように、彼女は続けた。「…戻って、きてよ…学校に…」

それからラフィンからすすり泣くような声が聞こえ始める。

気丈な彼女が初めて他人に見せる涙だった。

それほど彼女は思い悩み、苦しんでいたのだ。

恩人が追い込まれている様を見ていることしかできなくて、挙句に引導を渡してしまった。その苦悩も後悔も、簡単に推し量れるものではない。

「…あ〜…」

困惑したダインは自分の頭を掻いて、コンロの火を消した。

そしてラフィンの目の前まで向かい、

「…ごめんな。辛い思いさせちまったな」

震える頭に手を置いて、ダインはいった。「そうだよな。俺がお前の立場だったとして、友達に退学を宣言するなんて、絶対に嫌だよな…」

ラフィンの気持ちを理解した彼だが、彼女は肩を震わせたまま。

泣き出してしまったラフィンをどうにかあやそうと、ダインはそっと彼女を抱き寄せた。

「あ…だ…ダイン…」

一瞬びくりとしたものの、彼女はすぐにダインに身を委ねる。

「このままでいいから聞いてくれ」

落ち着かせるように何度もその背中を撫でながら、ダインはいった。「俺だって戻れるのなら戻りたいよ。お前たちとの学校生活は無茶苦茶楽しいし、面白いしさ」

「でもな」、ダインは続けた。「学校が全てじゃない。退学になったからといって、そこで俺たちの縁が切れるわけじゃない」

「え…ん…?」

「そう。簡単に言えば、会える場所が学校じゃなくなるだけだ。俺たちはどこへだって行けるし、どこでだって馬鹿できる。それこそ、その気になりゃ毎日さ」

「…毎日…」

「こうして知り合えたんだ。縁ができたんだ。俺はこの絆を何よりも大切にしたいし、何が何でも守っていくつもりだ。それはきっと俺だけじゃなくて、シンシアたちもそう思ってくれているはずだよ」

そこでようやくラフィンは気付くことができた。

ダインが退学になったというのに、学校で会うことが出来なくなったというのに、どうしてシンシアたちは笑顔でいられたのか。どうして誰も寂しそうな顔をしていなかったのか。

「まぁお前は習い事だなんだで毎日忙しそうにしてるから、頻繁に会うっていうのは難しそうだけど…でも会えなくなるわけじゃない。話せなくなるわけじゃない。だから俺を退学にしたっていう考え方は止めてくれ。そのことで落ち込まないでくれ」

ダインはさらに力を込めてラフィンを抱きしめた。

諭すように、安心させるように、彼女の耳元で囁きかける。「会いたいと思ってくれてるんなら、いつでも連絡してくれ。俺はいつでもお前に会いに駆けつける。愚痴でも何でも聞いてやる。不安ならこうして抱きしめてやる。だから…な? 泣き止んでくれないか?」

少し照れ笑いを浮べながら、彼は続けた。「その綺麗な顔が台無しだぞ?」

「ゆ…ユーテリア先輩みたいなこと言わないでよ…」

ラフィンからようやくいつも通りの声が出た。

「はは。悪い。でも本当にそう思ってるから」

しばしラフィンを抱きしめ、徐々に体の震えが収まってきたのを感じてから、「落ち着いたか?」、ときいた。

「ん…」

ラフィンは小さく頷くものの、「もう少しだけ…」、ダインが離れるのを予感してそういった。

「俺は別に構わないんだけどさ…」

ダインからやや戸惑うような声がする。「ちょっと視線が多くて恥ずいな」

「え?」

ハッとして振り向くと、厨房の入り口にシンシアたちが集まっていたのが見えた。

彼女たちはこぞってダインとラフィンのやり取りを見ていたようだ。ルシラまでもいる。

「なぁっ!?」

目を見開いてびくりと驚くラフィン。

「ねー奥様、あのカタブツなラフィンがあそこまでなよなよしくなるなんて、見ものですわねぇ〜?」

ディエルはおば様口調で隣にいたシンシアに話しかけ、シンシアもにんまりと「ですわねぇ〜」、と頷く。

「羨ましいですわねぇ〜、ニーニア奥様?」

さらに隣のニーニアに話を振った。

「ですわねぇ〜、ティエリア奥様?」

ニーニアも反対側のティエリアに声をかけ、

「あ、で、ですわねぇ〜」

女四人は示し合わせたように口元に手を当て、笑い出す。「おほほほほほ!」

「ですわな、ですわな!」

ルシラが笑顔でいったとき、ラフィンはバっとダインから離れてディエルたちを睨みつけた。

「み、見せ物じゃない!!」

そう叫んだところでディエルたちは笑顔のまま退散していく。

「ちょっと待ちなさ…!」

追いかけようとした彼女を、「ラフィン」、ダインが優しい声で呼び止めた。

「そういうことだ」、といった。

「え、な、何が?」

「俺を退学にしたお前のことを、あいつ等は誰も責めてない。そんな気すらない。みんなお前の気持ちを理解しているっていうこと。だからラフィン一人が抱え込まなくていいんだよ」

