60 村人、信ずるものを決める。
「兄さん、誰も居ないわ!」
「な、なあ……無理しないでくれよ、クリティカル?」
「大丈夫よ兄さん。
さあ、次は右の通路よ!」
キュアとクリティカルの兄妹は、周囲に誰も居ない街外れの廃墟を目指して歩く。
キュアとしては、後日改めてでも良いと思っているのだが……クリティカルが 「 今直ぐがいい 」 と言うので仕方なく廃墟へと急ぐ。
「ウフフ……兄さんが魔法を使える、兄さんより劣った【アジルー村】の人間が馬鹿にした兄さんが魔法を使える……ウフフフフフフフフフフフフフフ♡」
怖い。
「ウフフ───あっ……」
「クリティカルっ!」
人類の限界を越えかねない速度でクリティカルを受け止めるキュア。 クリティカルは、目眩を起こして倒れかけたのだ。
「だから今日は止めよう!?」
「御免なさい……我儘だって分かっているの。 でも……お願いよ、兄さん」
「……………………仕方ない。
だが、コレが我儘を聞く条件だ」
「きゃっ……!?
も、もう……兄さんったら♡」
キュアはクリティカルを 『 お姫様抱っこ 』 する。 他に無かったのか。
「大丈夫か?
頬が赤いが……熱が有るなら───」
「び、ビックリしただけだから!
さ、さあ行きましょう」
クリティカルは、魔力欠乏症に成りかけていた。
クリティカルが使用した魔法は、小さな炎を数秒灯したモノのみ。 攻城兵器の一撃を耐える防壁を、一晩中出せるクリティカルが……小さな炎一つで魔力欠乏症に成りかけたのだ。
かなりの異常事態である。
「あの、【ドラゴンハーツ】の魔法は……私には使いこなせないわ。
……でも、ファイヤーボールの魔法から、火の鳥を呼びだす兄さんなら───」
「分かった分かった」
キュアとしては、未だに信じ難いモノは有る。 魔ナシというだけで、ソレ程の人生を送ったのだから。
……だが、クリティカルがココまでして見せてくれたモノまで疑うのは止めた。
キュアにとっては、クリティカルこそ大切な宝なのだから。
「───ココか?
確かに、静かだな……」
「フフ……でしょう?
旧市街地だった所よ」
「…………………………………………………………。
うん、良からぬ人間も居ないな」
【アジルー村】の肉盾をやらされていた頃は、盗賊のアジトへも突っ込まされていた。
極限まで潜めた盗賊の吐息、衣擦れ音……そういった、微細な音を聞きわける聴力が無ければ生き延びれなかったのだ。
「……じゃあ、行くぞ」
「兄さん、私や他の人間が魔法を使うシーンは全て忘れて。
今、兄さんは【仮想現実装置】を被って【ドラゴンハーツ】にダイブしているの」
「ココは、【ドラゴンハーツ】……」
キュアは。
【仮想現実装置】を被り、【ドラゴンハーツ】へとダイブする時のように……目を瞑る。
そして……目を開け───
「ファイヤーボールっ!」
「……っ!」
キュアの持つ杖は唯の、ありふれた赤い杖。
唯の杖の……その先端から、ゴルフボールサイズの火球が生みだされた。
◆◆◆
「バックステップ、バックステップ、ファイヤーボール」
「す、凄いわ……その、バックステップ?
一瞬、兄さんの魔力が分裂して二つの空間に跨がるのよ!?」
「なるほど……。
ただの超速移動術ではなく、限定的な空間移動という訳か」
「遥か昔の大魔法使いに、そんな魔法の使い手が居た……って兄さんが本で見たと言っていたわね」
「じゃあ……コッチはどうだ?
───二段ジャンプ!」
「はわはわはわはわはわはわ……??」
キュアは魔法を使えた。
他のスキルまで。
キュアは嬉しかった。
魔ナシでは無くなったから。
……だけ、では無かった。
「クリティカル」
「なあに、兄さん?
まだ私を驚かせる気かしら?」
「……有難う」
「兄さん……」
「俺が、俺を信じていなかったのに……クリティカルだけは、こんな俺を信じてくれていた」
「当たり前よ。 世界で一番、私が兄さんを信じているんだもの!」
「ははっ。 俺は世界で一番、俺を信じられなかったな」
暫し見つめあう二人。
時が経ち、夕方の冷たい風が吹き始めた。
「さ、帰ろう。
……今度こそ、大人しく眠るんだぞ」
「はぁーい」
キュアの身に起きた奇跡を眺めていた間に、多少は魔力が回復したクリティカルだが……我儘を言って、ココまで来たので大人しく領主館へと帰宅するため廃墟を経つ。
( 暫く並んで歩いた後に、お姫様抱っこをして貰うべきだった……とショックを受けつつ。)




