97 村人、頭チリチリ。
「な……なんだこりゃ……!?
コイツ等が、見た事ない魔物なのか?」
「そうですわ、キュアさん」
キュアと、キュアの恩人イーストンの妹のシーナ。
彼等の前に現れたのは……。
〔 ウー……アー…… 〕
「人間の……し、死体みたいな魔物だな。 服も着てるし」
ソレは文字通り、動く死体。
皮膚が崩れ、身が腐れている。
動きは緩慢で、知性は見られないが……何とも言えぬ薄気味悪さを感じてしまう。
「ラットマンみたいに、人間の真似をする魔物───いや、違うな」
「ええ……。
ラットマンやドッグマンは、世界中ドコにでも居ますが───アレはココ、【 バイオ工場 】でしか見た事の無い魔物ですもの」
「どれどれ……?
【ゾンビ:LV23:HP100%:弱?:耐?】か。
ゾンビとは何だろう……?」
「聞いた事が有りますわ。
大昔……とある邪法を死体に施すことで、死体を動かしたらしいと。
その動く死体の事をゾンビと呼ぶとか」
「炎を操る魔法が有るなら、( 【ドラゴンハーツ】ならば ) 死体を操る魔法も存在するかもしれんが……ん?
───って事は、まさかココのゾンビは…………」
「工場の……職員?
い、言われてみれば、汚れたりボロボロに成ったりしていますけど……ゾンビの着る服は工員の制服みたいですわ!」
顔を顰めるキュアとシーナ。
理由は分からねど……目の前の 『 アレ 』 は、元 『 人間 』 なのである。
「シーナ……忌避感が強いなら、俺が奴等を全滅させるまで───」
「……いいえ、キュアさん。
この工場の人間は、下流の村々の事など考えずに毒液を川に垂れ流しているのです。
兄を救うために、悪徳の連中を誅する事に躊躇いは有りませんわ」
「……そうか」
キュアは必要なら、盗賊を殺したりもする。 躊躇いがカケラも無い殺人狂ではないが……切換は出来る。
「取敢ず、あのハグレのゾンビを狙おう。
【 ファイヤーボール 】!」
キュアは、建物から離れて一匹 ( 一人、では無い。) で歩くゾンビを狙う。 【 隠れて攻撃すると追加ダメージ 】も相まって……一撃でゾンビのHPは、0%に成った。
───が。
〔 ア……アア"ァ"ーー……─── 〕
ゾンビが、爆発した。 爆風そのモノは届かなかったが……悪臭は爆風に押されて強くなる。
「がほっ!? げほっ!?
ぞ、ゾンビが、ば……爆発した!?」
「く……腐った死体は、膨らんで爆発することが有ると聞いた事が有りますわ」
「そ、そういえば俺も死体から燃える空気が出る時が有る……と、シナモンさんから聞いたなあ」
防毒のマスク越しにすら匂う悪臭。
堪らない。
別の場所へ移動し、ゾンビをチェックするキュア。
「【ゾンビ:LV21:HP100%:弱 炎:耐?】……か。
炎以外で攻撃してみよう」
「はい」
「【 ウォーターボール 】!」
ゾンビに水球が命中するも、多少ヨロケた程度。
〔 ウー……? 〕
「潜伏攻撃なのに、生き残ったな……。
【ゾンビ:LV21:HP62%:弱 炎:耐 水】か」
「た、たぶんですけど……炎以外は効かない気がしますわ。
───ゴホッ」
「同感だ。
然りとて、接近戦はな……」
先程爆発したゾンビの匂いは、未だに鼻にこびりつく。 シーナは病み上がり。 無茶はさせられ無い。
「【 エネミービジョン 】の範囲は若干越えるが……ヤレるか?」
「キュアさん?」
「シーナ、このマスクは一枚だけ貰う」
「は? え?」
◆◆◆
「【 バックステップ 】【 二段ジャンプ 】……【 エネミービジョン 】【 ワイド・ウォーターボール 】!」
キュアは【 バイオ工場 】内を、縦横無尽に駆けまわる。 ゾンビを見かければ、【 ウォーターボール 】で気を引く。
奥まった所に、中庭のような広場を見つけた。 お誂え向きに周囲が壁で囲まれてある。
工場内のゾンビを、広場の一カ所に集めたキュア。
「───【 炎特防 】。
喰らえっ、【 ファイヤーボール 】!」
〔〔〔 ア"ァ"ー……───── 〕〕〕
だいぶ集まったキュアの杖魔法。 制御も融通が利きつつある。 サイズは極小、威力は極上。 MPを計算ギリギリまで使った、たった一発の【 ファイヤーボール 】を……ゾンビの群の中心へと撃ち込む。
……【 バイオ工場 】全体を揺るがす大爆発。
「ぐうぅ……………………っっ!!」
【 ファイヤーボール 】をキャンセルした【 バックステップ 】で、撃ったと同時に物陰にキュアは隠れたが……ソレでも熱風と激震がキュアを襲う。
……が、MPを計算し尽くした【 ファイヤーガード 】で受けきったキュア。
≪シークレットトロフィー、
『一度に4匹のゾンビを同時に倒す』達成。 SP5贈呈≫
「は……はは……。
久々……の、シークレットトロフィー……だな」
ほぼほぼ、【 バイオ工場 】内のゾンビを一発で倒したキュア。 ちなみに……キュアが一度に倒したゾンビは30匹を超えていた。
◆◆◆
「シーナ、毒の風は大丈夫だったか?」
「いやいやいやいやいやいやいや、キュアさんこそ大丈夫ですのっ!??
工場全体が揺れてましたわよ!?」
キュアの指示通り、安全な場所に居たシーナだったが……作戦をちゃんと聞かされぬまま───暫く待っていたら工場から大爆音が聞こえたのだ。
キュアの無事を確認するまで、気が気でなかったシーナであった。
「いやー……キツかったが奴等、コレを落としたぞ」
「……はあ。
もう二度と、こんな無茶はしないで下さいな……」
飽きれ顔のシーナ。
キョトンとするキュア。
シバきたい。
「で、コレは……鍵ですか? 【 工場長室の鍵 】?」
「【 エネミービジョン 】で、黄色いモヤを見つけた。
工場長はソコに居るハズだ」