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59 村人、唯々……妹の幸福を願う。

 

「───う、ううん……」


「クリティカル」




 問題なく【ドラゴンハーツ】をログアウトし目覚めたクリティカル。 いの一番、クリティカルの視界に飛び込んだのは……何よりも大事な存在、キュア。




「きゃっ!?

…………んもう!」


「ははっ、済まん済まん」


「……レディーの寝顔を覗き見るなんて失礼だわ、兄さん」


「朝じゃ無いが……お早う、クリティカル」


「……お早う、兄さん」




 その頬はやや紅潮し……寝癖がついていないか、パパッと確認して整える。 目覚めたばかりだと言うのに興奮が窺えた。




「……で?

どうだった、【ドラゴンハーツ】は?」


「…………。

初めて魔物を倒したわ♡」




 ぐっ……と胸の前で、両の拳を握るクリティカル。


 領主様の警護秘書という仕事をするクリティカルが、どんな修羅場を潜ってきたか分からぬキュアだが……少なくとも【ドラゴンハーツ】の中で貴重な体験をしたらしい───という事は、薄らと分かる。


 嘗て、腐っていた自分の我儘でクリティカルに要らぬ苦労をさせたキュアは……せめてコレからは、楽しみ喜びだけを体験させてやりたい。




「……そうか、やったな!」


「ふふっ……」




 暫し、【レッサーワイバーン】等について歓談する兄妹。

 ……後、やや沈黙を挟み……。




「………………。

……兄さん」


「なんだ?」


「杖を……一本取ってくれるかしら」


「───……っ」




 クリティカルが【ドラゴンハーツ】に自ら飛び込むほど、拘る事。 ソレはキュアの魔法の謎。 クリティカルは、【ドラゴンハーツ】と 『 杖 』 に謎が有ると思っているようだが……正直、キュアは信じていない。


 クリティカルを疑っている訳ではない。


 然れど、領主も言っていたが……魔ナシが後天的に魔法を使えたケースなど無いのだ。 いろんな書物を読んだキュアは、その事を……嫌という程知っている。


 魔ナシである自分を良しとするつもりはないが……有り得ない事でクリティカルが腐心し、時間を浪費させるのは耐え難いキュア。




「……どの杖でも良いか? ほら」




 キュアは、クリティカルが【ドラゴンハーツ】にダイブする前に集めてきた杖の中から一本……何一つとして変わった所の無い、赤色の杖を手にとる。


 失敗すれば、クリティカルは諦めてくれる。 そうすれば……今迄の腐っていた間の苦労を埋め合わせてやるつもりだ。

 キュアは、出来るだけ苦笑いに成らないよう……笑顔で杖をクリティカルに渡す。




「有難う、兄さん」


「……ああ」




 クリティカルは、杖を真剣に見る。


 その顔は……クリティカルの美貌も合間って、神秘なるモノにも魔性なるモノにも見えた。

 思わず、身震いしかけたキュアは生唾を飲む。




「ねえ、兄さん?」


「な、なんだ?」


「兄さんは、私が【仮想現実装置パーシテアー】に入る前……魔法を使わせた時に、どう魔力を操作したのかしら?」


「どう……って。

普段、クリティカルやアシッド達がヤるような……周囲の魔力を操作して皮膚から取り込み───」


「【ドラゴンハーツ】では?」


「えっ?」


「【ドラゴンハーツ】と現実の魔力操作法は、かなり違うわ。

【ドラゴンハーツ】は呼吸していたら勝手に魔力が取り込まれるの」




 クリティカルの言葉に、【ドラゴンハーツ】の女鍛冶師ダイの台詞が思い出される。




「呼吸は、最も原始的な魔法名……」


「少し、現実の魔力とは別物みたいだし……呼吸って言っても、操作は意識しなきゃならないけど───ね?」


「…………あ」




 キュアは一点を凝視する。


 クリティカルの持つ、杖の先……ソコには、迚も迚も小さなサイズでは有ったが───炎が灯っていた。

 

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