78 村人、『 裏 』 に片足を突っこむ。
「サブイベン───依頼か。
悪いが、俺は領主館で働く身だから……」
「ヘイストの母ちゃんの安全にも関わる……と言ったら?」
断れば、ヘイストの母親に危険が迫る───ジギンの言葉の、その意味を……キュアは。
「貴様……」
「ジギン!?」
腰の剣に手をかけるキュア。
ヘイストも鬼気迫る勢いで、ジギンを睨む。
「おっと、勘違いするな。 オレがヘイストの母ちゃんを、どうこうするって意味じゃない」
「ならばどいゆう意味だ、ジギン!
母さんの安全だと!?」
ジギンは部屋の中央、自らの席に着く。 キュアとヘイストにも客席へ座るように促し……やや、しぶしぶながら着席する。
そのタイミングで運ばれてくる飲食物。
「オレも鼻を垂らしてた頃は、ヘイストの母ちゃんにゃあ世話ンなってる。
傷つけるつもりは毛頭ねぇ。
───が、この貧民街を仕切る3人の頭目のウチの1人が……最近やべぇんだ」
「どうヤバいんだ?」
「元は3人で一番、小心者だった男なんだが……急にシマ拡大の為に、ムチャしだしやがった。
貧民街に住んでるってだけで、暴力とは何の関係もねぇ堅気にまで手ェ出しやがる。
このままじゃ、貧民街で戦争が起きかねねぇよ」
「……いざという時、ヘイストの母親を守りきれないかもしれない訳か」
「ああ。 だから戦争は事前回避しなきゃなんねぇ」
「その男は、何故急に?」
「ソレを御兄さんに探って欲しいのさ。
オレ達ぁ、面が割れてる。
表の兵士を 『 裏 』 に入れる訳にはいかねぇ。
面が割れてなく、兵士でもなく、腕も立つ。
ハッキリ言って、今このタイミングでヘイストがアンタを連れてきたのは天啓だとすら思っているよ」
キュアを連れてきたのは、飽くまで自分の護衛であって……怪しげな話に巻き込むためでは無い。
ヘイストは、ジギンを非難しようとして……キュアに制された。
「なんで、俺をそこまで信用するんだ?」
「そこまで切羽詰まってる───っつうのも有る。
だが、ヘイストの母ちゃんが信じる奴だから……ってのがデカイな」
確かに、ヘイストの母親は本当に盲目なのか疑いたくなるほどにキュアを見ていた。
キュア ( とヘイスト ) は、気付いていなかったが……彼女はとある企みを計画しており、そのためにキュアを観察していたのだ。
そしてキュアは、彼女から合格点を ( キュア達に内緒で ) 得た。
キュアが、ヘイストの母親の合格点を得た事を……ジギンは隠れて彼女のボディーガードをしていた部下から報告を受けて知った。
「あの人が、ヘイストの敵じゃないと見極めたんなら……御兄さんはヘイストの敵じゃない。
……何が在っても、な」
「……まあ、な」
キュアは、虐げられてきた人生であった。
だからこそ、自分の味方となってくれる存在……今までは妹のクリティカルのみ、少し前から【仮想現実装置】も。 最近は更に領主館の人間達も含まれる。
彼等を、命懸けで守りたい。
キュアの矜持であった。
「キュア……」
隣で、ヘイストが頬を微かに染める。 美少年であるヘイストがヤると、中々破壊力が高い。
照れるキュア。
「本当はいつ戦争が始まっても良いように、母ちゃんを貧民街から引っ越させたいんだがよ……」
「母さんなら、「 此処で死ねるなら本望 」 とか言いそうだな」
「───事情は分かった。
だが潜入捜査なんて、俺の得意分野じゃ無いぞ?」
「最低限ソイツ等が何でムチャし始めたのか、ソレが分かるだけで良い」
「しかし……」
「もう1人の頭と話はつけてある。
最悪……戦争勃発が決定した瞬間、オレとソイツで奴等んトコへ乗り込む」
息苦しそうに最終手段を伝えるジギンに、ある意味母親が人質に取られた気分のヘイストが、やや猛る。
「何故そうしない?」
「『 最悪 』 っつったろ。
貧民街の3頭目……3すくみが崩れりゃ、パワーバランスを崩しかねん。 裏が崩れりゃ表も崩れる。
オマエ等の大好きな領主様にも迷惑がかかるぜ?」
「「…………」」
政治的な事が分からない脳筋二人は黙るしかない。 ジギンが嘘を吐いているとも思えない。
「裏の均衡よか、オマエの母ちゃんを取ったんだ。 キュアの御兄さんを使うのは、最後の良心さ」
「キュアの命を担保にして……」
「ヘイスト、良いんだ」
領主様に迷惑がかかるなら、問題はヘイストの母親だけでなく……クリティカルにも降り注ぐ。
キュアに……断るという選択肢は無かった。