65 村人、出歯亀をする。( 鼠の。)
「ヒーリング!
……おお、MPがぐんぐん減ってHPが回復しているぞ」
依頼主であるオードリーに買ってもらった指輪の魔法を試すキュア。 オモチャを手に入れた子供……いや、言うまい。
「キュア殿。 其方は杖を主体としているようだが……杖魔法と指輪魔法は同時に使える分、MPの消費が激しい。
気を付けるのだ」
「分かった。
……しかし、本当に良いのか? ホタテさんから聞いたが───2つの指輪と魔法名代は結構な値じゃないか……」
最下位の指輪なので、高額とまでは言わないが……気軽に貰える金額でも無い。
「うむ……値段なら気にしないでくれ。
無論、報酬から引いたりなどしないのである」
「しかし……」
「ちょっとね~……ウチ、色々あるんですよ~」
キュアに指輪を売ってくれたり、魔法名を教えてくれた女性……ホタテが困った感じでキュアに語りだす。
独特の距離感が有る女性だ。
「ホタテさんは元・教会の人間なんですがね~、ポカをヤラカシまして……。
そんな人間が働いている時点で、御察しというヤツです~」
「そうゆう事だ。
キュア殿が依頼を請けてくれなければ、本気で私一人で邪教徒共のアジトへと行かねば成らなかったのだ」
キュアもキュアとて、魔ナシの身で領主館で働きだした。 領主に妹共々世話になる身でありながら、【仮想現実装置】を隠している。
理解は出来なくもない。
「そう……か。
分かった。 有りがたく受けとっておくよ」
「うむ。 兄が居る筈の邪教徒のアジトは城下町から更に行った先である」
◆◆◆
コスナーの居た村から城下町へ、城下町から邪教徒のアジトへ。 辿りついたのは、古びた廃砦。
「彼処が、黒鼠教のアジトの一つで……兄が囚われている所である」
「ふーん……普通の盗賊のアジトと変わらないな」
キュアの世界も【ドラゴンハーツ】の中でも、人類は未だ大砲を手にしていない。 戦争に魔物と、大規模戦場に砦や城壁は必須だ。
しかし戦が終われば……取り壊しには莫大な費用が掛かる。 それが古き時代の廃砦であれば、もはや誰の物でも無い。
つまり、誰の責任でも無いのだ。
廃砦は犯罪組織にとって格好のアジトに成り得た。
「実際、黒鼠教団など盗賊と変わらぬ。 ……いや、盗賊のように武具で武装した魔物と呼ぶべきか」
ラットマンやドッグマンは知的生命体である。 一部の学者などは、別の 『 道程 』 を歩んだ 『 人間 』 という者すら居る───が、多くの一般人にとっては……人真似をする魔物、という認識だろう。
「ラットマンか……。
ドッグマンもそうだが、俺の住む現実には人間並みの知性を持つ魔物なんて居ないからな。 中々フシギな連中だ」
「そうか……噂にはそうゆう土地が有ると聞いた事はあるが、其方が……」
噂の土地とは、ゲームから見た現実の事だろうか……今まで此方で世話になった人達に見せてやりたいな───と思いつつ、キュアは苦く笑う。
【仮想現実装置】という魔道具を、誰が作ったのかは知らないが……所詮は遊具。 所詮は夢。 越えられぬ壁が有るのだ。
気を取り直し、アジトを観察するキュア。 早速【 敵視の杖 】を装備し、覚えたての魔法名を唱える。
「【 エネミービジョン 】……おお?」
キュアの目には、邪教徒が赤いモヤに包まれたように見えた。 壁が在ろうと透視して。
とある境目からモヤが消える。 長距離用では無いが……近~中距離ならばかなり優位を取れる魔法だ。
「───あの東側の高い壁……草むら部分をよく見ると、崩れかけだ。 なのに見張りが居ない。
邪教徒共も気付いていないみたいだし、彼処から侵入しよう」
「分かった。 私は多対多の戦闘しかした事ないので、潜入工作の経験豊富なキュア殿に任す」