「あ…そ…そう、みたい…ね…」

顔を赤くして頷くラフィンだが、すぐに「ん?」と気付いたように声を上げる。

「でもディエルには随分責められたような気が…」

「あいつは良くも悪くも正直だからな。思ったことそのまま口にしただけだろ」

ダインはそういって、彼女に笑いかける。

「素人なりに頑張って作ってみた定食なんだ。口に合うかどうかは分からないが、なるべく冷めないうちに食べてくれると有り難いんだけどな?」

と彼から聞いて、ラフィンのお腹からグゥと音が鳴った。

「あ…そ、その…」

「やっぱ腹減ってんじゃん」

「え、ええ。いただく…わね?」

そのとき食堂の方から、(ラフィンの分食べちゃうわよ!)、というディエルの声がする。

「ちょ…! だ、駄目よ!」

走り出そうとした彼女を、「待った」、とダインがまた呼び止めた。

振り返ろうとするラフィンの腕を掴み、そのまま引き寄せて後ろから抱きしめる。

「きゃっ…? だ、ダイン?」

少し驚く彼女に、「安心してくれたか?」、そうきいた。

「え? あ…う、うん…」

「生徒会長の仕事、ちゃんと続けられそうか?」

続けざまにダインにきかれ、ラフィンはびくりと反応してしまった。

恐らく、ダインは気付いていたのだろう。今回のことをきっかけに、ラフィンは生徒会長という役職を辞退しようと考えていたことを。

「俺が戻れるかどうかは完全に不透明だけどさ、お前が生徒会長のままでいてくれたら、あの学校も大丈夫だと思うんだ」

ラフィンをしっかりと抱きつつ、ダインはいった。「続けられそうか?」

「…ま、任せて…」

ラフィンはいう。「自分から立候補してあの座につけたんですもの。投票してくれた人たちのためにも、やり遂げてみせるわ」

彼女からそうはっきりと聞けて、ダインは笑った。「さすがラフィンだ」

「あ…で、でも…」

しかしラフィンは途端に自信のなさそうな声になっていく。「また…今回みたいに、気持ちが沈んじゃうときもある、かも…」

察しの良いダインなので、彼女が何を望んでそういったのか、すぐに分かった。

「いつでも俺を呼べばいい。気持ちが回復するまで…お前の気の済むまで、こうしてやるからさ」

ラフィンの腹部に回されたダインの腕に力が込められ、また彼女の制服に沈み込んでいく。

「ん…」

ラフィンは耳まで赤くさせながらも、その表情は嬉しそうで、彼の手に自分の手を重ねた。

ダインの感触や温もりをしっかりと感じ取り、胸の高鳴りとは逆に強い安堵感を得られたそのとき、ダインの腕が離れていった。

「ほら、早く戻らないとマジでディエルに食べられちまうぞ?」

そう笑いかけてくる彼に、ラフィンは小さく呟く。「あ…あり…がと…」

そのまま厨房を出ていき、元の席に戻ったようだ。そこから先ほどよりも賑やかな声が聞こえだす。

(ちょ、ちょっと! 本当に茶碗蒸しが半分減ってるじゃない! ディエルッ!!)

ラフィンの大きな声がする。どうやら元気を取り戻してくれたようで、ダインはまた笑い声を上げてしまった。

「…さて、俺もそろそろ混じるかな」

蒸し器の中のプリンが完成したのを見届けてから、彼は自分用の定食を乗せたお盆を持った。

シンシアたちのいるテーブルまで向かい、スペースを空けてくれたルシラの隣に腰を降ろす。

相変わらず美味しそうに料理を食べてくれる彼女たちに笑い声を上げつつ、「じゃあそろそろ話そうか」、ダインは告げた。

「奇襲戦の最中に、お互い何があってどうなったか。情報を共有しようぜ」

「メールだけじゃ全部伝わらないからな」、そういって、彼はまず始めに自分に起きた出来事をゆっくりと語り始めた。

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