95 村人の妹、数少ない恩人と話す。
「母さん……」
「ヘイスト……アタシゃ目は見え無いけどねぇ、魔力を肌で感じるチカラが有るんだよ」
「そうだね。 そのチカラに導かれて出た旅が、父さんと出会うキッカケに成ったんだろう?」
「ええ、そうだよ」
一般的には大火事とされている、今回の警鐘。 この街は地下水は抱負だが、地表に川は無い。 街人は数少ない雨水を貯めた貯水地へと集まって来ていた。
「この火事……唯の火事じゃあ無いね?」
「…………」
「アンタとキュアさんからも……似た匂いがするよ」
「母さん……」
「行っておくれ。 領主館の皆を助けてあげるんだよ。
……たぶん、ソレが一番キュアさんの助けになる」
見えぬ筈の目で、しかとヘイストを捉えるヘイストの母。
「行け、ヘイスト」
「ジギン」
「キュアの兄さんの怪我にゃあ、俺にも責任が有る。
グサビキは捕らえた。 テメェの不始末はテメェで着ける。
お前の母ちゃんは任せろ」
「…………。
分かったよ、母さん」
「出来れば、そのまま掴まえておくんだよ」
「母さん! ……ったく、行ってくるよ」
◆◆◆
「一班、配置完了。 二班、配置完了。 三班、配置完了。
地域住民、避難完了───」
「射て!」
【 炎の化物 】を取り囲んだ討伐隊が、一斉に矢を射つ。
矢に風魔法に纏わせ、速度を上げたり、激しく回転させたり。 通常の魔物ならば原型を残さぬ程の、矢の雨あられ。
……しかし。
「コ"あ"ア"あ"あ"ァ"あ"ア"ア"あ"っ!」
「ぐあっ!?」
魔物の腕の一振りが放つ炎の乱気流が、矢のほぼ全てを途中で失速させ巻き上げる。 僅かに届いた矢も、体表で燃え尽きた。
更に、乱気流を巻き起こす熱波は討伐隊の一部を呑み込む。 直接炎を喰らっていないというのに、酷い火傷である。
「隊長!」
「───水魔法使いを呼べ」
「しかし、彼等は街の消火を……」
「火元が歩いて、更に火災を振り撒いているんだぞ!?
奴を先になんとかしないと、被害が拡大する一方だ!」
「わっ、分かりました」
討伐隊隊長の判断により、水魔法使いが呼び寄せられるも。
「こ……こんな距離から魔法を放てと!?」
「奴の熱波の範囲は尋常じゃない!」
「矢に纏わせて飛ばす、風魔法と一緒にしないで頂きたい!
水が、どんなに重たい物質か知らないのか!?」
「街が襲われているんだぞ!?」
「だから消火に回っていたんだろうが!」
「良いから水を奴に向けて放───」
「こ"ち"ゃ こ"ち"ゃ ウ"ル"セ"ェ"!」
「がっ……」
指向性を持った熱波が、喚く隊長を直撃。 彼の体表から肺の内部まで……その全てを焼き尽くした。
「こ、こんな距離でも届くのか……。
しかも、私の水幕を貫いて熱が……!?
こんな化物をどうやって───」
◆◆◆
「討伐隊の攻撃、届きません!」
「なんと───」
領主館の執事コリアンダーの下へ届く、数々の凶報。 有り得ぬ強さの魔物だ。
と、ソコへ……やや梲の上がらない討伐隊の男が、コリアンダーの前へと出てくる。
「こ、コリアンダー様に話が……!」
「貴様っ!? 平のクセに、御貴族様に向かって……」
「良い。 今はどんな小さな情報でも欲しい。
何か?」
化物出現にあたり……街の討伐隊だけでは足りないと判断されて、近隣中から集められた各地の村々を守る討伐隊達。
そのウチの、一隊を纏める隊長である。 とかく、街の討伐隊は……彼等を田舎者と見下す傾向に有る。
然れど街中にまで魔物が侵入するケースなど殆んど無く……実戦経験は、進言した隊長の方が遥かに上なのだ。
「や、奴は街の破壊より……何処かに進む方を優先させてるらしいんでさ」
「現に街に、とんでもない被害が出ているだろうが!」
「しかし、俯瞰して見れば破壊跡は一本道で───」
「偶々だ、化物にそんな知能が……」
田舎隊長の言を、纏めて否定する街の討伐隊。 田舎隊長が諦めてクチを閉ざそうとすると。
「あら、シナモンさん!?」
「く、クリティカルちゃん?」
「知り合いか、クリティカル」
「はい、コリアンダー様。
【アジルー村】も担当される方で、実戦経験は確かです。 ソレ等からくる知識は確かな物で、幾つもの村を救っていますわ」
「なっ……」
キュアが、【アジルー村】の命令で魔物の群や盗賊のアジトへ突っ込まされた時に……色々と世話をした者である。
魔ナシ差別をせず、様々な知識をキュアに惜し気もなく与えた男であり……今のキュアの強さの源と言っても良い。
「こ、コリアンダー様……田舎者が辺境の魔物相手に得た知識など───」
「シナモンとやら、化物の進路予想図は有るか?」
「コリアンダー様!」
「へ、へぇ……アッチへ向かっているようでさ」
「彼方で魔物が喜ぶ物など無いぞ」
「だから、田舎者など……」
「いいえ、コリアンダー様。
もし化物が 『 奴 』 なら……あの先は」
「……?
───っ、【アジルー村】の村人を収監している施設か……!」




