98 村人、廃水を止める。
「そもそもですわね、キュアさん!?」
「……はい」
「ワタクシも【 ゾンビ 】の正体が、何であれ 『 倒す 』 と言いましたわよね!?
言いませんでしたか!?
ワタクシ、言い忘れていましたか!?
ソレは済みませんでしたわ!
ああ、何と愚かなシーナ!」
「済まない……済まなかった……。
つい───」
「『 つい 』 !?
まあ、キュアさんは 『 つい 』 で、可憐な乙女の兄を苦しめる敵を誅する権利を奪うと!?」
「御免なさい……」
勝ち気げなツリ目をさらにツリ上げて、キュアにガミガミと怒る少女……シーナ。
シーナとて、キュアが自分を慮って取った行動だとは分かっている。
シーナの兄、イーストンがキュアの恩人らしい。 彼が苦しむ原因となった【 バイオ工場 】の連中に怒っているのも分かっている。
ソレでも……ソレでも、だ。
仲間と思っていたキュアに、置き去りにされ───その挙げ句が工場全体を揺るがす大爆発。
シーナはキュアに対し、何とも言えぬイライラを感じていた。
「工場長とやらは、君の好きなように煮るなり焼くなりしてくれ。
俺はフォローに徹する」
「当然です!」
嘗てはシーナを苦しめ、今はイーストンを苦しめる、川に垂れ流されている【 バイオ工場 】の毒液。 イーストンは、この毒液を何とかしようと……工場長の家に忍びこみ───逮捕。
天空牢獄に捕まったという。
シーナにとっては、もはや命を掛けるべき事柄なのである。
「だが、せめて確認させてくれ。
【 ゾンビ 】の悪臭は防げているか?」
「・・お陰様で!」
30匹分の【 ゾンビ 】の爆発から吹き出た毒ガスは一応、臭いが無くなってから工場内に入ってきたキュアとシーナ。
【 防毒のマスク 】は使い捨てであり、最初は白……茶色になったらもう毒は吸収しなくなる。
現在、マスクは多少黄ばみがかってはいるモノの……充分使える。 予備もたっぷり残っていた。
「…………。
え、【 エネミービジョン 】のモヤはアッチだ……です」
「───はあ。
もう許してあげますわ。
……でも約束だけはして下さいな。
一人だけで何でもヤろうしない事。
仲間を心配させない事」
「わ、分かった。
約束しよう」
どうも、世の中の 『 妹 』 と呼ばれる人種に頭が上がらないキュアであった。
◆◆◆
「ここですわね」
「ああ」
工場長室。
キュアがゾンビから得た鍵の部屋である。
「黄色いモヤは部屋の隅で震えあがっている。 ……いくぞ!」
「ひいっ!?」
「工場長、観念なさい!」
先程約束したばかりではあるが……キュアが扉を開けて、安全を確認する。
部屋に居たのは……高級そうな服を纏いデップリと太った5~60代の男。 典型的な成金といった感じだ。
「許してくれ、許してくれ、許してくれ……」
「…………。
ビビり過ぎだな」
「あんな爆発を起こすからですわ」
許すと言ったわりに、チクチク刺してくるシーナ。 女、コワイ。
「工場から毒液を垂れ流すのは止めろ」
「わ、分かった……!」
「「…………」」
余りに素直な工場長に、不信を隠せないキュアとシーナ。
武器は持っていない。 所持品も特に無し。 怪しい所はないが……。
「あのゾンビはなんだ?」
「っ……」
ゾンビについて聞かれた途端、息を呑む工場長。 侵入者より恐れているらしい。
「───し、暫く前にウチは買収されたんだ。 ソレ以前は唯の洗剤会社だったんだが……新社長がウチの技術を使って新しい薬を作るようにと、レ……レシピを」
「あの魔物……この【 バイオ工場 】の制服を着ていましたわね?」
「……その薬を作り始めて───数日後に一人、工員が死んだ。
風邪みたいな症状だから、肺炎だったのだろうと近くの墓地に埋めたら……蘇ってきたんだ」
「「なっ……!?」」
「恐怖のあまり……工員全員で工場全ての鍵を閉めて、工場内に閉じ籠っていたら……一人、また一人と───
……ゾンビになっていったんだ」
虚ろな目の工場長。
まるで芝居のナレーションでも読んでいるかのような……ある意味、他人事みたいに話している。
「───おい、まさかその薬とやら……川に垂れ流してはいないだろうな!?」
「そ……ソレは大丈夫だ。
洗剤工場と薬工場は別で……薬工場からは廃水が無い。
本当だ!」
シーナと頷きあうキュア。
ココを疑いだしたら、キリが無いからだ。
「…………分かった、信じよう。
ゾンビは皆、退治した」
「ほ、本当か……!?
いや……この部屋まで来たのが証拠か。
───ああ……皆……」
後悔したふうの、工場長。
川を使う村々に平気で迷惑は掛けるが……身内には優しいのかもしれない。
自分達の儲けのため、毒液を垂れ流す悪徳連中が何を───といった感じで、不快感を隠しきれないシーナ。
「…………。
洗剤工場の廃水とやらを止めろ」
「分かった」
工場長の案内により、廃水施設へ移動。 川への毒液流入を止めさせたキュア。




