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月姫は笑わない  作者: 雨雪雫
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序章2 つき姫の塔 (1)

 マリアはごく一般的な町民だ。魔力の保有量を表す魔力値も低く、身体能力も平均。容姿もありふれた金色の髪に碧眼、胸も控えめ。決して目立つ方ではない。事実、殿方に言い寄られたこともなければ男友達もいない。マリアは非モテを自覚していた。それでも両親や友人達と楽しく幸せに毎日を過ごしていた。


 しかし、その幸せはある日突然、崩れさった。母が謎の病気で昏睡状態になったのだ。


 マリアと父はあらゆる民間療法を試したり、何人も町医者を呼んで診てもらったりしたが、一向に回復することはなかった。とある町医者によれば、これは病ではなく、強力な呪いだと診断した。


 呪い。それを解除できるのは呪いを行使した者と同等以上の力量を持った呪術師か僧侶だ。しかし、呪いの解除は下級階層にとっては恐ろしいまでの金額が要求される。呪いが強力であれば、金額はさらに跳ね上がる。ただでさえ何人もの町医者を診てもらったことが起因して貯蓄は底をついていた。その上での強力な呪いの解呪。希望はどこにもなかった。


 このままでは母は助からない。マリアは直感した。なんとしても、解呪の料金を稼がなければいけない。


 決意したものの、稼ぐ方法がない。父の仕事、雑貨販売の手伝いをしようにも、マリア一人増えたところで売上が大きく変わるわけでもない。ギルドと呼ばれる、何でも屋の仕事を請け負うにも、魔物を倒す力もなければ薬草等を採取できる知識もない。


 苦しむ母を助けられない無力感は焦燥感となり、マリアを追い詰めた。マリアのような何もできない小娘が大金を稼ぐ方法に、まともな方法はない。つまり、娼婦になるか、ギルドで発行されている、誰も受注しない命をかける危険な仕事をするか。


 その二つを天秤にかけ、自らの命をかける仕事を選ぶことにした。贅沢を言うつもりではなかったが、見知らぬ男に確実に純潔を散らすのならば、もしかしたら助かる命をかけた方がマシだった。


 兎にも角にもまずはその仕事を受注しなければならない。ギルドに初めて足を運び、幼なじみの受付嬢に事情を話して危険な仕事を紹介してもらう。


「マリアちゃんの気持ちはわかるけどさ……やっぱり、考え直さない? 例えば、皆からお金を一時的に借りるとかさ。もっとマシな解決方法があるはずよ」

「父もその手段は検討していたみたいですが……金額が金額ですので、難しいみたいなんです……」

「そうなの……。うう、どうしておばさんが呪われなきゃいけないのよ……。おばさんが何をしたのよ……」

「……」


 マリアは泣きそうになる自分を叱咤し、もう一度危険な仕事の紹介を頼む。もう、これにすがるしかないから。


「マリアちゃんの決意は分かったけれど……本当に危険な仕事よ? しかも、皮肉なことに呪い関連の」

「呪い……関連……ですか?」

「そっ。マリアちゃんも知ってるでしょ? 『幽閉されし憑き姫』」

「幽閉されし……つきひめって……あの、怖い話の?」


ーーーーーーーーーーーーーー



 『幽閉されし憑き姫』


 今は滅びた、とある小さな小さな王国のお話です。


 王様と王妃に、待望の娘が誕生しました。


 しかし、その女の子は悪魔が憑いており、呪いを体現したような姿をしていたのです。強い魔力を帯びた銀色の髪。目をあわした者を呪い殺す魔眼の赤目。


 王様達はそれでも娘を育てようとしましたが、気味の悪い行動をとったり、理解不能の言語を操り、ついには王様を呪殺しようとしました。


 幸いにも王様は助かりましたが、王妃は怯えて、人が変わったかのようにヒステリックになり、王様は恐怖のあまり毎日のように命乞いをするようになりました。


 話し合いの末、その悪魔憑きの娘をとある塔に封印することにしました。何重もの魔法壁を張り、何重もの鍵をかけて、決して、決して塔から出てこれないように。


 これで、私達はあの悪魔から解放された、と王様と王妃は大層喜びました。盛大なパーティーを開き、結局その娘には名前すら付けずに記憶の彼方に追いやることにしました。


 しかし。その呪いは。


 塔に閉じ込めたぐらいでは封じることなんてできずに。


 王様達は、まるで呪われたかのような非業の死を遂げました。


 それに留まることはなく。


 その王族の血縁者、関係者全員が次々と謎の死を遂げ、ついには、その王国に生きる者全員がこの世を去り、国は滅びたのです。


 そして今でもどこかで、彼女は。


『憑き姫の塔』で幽閉されて、呪詛を吐き続けているのです。


ーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれって……作り話ですよね? だって、関係者全員が呪殺されたら、お話を伝えられないし……」

「あたしもずっとそう思ってたわ。……でもね」


 受付嬢は一枚の依頼書を受付カウンターに置き、本当にあるみたいなの、と呟いた。

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