51 村人、怒られる。
「鍛冶スキルか……」
「見ててね」
鍛冶師ダイは、炉に薪をくべて火をつける。
普通、どんな職業の職人であれ技術を盗まれる云々も有り……自分の作業場・仕事内容を他人に見せたがらない。 まして魔ナシであるキュアは、職場にある建物にすら近付けさせたがらない。
魔法の使えない者は、精霊に嫌われし者……魔ナシが近付けば、例えば鍛冶師なら、炉に宿る炎の精霊がオカシクなると信じられているからだ。
【仮想現実装置】の夢の中……【ドラゴンハーツ】という魔ナシでは無くなる場所とは言え、キュアはワクワクしながらダイの作業を見る。
「……ん? ず、ずいぶん簡単に高温になるのだな?」
「鍛冶用の炉だもの」
ダイが、炉に火を付けた途端に炉の中が真っ赤となる。 だが、プロが 「 だもの 」 と言うのだもの。 そういうモノか……とキュアは何となくでは有るが、納得する。
「材料、ずいぶん雑に見えるが……一緒に入れて、一緒に柔らかくなるんだな」
「鍛冶用の炉だもの」
ダイが、鉄のインゴットと【アローデビルスパイダー】の外皮を同時に炉へと突っ込む。 二つの素材は、数秒で赤熱し柔らかくなった。 何か怪しいな……とキュアは思いつつ ( 一先ず ) 納得する。
「す、数回叩いただけで形成されるんだな?」
「鍛冶用の炉だもの」
ダイが、赤熱したインゴットを4回叩くと……ダイが装備していた剣に、よく似た形になる。 あっ……( 察し )。
「……完成か?」
「んー……ええ、完成よ!」
ダイが、形成された剣を水に漬け込み焼き入れすると……剣が出来あがった。 如何な鍛冶の知識が無いとはいえ……一振りの剣が、こんな一分弱で出来る訳が無い。
「( 回服薬を飲んだら、どんな傷も治る……【ドラゴンハーツ】の 『 アレ 』 か…… )」
「んー……さすが 『 神の炉 』!
ブロードソード+7なんて、過去最高傑作だわ!」
どうやら名剣が打てたらしい。
キュアは喜ぶダイに不躾な質問はせず、 『 こーゆーモノなのだ 』 と納得する。
「さあキュアもやってみて」
「い、イキナリか!?」
「もう【鍛冶】がスキルボードに有るハズよ」
「む………………有った。
しかし……【鍛冶Lv 0】?
俺に鍛冶の才能は無いのか?」
【鍛冶Lv 0】を獲得しつつ落ち込むキュア。
「才能はコレから伸ばすのよ!
良い剣を打つたびレベルUPしてゆくわ!」
「そうか……まあ成長の余地有りという話か。 そうだ、俺は【鍛冶師の杖】を使って良いか?」
「魔法使いのあんたなら良いんじゃない?」
魔法使いのあんた……魔法使いのあんた……魔法使いの……の……の…………良い響きだ。 軽く泣きそうになりながらキュアは鉄のインゴットを普通の『鋏』で掴むと炉にくべる。
「んをっ!?」
「まーLv 0なら仕方無いわね」
キュアが炉にインゴットを入れた途端……インゴットは、黒いナニかに成った。 たぶん鉄は、こんなん成らない。
「ほら、インゴットはまだ幾つか残ってるし……やってみてよ」
「い、良いのか?」
「っ…………。
ま、まあ ( 強く才能は在りそうな ) キュアだからね ( 将来、ウチで働くのも良いし───な、ナンチャッテ!? )」
「……( 睨んでる、呆れられてる、急かされている…… ) す、済まない」
ダイの、( 多少歪んだ ) 好意からインゴットを渡されるキュア。 恐る恐る受け取り、何度か試し───
「やった、成功したぞ!」
≪【鍛冶Lv 1】に、レベルUP!≫
「ん? LvUPしたぞ?」
「やったわね、おめでとうキュア!」
「あ……有難う」
この瞬間ばかりは、ダイも邪( ? )気なくキュアを称え、笑顔になり……キュアもその笑顔に驚きつつ、受け入れた。 その後、更に鍛冶を成功させ【鍛冶Lv 3】に成った所でキュアもダイも満足し……ダイの父、鍛冶師デンダの下へと帰る。
その頃にはキュアもダイも、御互いに打ち解けた感じになる。
「おう……ダイ、帰ってきた───」
「キュア……行っちゃうんだね」
父、デンダは……自分の一言で娘ダイが死地へと旅立った事を酷く後悔し、この数日食事がマトモに喉を通らなかった。 やっと帰ってきた、無事な姿の娘に感動するも……なんかオカシイ。
「ダイ、無事なん───」
「……ああ、故郷で魔法を使えない俺は……せめてコッチでもっと魔法を極めたい。
もっといろんなスキルを集めて世界を旅したいんだ」
「ダイ───」
「そっか……アタシが鍛冶を極めたいように……アンタにも夢が有るんだね」
「ダ───」
「……珍しい鍛冶素材を見つけたら、また来るよ」
「───」
「……うん、待ってるよ」
キュアは、切なく。
ダイは、いとおしげに。
デンダは、( 何かを察して ) コメカミに青筋を走らせ。
別れ……キュアは【ドラゴンハーツ】をログアウトする。
◆◆◆
「───ふぁ~……あ? あ、ああ……領主館で御世話になっていたんだっけ」
「兄さん、お早う」
「ああ、お早うクリティカル」
「今日はどんな冒険の夢を見たの?」
「鍛冶師の娘と冒険する夢でなあ……」
「はい?」
「ん? だから鍛冶師の娘と───」
「はい?」
「鍛じ───」
「兄さん?」
「───」
クリティカルが……嘗て、【アジルー村】の人間が放火する、と言ってきた時の魔気を纏う。 怖い。 キュアは、よく分からないが───
「……御免なさい」
取敢ず謝っておいた。




