69 村人、差別してこない赤ちゃんが実は結構好き。
キュアのフォローとして、邪教徒の一人を倒したオードリー。
己れの実力を試せて、最初は満足げで有った……が。
「喜んでばかりも要られぬがな。
私は、たった一人の敵に苦戦するというのに……キュア殿には敵わないのである」
「俺の戦法は不意打ちだからな」
「いやいや。 マトモにやろうと、1対3で勝てるのだろう?」
「…………」
元々、【ドラゴンハーツ】のスキルを使わずに【アジルー村】の肉盾として盗賊集団や魔物の群と戦ってきたキュアである。
この程度の敵なら、1対5ですら楽勝だろう。 死闘なら1対20か。
「どうやったら、ソコまで強く成れるのだ?」
「……実戦あるのみ、かな」
キュアが肉盾時代を思いだして、渋面にならないよう苦労しながら。
……しかし。
「……………………。
その実戦が出来ないんよ……」
「……ん?」
「……アタシゃあ、強くならなアカンけど……父ちゃんが許してくれんけぇぇんん!」
「お、オードリー!?」
突然、普段の男言葉をやめ……謎の方言で憤慨し始めたオードリー。 他の部屋の邪教徒たちは気付いていないようだが、慌ててオードリーをあやし始めるキュア。
当然、パニクった女性をあやした経験など無いキュアは「 ベロベロバー!? 」「 い、居ない居ないばー!? 」 等々とあやすが……ソレは赤ちゃんへのあやし方だ。
「───はっ!?
あっ、あの、今のは、その……」
「冷静になったか……慌てたぞ」
実は、キュアが一番冷静では無かったかもしれないが……何とか落ち着きを取り戻すオードリー ( と、キュア )。
「───私とバーンの二人はな……とある地方貴族の、妾の子なのであるんよ」
「そ、そうか」
落ち着きを取り戻したとは言え……ぽつりぽつりと、男言葉と訛りがチャンポンの言語でオードリーは邪教徒を何人か止めを刺すたびに、己れの身の上を語り始めた。
……そしてまた、オードリーが邪教徒に止めを刺して語りだす。
「アタシとバーン兄ちゃんは、ずっと南の山奥の寒村に住んどったんけど……母ちゃんが死んで数カ月後、父ちゃんの遣いゆうん人が来てね……」
「( 身の上話しが進むたびに、訛りが強くなっているなあ…… )」
「貧乏な寒村じゃあ子供だけで食ってけんけん、父ちゃんとこに行く事にしたんやけど……父ちゃんには本妻との間に子供が居ったんよ」
「あ、ああ」
邪教徒のアジト一階の敵は全滅させた。 残るは地下のみ。
【 エネミービジョン 】の範囲は地下二階までだが……おそらく、その下も有るはず。 キュアはどう攻め込むか、考えてゆく。
「父ちゃん……アタシ等を子供とは見とらんかった。 本妻の子……『 ヘップ 』 を裏切らん、忠実な 『 肉盾 』 が欲しかっただけなんよ」
「に、肉盾!?」
キュアの心に刺さる、トゲである。
「別に……アタシもバーン兄ちゃんも、父ちゃんに 『 我が子 』 って認知して欲しい訳や無いんやよ?
ただ、アタシ等も 『 人間 』 やって知っといて欲しいだけやけん」
「まさか、ホタテさんが言っていた 『 ワケ有り 』 とは……」
「うん、孤児院出身とか……引っ越しにも就職にも苦労する子等ばっか……」
「…………」
キュアには答え難い質問だ。
キュアは、【アジルー村】の肉盾から……厳密には逃げられた訳では無い。 【アジルー村】の人間が 「 放火 」 などと抜かした結果、 『 お流れ 』 に成ったに過ぎない。
───未だ、世間的にキュアは 『 魔ナシ 』 であるからだ。