77 村人、重大な勘違いに気付けない。
「ヘイスト!」
「母さん、ひさしぶり」
裏通りを暫く。 貧民街の広場。 ヘイストの生家に辿りついたキュアとヘイスト。
治安の良くない地域という認識通り、30分程の路程で10以上の善からぬ視線を感じ、1回の襲撃があった。 襲撃はラリッたドチンピラだったので、文字通りキュアのデコピン一発で方が付く。
「ヘイスト……大丈夫なのかい?」
「ああ、同僚の彼に付いてきて貰ったからね」
キュアは気付く。 ヘイストの母親である女性が、遠目からも杖をついていたのは見えたが……どうやら目が見えていない。
「( 眼病であるヘイストの母親が盲目……難儀だな )」
「キュア、自分の母さんだ」
「どうも。 ヘイストさんと共に、領主館で荷物整理をやっているキュアという者です」
「──────……」
「「 ? 」」
目の見えぬヘイストの母親はキュアの声掛けに、やっとキュアを正しく認識したらしい。 が、キュアの声を聞いてから……ヘイストの母親は固まっていた。
キュアは、昔から他人に警戒されていた。 魔ナシは、存在そのものが警戒対象だったからだ。
自分達が、そう仕向けておきながら……【アジルー村】の人間は 「 金が無い魔ナシは何時か、ドロボウでもやらかす 」 と、警戒していたのである。
「ヘイスト、俺はその辺に適当に居るから二人で……」
「い、いや、母さんは差別するような人では───」
「ヘイスト!」
「は、ハイっ!??」
満面の笑みを浮かべる、ヘイストの母親。
「……良い人を見つけてきたんだねぇ」
「か、母さん!?
何を言いだすんだ!?」
「?」
ヘイストの手を取り、満面の笑みで喜びを表現するヘイストの母親。
顔を赤くし、ワチャワチャしだすヘイスト。
自分の分からぬ会話に、ポカーンとするキュア。
「と……とにかく、そんなんじゃ無いから! ほら、コレ生活費と生活用品!」
「そうなのかい……」
残念そうに、ヘイストからの仕送りを受けとるヘイストの母親。
キュアは……さっぱり意味が分からないなりに、自分のせいで同僚の母親がショックを受けている───とは辛うじて分かったので、キュアもソレなりにショックを受けていた。
「き、キュア……済まないな」
「いや…… ( よく分からんが、 ) 俺も済まん」
「ハァ……でも、ウチでお茶ぐらい飲んでってくれるんでしょ?」
「はい、それは勿論」
という訳で、ヘイストの母親に薦められてヘイストの家へ。 キュアは色々と話を聞く。
ヘイストの母親は病気ではなく、魔物の毒を受けて失明した事。
ヘイストの眼病の事は、( どうやら ) 母親に隠している ( らしい ) 事。
ヘイストには貧民街から出て表通りの家に住もうと誘われているが、この家から出たく無い事など……。
暫く話し、夕方の風が吹きだした。
「あら、もうこんな時間かね……二人とも引き止めて悪かったね」
「いえ、俺も楽しかったですよ」
ヘイストの母親は、ヘイストの言葉通り魔ナシ差別をしなかった。 今は亡きヘイストの父親との旅行記など……魔ナシのため、ほぼ【アジルー村】から出たことの無いキュアには憧れの話ばかりだった。
挨拶をし、キュアとヘイストの二人は母親に別れを告げる。
◆◆◆
「───しかし、こんな地域に一人暮らしは心配だな」
「何度も説得したんだが、父さんがあの家で死んだから……とな。
……それに」
言って、ヘイストは来た道とは違う小道に入る。
「『 こんな地域 』 と言っても、完全な無法地帯じゃあ無いんだ」
「そうなのか?」
「自分が、昔は此処でガキ大将をやっていたという話だが……」
「ああ、貧民街に入る前に言ってたな」
やがて辿りついた建物に入るヘイスト。
キュアは警戒度を数段あげる。 建物内から感じとれる殺気が、裏通りの比では無いからだ。
玄関で、スキンヘッドに入れ墨をした30代後半ぐらいで目付きの悪い男に話しかけられるヘイスト。
「よう、ヘイスト。 久し振りだな」
「久し振り。 ボスは?」
「二階だ。
……ところで、後ろの兄ちゃんは?」
「領主館で共に働く同僚だ。
お前等の情報収集力を考えると…… 『【アジルー村】の人間 』 で通用するんじゃ無いか?」
「……ほう、兄ちゃんがね。 分かった」
下がる男。
「───最初、裏通りに入ってきた時に見てきた男だな」
「流石だな、分かるのか」
「まあ、そのぐらいはな」
二階。 ボスの部屋らしき扉の前には、二人のガタイの良い男がいた。 キュアとヘイストへ一瞥を向け、扉の前から退く。
そのまま、部屋の中に入るヘイスト。
「ジギン」
「ヘイスト、久し振りだな」
中に居たのは……赤髪をオールバックにした、ヘイストと同い年か1歳上辺りの男。 キュアから見たら、まだまだ少年といった年齢である。
ヘイストと男は握手。 二三言葉を交わしてヘイストは懐から金を出し、男へと渡す。
「彼はジギン。 ガキ大将時代の子分だ」
「あんま、ガキの頃の話しをしてくれんなよ。 今は立場ってモンがある」
「ジギンがこの辺を仕切っていてな。
人知れず、母さんのボディーガードをしてくれていてな」
「なるほど」
確かに、二人の雰囲気は長年付き合っていた者同士のそれだ。
人付き合いの経験が薄いキュアでも、ソレぐらいは分かった。
「しかし……御兄さんが、『 あの 』 ねぇ……」
「なんだ?」
キュアに、値踏みする視線を送るジギン。 しばし見つめ……ニカと笑う。
お眼鏡に適ったらしい。
「……ジギン?」
「御兄さん、頼まれちゃあくれないか?」
「ん?」
もし【ドラゴンハーツ】なら、彼の頭の上に 『 ? 』 マークが浮かぶ所だな───等と、ノンキに構えるキュア。
ゲーム脳か。




