99 村人、会いにゆく。
動くモノの無い、【 バイオ工場 】。
「工場長は……どうするんだ?」
「…………」
キュアとシーナ、そして……工場長は工場が見える丘にいた。 ココまで、シーナが共に旅してきた愛馬が繋がれている場所だ。
工場長は、工員のゾンビ化の経緯を話してからは……ソレこそゾンビの如く知性を感じられない様子でキュアとシーナの命令に従っている。
「……ハァ、工場長の部屋の扉を開けるまでは───殺す事も覚悟しておりましたわ」
「……ああ」
シーナは、毒気の抜けた顔をしている。 恨みは有るだろう。 嘗ては自分が、今は兄のイーストンが病に苦しんでいるのだから。
「みっともなく命乞いでもして下されば、殺せたのですが」
「そ、そうか」
何かが、『 キュッ 』 と上がったキュア。 下腹部の辺り。
「コイツは、我が村へと連れ帰りますわ。 コイツの私財で償わせるつもりですし……」
「コイツ等が河川を汚染しても逮捕されず、君の兄の訴えが無視されるぐらいだしな……殺すのは面倒かもしれない」
「ええ」
水を汚す。
【ドラゴンハーツ】世界にも現実にも、汚水処理場といった物は原始的な物しか無い。 多くの人間を殺すに等しい行為であり、大罪である。
【ドラゴンハーツ】では分からないが、現実では死罪。
【 バイオ工場 】が許容されたのは───
「新社長とやら……国の人間なのか?」
「辺境の小さな村だから見捨てられた……とかでしょうか?」
どちらにせよ、面倒臭そうな話である。
「まあ、キュアさんから頂いた【 朽ちかけた病忌避石の指輪 】の指輪から【 キュア 】を会得しましたし……兄は安心ですわ」
「送ろうか?」
「……いいえ。 今はまだ村も汚染されていますし───兄も、病に倒れた姿は見られたく無いでしょう」
「そう……か」
「……実は、兄は元気な時───キュアさんの自慢ばかりしていたのですわ」
「へ?」
「そして……ワタクシは、そんな兄を救って下さったキュアさんを尊敬していました……が。
自分勝手な人でした」
「……済まない」
「……ふふっ、冗談ですわ。
兄を二度も救って頂き、感謝いたします。
今は恩人を村に招待する事、叶いませんが……いずれ」
「ああ、いずれ」
シーナは、キュアのマップボードに自分が住む村の位置を書く。
【 バイオ工場 】から川沿いに十数km下った辺りに記された、村のマークと【 辺境のロス村 】の文字。
「俺も、随分会っていない妹に会ってくるよ。
───ずっと……待たせてしまった」
「それは喜ぶでしょう」
「そうだと良いな……では」
「では」
シーナは愛馬にまたがり、工場長を連れて去っていった。
野盗や魔物などが不安だが……【ドラゴンハーツ】の『アレ』で、シーナ達は安全なのだろう。
≪サブイベントクリア!≫
「サブイベント終了か」
いつも感傷に浸っていると出てくるリザルトボード。 無粋だなと思いつつ……そのお陰で引き摺らずに居れるのかもしれない。
「どれどれ……」
☆【 バイオ工場でハザード 】完了
『 金1800 』
☆グレードゾンビを倒す
『 SP3 』
☆ゾンビを全員倒す
『 SP2 』
☆マスクを使いきる前にクリア
『【 シーナの縫製屋 】開店 』
★機密書類を発見
『 ゾンビ化薬 』
「グレードゾンビ……あの30匹の中に居たのか?」
ちなみに、グレードゾンビのHPは他のゾンビの10倍以上。 弱点だろうと 【 ファイヤーボール 】の一発二発では倒せないし、他のゾンビの爆発に巻き込んでも中々倒せはしない。
「マスクを使いきる前に……で、この報奨───いや、まさかな」
シーナは、たまに嫌な咳をしていた。 あまり想像したくない結果を考えてしまう。
「ぞ、ゾンビ化薬……こんな物貰っても困るだけだったな。
───さて……久々にログアウトするか。
クリティカル、怒ってなければ良いが」
そして───兄は、妹に会いにゆく。
◆◆◆
「ク"リ"テ"ィ"ィ"カ"ア"ア"ア"ル"ゥ"…………会"い"た"か"っ"た"せ"ぇ"ぇ"」
「……私は会いたく無かったわ。
兄さんの男らしさの一億分の一も持たない、矮小な男」
クリティカルと討伐隊、領主館の執事コリアンダーは街の中央区に有る公園へと来ていた。
【 炎の化物 】が向かったと思われる、【アジルー村】の村民が収容された施設。 そこから……真の目的地であろう領主館の直線上には、この公園が在った。
クリティカル達は、この公園を最終決戦地と決めたのだ。
「き"ぃ"ぃ"さ"ま"ア"ア"ア"ア"っっ!?
誰"か"誰"に"劣"る"た"と"ぉっ!?」
「……ふん、やはりアナタだったのね。
アシッド」
「く、クリティカル!
アシッド……様を侮辱するな!」
アシッドに連れて来られた【アジルー村】の村民達。 見れば、収容されていた人数と合わない。
村長と……あと数人。
クリティカルの記憶が確かなら───
「村長と、兄さんに足の腱を切られた連中は置いてきたの?」
「……っ」
村民達は引きつり……アシッドは。
「オ"レ"の"命"令"を"聞"か"な"か"っ"た"連"中"な"ら"…………食"っ"た"せ"ぇ"ぇ"」
「…………」
村民の顔を見れば……事実なのだろう。
「身も心も、本物の化物なのね……。
……本当に下らない男」
「き"さ"ま"ぁ"……」
クリティカルに恐怖は無い。
自分の後ろには、下らない男と比べる迄も無い……最高の兄が居るのだから。