8 村人、VR内で魔法を使う。
「し、仕方ない……。
犯罪は嫌だが、無実の罪で囚われて死ぬのもな」
「その意気だぜ!」
一度ゲーム内で死んでしまったキュアは、慌てて自分の牢屋から脱出すると、先程まで立っていた場所の壁が爆発。 魔物が侵入してきた。
開いた壁の穴からは、遥か下に地上が見える。 キュアが居るこの【天空牢獄】は、その名の通り高所にあるらしい。
高所恐怖症に成ったキュアが身震いしつつ、壁の穴から出現した翼を持つ魔物へと向きなおる。 現れたのは、前肢にヒダを持つ体長3m程の翼竜。
「……空中に、板?
【レッサーワイバーン:Lv4:HP100%:弱?:耐?】?」
「ひいぃ!
ち、ちくしょう……出やがった!」
キュアが魔物を観察していると、何やら色々と書かれた板が出現した。 【仮想現実装置】内の、他のアクティビティでも度々出てきた説明ボードに限りなく近い。 おそらく【レッサーワイバーン】がこの魔物の名前で、他は何らかの情報だろうとキュアは推測する。
「オマエ等、戦闘経験は有るか!?
衛兵部屋から武器をくすねておいたから、好きなのを選べ!
じゃあな!」
「ぶ、武器っ!?」
鍵開け囚人が 『剣』『弓矢』『杖』 を適当に投げて走り去る。
キュアは剣での戦闘経験が有った。
両親が死んだ13年前から、アジルー村の連中は子供と言えど体が大きく魔ナシであったキュアを 『生きた肉盾』 として単身、魔物や盗賊の前に放り出してきたからだ。
こんな村民達など、守りたくはない。
……が、素っ気ない態度を取りつつも、愛する大事な妹クリティカルを守るためにキュアは死にもの狂いで魔物等と戦ってきた。
とあるベテラン討伐隊員からは、
「魔法しか通用しねぇ魔物も居るだからよ、討伐隊には誘えねぇべが……剣だけならオラより筋が良いだやな 」
などと誉められた事もある。
なので普段なら、真っ先に 『剣』 を選んだだろう……しかし。
「なんで杖が武器なんだ?」
「杖は、魔法が使えるぞ」
「まっ……魔法っ!?
魔ナシでも…………か?」
「魔ナシ? 何だソリャ??
ソレが何か知らんが、使うだけなら誰でもMPを消費して使えるぞ」
「え、えむぴー?
こっちの魔法の事か?」
未だ【ドラゴンハーツ】を 『討伐隊の職業体験アクティビティ』 と思いこんでいるキュア。
現実世界の魔法とは 『精霊の偉業』 である。 火魔法ならば、人間は魔力をふくむ精霊語で火精霊に語りかけて、火を起こしてもらうのだ。
そんな現実と比べて、よく分からない【ドラゴンハーツ】の魔法システムに混乱するも……ソコはやはり憧れの魔法。
「俺は杖にする!」
「そうか。
杖の使い方は相手に向けて魔法名を唱えるだけだ。
ソレは【弾丸の杖】だから、敵に向けて【弾丸】だぞ!」
「よ、よし……!
【弾丸】……おおっ!?」
キュアの詠唱と共に、杖の先からゴルフボールサイズの魔力球が生成され、魔物目掛けて飛んでゆく。
魔物は怯んだ程度ではあるが。
VRの中だけの出来事ではあるが。
「魔法……俺が。
魔ナシの俺が……魔法を…………!」
───産まれて初めての『魔法』に、キュアは感動していた。