81 村人、鳥を幻視する。
「がはっ…………!」
『 敵 』 に吹き飛ばされ、壁に激しく叩きつけられるキュア。 内臓が傷ついたのか……体の奥から血を吐き出した。
「かハはは……弱イなァ、きュア。
ヤっぱ、俺ノ方が強イんだッっ!!」
「( なっ、何なんだコイツは!?
確かに【ドラゴンハーツ】のスキル、【 隠れて攻撃すると追加ダメージ 】や【 総合攻撃力2%UP 】は、発動していたんだぞ!? )」
キュアの鍛えあげられた肉体、戦闘技術、【 スキル 】……これ等が高いレベルで纏まった、その一撃を防げる生物はそう居ない。
まして───人間ならば、分厚い鎧ごと貫かれて大穴が開く一撃だったのだ。
超熱で防ぐとかいうレベルではない。 それは……もはや、神か悪魔の領域だ。
「…………ナんだァ? そノ顔……?
マさか、俺ノ事が分カらんナんテ言うナヨ?」
「───……だ、だれ……だ?」
「くクク……」
『 敵 』 が、近くに有った机を持ち上げた。
マフィアの頭目であるグサビキ用の机なのか……頑丈で、とてつもなく重いハズの机を───片手で。
「なっ……!?」
「ホらほラ、逃げロ逃ゲろ」
「くっ───」
全身の痛みを堪え、なんとか立ちあがるキュア。 だが……とても走って逃げられる状態ではない。
そんなキュアを……『 敵 』 は、ニタつきながら眺める。
「軽~ク投げルぞ?」
軽く……と言いつつ、『 敵 』 は振りかぶってキュアに机を投げつけた。
音速を超えて飛来する机。 爆ぜる空気。 轟音。
机はグサビキのアジトの土壁を、紙の如く突き破り……なお、外にある建物を破壊しながらに直進してゆく。
「やっチまッタ……もっト甚振ッテかラ殺スつもリだっタのニ……」
「( …………っ )」
キュアは……避けていた。
【 バックステップ 】を激痛の中、極限状態で使ったのだ。 何度も死線を潜り抜けた経験のみが成しうる、究極の集中力である。
壁が破壊され、舞い起こった埃に紛れて 『 敵 』 の死角へ移動。 痛む体を堪え、なんとか【 しゃがむと、潜伏力UP 】を発動させるキュア。
キュアを見失う 『 敵 』 。
一瞬……安堵し、キュアは隙を作ってしまう。
───その、一瞬が命取りだった。
≪其処の壁に、隠れています≫
「あ?」
「( っ!? )」
キュアと 『 敵 』 以外の─── 『 声 』 。
キュアは、不自然に舞う……火燐を幻視した気がした。 鳥の形だった気がする。
『 敵 』 が、『 声 』 の指事する方へ向くと……特に、机では怪我をしていなさそうなキュアがしゃがんでいた。 笑う、『 敵 』 。
「へ……へヘ…………。
シぶトイなア、キュあ!」
「くっ……」
笑いながら、ゆっくりキュアに近付く 『 敵 』 。
逃げる事も儘ならないキュア。
必死に手を動かし、土壁の折れた芯を掴み…… 『 敵 』 へと向ける。
「はッ。 剣スら効カネぇ俺ニ、そんナ物ガ通用すル訳無イだろウが!?」
心底嬉しそうに、『 敵 』 はキュアに近付く。 無防備に。 慢心して。
……魔法以外は愚鈍だな、とキュアは思う。
「死ィ───」
「【 メイク…………」
キュアは……自らの手の中にある、竹に似た土壁の芯を 『 杖 』 と思いこむ。 実際の戦場でも武器不足により、細長い鉄板や鉄棒を咄嗟に剣代わりにした事は有った。
其に比べれば、容易い。 容易い事なのだ。
「…………ハンマーーー 】っっ!!!」
「ギ───ぎャあアああァぁあアアっ!?」
キュアの奮った土壁の芯から、ピンク色の光が伸びる。
この世界の、何処にも存在しない魔法。 天上天下……魔ナシであるキュアのみにしか放てぬ、眩き魔光。
「───出た……そして、奴に攻撃が通った!」
キュアは一瞬、躊躇った。
対外的には 『 魔ナシ 』 であるキュアが、現実で魔法を使う事は……色々問題が有るからだ。
その問題は、クリティカルにも及び得る。
それでも。
それよりも。
この 『 敵 』 の方が、クリティカルにとって危険だと判断したのである。