52 村人、見舞われる。
「キュア! 目覚めたそうだな───」
「エッチな夢じゃあ無いのね!?」
「そ、そんな夢じゃ…………あ、ヘイスト!?」
キュアは、昨晩の【ドラゴンハーツ】の内容が 『 女鍛冶師ダイとの冒険 』 だった事を知ったクリティカルに怒られていた。 酷く怒られているワケでは無い。
ワケでは無いが……怖い。
良い歳をした男性が、「 エッチな夢 」 について妹に怒られている場面を……同僚に見られた。 やましいワケでは無い。
ワケでは無いが……恥ずかしい。
「あ、あのな……ヘイスト?」
「い、いや……オマエも男だものな」
「違うぞ?」
「良いんだ、良いんだよ」
「キュアさん、クリティカルさん、お目覚めで……ど、どうかされましたか?」
メイド長のリカリスが、キュアとクリティカルを起こしにきたら……二人の部屋の前が、カオスとなっていた。
◆◆◆
「そうか……わざわざ御見舞いに……。
有難う」
「いや、オマエ達こそ……まさか村民全員逮捕とは」
なんとかヘイスト ( と、クリティカル ) の誤解をとき、来室の要件を聞くキュア。 ヘイストは【アジルー村】の顛末とキュアが倒れたとだけ聞き、そのキュアが昨日目覚めたと報告を受けたので見舞いに来たそうだ。
「……やはり、魔ナシとは大変なんだな。
この前は軽口を叩いて済まなかった」
「いや、ヘイストの気持ちもある。
謝る必要は無い」
元・門番のヘイストは眼病で視力が落ちてきている。 その事による暴走がキッカケでキュアと軽く一悶着が有ったのだ。
「……まあ、また何か有ったら言え。
領主様と御会いになったのなら、分かると思うが……この領主館で働く者は皆、仲間で家族だ。
オマエ達兄妹の敵は、自分の敵なのだからな」
「……分かった。
ならヘイストの敵が来たら呼べ。
オマエの敵は俺の敵だ」
「ああ」
今、ヘイストは己れを 『 役立たず 』 と卑下している。 【仮想現実装置】を手に入れる前のキュアも、似たような感じだったので気持ちは分かる。 チカラになってやりたかった。
キュア達の無事を確認したヘイストは、一礼し退室していった。
「キュアさん、クリティカルさん、お二人とも今日は休みで良いと領主様が」
「いえリカリスさん、一晩眠れば体調も戻りました。
働けますよ」
「領主様が、「 もし動けるようであっても、大事を取らせよ 」 と」
「そう……ですか」
「クリティカルさんも、今日はキュアさんに付いてあげて 「 話し相手に成るように 」 と」
「……はい」
リカリスも自らの用を終え、退室してゆく。
「───ハァ、いきなり休みと言われてもなあ」
「…………ねえ、兄さん」
「な、なんだ?」
また、夢の内容で怒られるのか……と、一瞬警戒するキュア。 しかし、クリティカルは複雑な表情をする。
「昨晩、「 兄さんは夢の中で魔法が使えるって言っていた 」 と聞いたの、覚えてる?」
「そうだっけ? 済まん、覚えてない。
だが、そうだな」
「……その夢の魔法と、兄さんが【アジルー村】で使った魔法───何か、関係あるんじゃないかしら?」
クリティカルの、突拍子もない説に……呆気に取られるキュア。