419 村人、森へ突入する。
「どうした、キュア坊?
シナモン隊長なら、まだ討伐行脚から帰ってねーぞ?」
「実は、この森の魔境に───」
行商人バジルが持ちこんできた一報……それは、キュアの栽培する薬草・サトウキビを狙う一団が魔境に入りこんだというものだった。
このままでは魔境の魔物が暴れだす可能性が有る。 これはアジルー村だけの話ではなく、コタリア領の村々を巡回している討伐隊にも及ぶ危険であった。
アジルー村を活動拠点にし、待機している討伐隊分隊に事情を話すキュア。
「───という訳でして……」
「なるほどな、確かに面倒クセェ話だぜ。
けどオメェ……休日のたんびに厄介事に巻き込まれてんな?」
「言わないで下さいよ。
既にシナモンさんには、【ナイトオウル】で通達しています。
俺たちも独自に動く、と」
「あの賢ぇフクロウか。
よし分かった、コッチは任しとけ」
「頼みます」
【仮想現実装置】のアレコレは話していない。 とはいえ、キュアがアジルー村の肉盾だった時に魔物や盗賊の対処などについて色々と教えてくれた師匠格の者たちである。 その対応は早い。 修理していた武具や旅具を片すなどし、ササと準備を始めていた。
彼等にすべき事を成したキュアたちは。
「…………ハァ。
俺たちも、そろそろ行くか」
「主様の、良しなに」
「よしっ!
自分も頑張るぞ!」
「冒険は久々さね、元冒険者として腕が鳴るねえ」
「兄さんっ、ドキドキするわねっ!」
「…………ハァ」
討伐隊の分隊に説明していたキュアの後ろには、武装した女性陣───何時もの朱雀やヘイストに加えて……ヘイストの母親に、クリティカルまでもが居た。
これが今回、魔境に入るメンバーである。
ヘイストの母親は若いころ旅をしており、魔物や盗賊との戦闘経験が有った。 ブランクこそ有るものの、この中では一番経験値が高いとも言えたが……クリティカルは裏方の人間である。 高位貴族にも匹敵する防壁魔法に悪くはない運動神経の持ち主───とはいえ、彼女が魔境に入るのは 兄として胃が痛いキュア。
「大丈夫かなあ……」
「最近のクリティカルは、自分やアジルー村に居残る討伐隊と戦闘訓練をしているんだぞ?
筋は、流石キュアの妹といった所だ」
「……そりゃその様子は (ハラハラしながら) 見てたけどさ」
「手付かずの古代文明の遺跡が発見されたとあっちゃあ、下手したら王族が動く事態になり兼ねないからねぇ?
法律や政治に明るいクリティカルさんは有難い存在さね」
「……まあ、万が一にでも上級魔道具でも見つかったらとんでもない事ですけど」
「主様の妹の魂は、現在猛烈に成長しています。
おそらく精霊王たる主様に当てられての事かと。
将来を案ずれば、良い機会でしょう」
「……確かに、戦争の危機が迫るなら強くなってて損はないのかもしれないけど───なあ」
「…………。
……お願いよ、兄さん。
私は私を試してみたいの!」
「…………」
……だがクリティカルを心配するキュアとは裏腹に、状況が彼女の同行を欲していた。 本人も行きたがっている。 しかも魂を見れる朱雀から、御墨付きと必要性を得てしまったのだ。
女性陣に対し、キュアの意見はどんどん小さくなり───
「ハァ……分かったよ、でも絶対に前に出たら駄目だぞ?」
「ええ!」
◆◆◆
「───みんな。
2km先に、たぶん危険な魔物だ」
「こ、これまでは安全な魔物ばっかりだったけど……いよいよなのね」
深い森の中、そろそろ魔境だという頃。
【敵視】を使うキュアが皆に注意を促す。
「朱雀……赤い靄だと、群れない筈の【剣歯虎】が群れているように見えるんだけど……」
「おそらく変種ですね。
親あたりが、『精霊の遺骸』 を取り込んだ存在かと」
「は~……厄介だなあ」
精霊の楽土が崩壊し、限りなく不死に近い存在である精霊たちが死した後に遺す魔石───精霊の遺骸。
朱雀たち神々や精霊王たるキュアが取り込めば、その魂は大いなる流れの中で再び精霊として転生するが……魔物が取り込めば、歪に融合してしまい異常繁殖したり酷く狂暴化してしまう。
今回のケースは、異常繁殖した【剣歯虎】の子が群れとしての形を安定させた種なのだろう。
「通常の【剣歯虎】と違うのなら……普段の狂暴性も無くなってて欲しいんだけどな」
「希望的観測は良くないぞ、キュア」
「まあな」
降りかかる火の粉は払うが、そうでも無ければ無闇な殺生は好まないキュア。 クリティカルも居る。 戦闘は避けたたいが……。
「我等や精王でも無い者が───ましてや魔物ごときが、意思持つ魔力の塊を取り込んだのです。
絶えず凄まじい激痛と飢餓に襲われている、其の狂暴性は通常の【剣歯虎】の比では無いかと」
「あー……やっぱその辺は【大鼠】と同じかあ」
「そもそもねえ……。
一回の繁殖期に、一体しか子を産まない【剣歯虎】が群れをなす程の繁殖力を持ったんだ。
将来の事を考えれば、気性云々関係なく退治すべきさね」
「───……そう、ですね。
ふう……仕方ない、行くか」
魔物は、アジルー村含め各村々やシナモンたち討伐隊の行路からともかなり離れている。 とはいえ、飢えた魔物の足だ。 いずれ匂いを嗅ぎつけるかもしれない。
覚悟を決めるキュア。
「もう、兄さんを一人で戦せたりなんてしないわ」
「ああ、今のキュアは肉盾なんかでは無いのだからな」
「ああ」
キュアを安心させるため、精一杯の笑顔を向ける少女たち。 受けて、笑顔で応えるキュア。 【剣歯虎】の群れへと近付き……相手の察知圏内に入る前。
「……ねえ、兄さん?」
「ん?
なんだ、クリティカル?」
「兄さんの【弾丸】って……重さは関係無いのよね?」
「そうだなあ。
魔力を込めたり、【倍加】を使えば、大きさ・速さ・飛距離は変えられるけど……それで弾が重くなって落ちたって事は無いなあ」
余人の魔法は、『その場に存在する物質』 を利用する。
然れどキュアの魔法は、精霊たちが彼から受け取った魔力を直接 『魔力原子』 とでも言うべき物質へと変化・出現させる。 魔力でありながら物質、物質でありながら魔力の性質を持っており……重力といった一部の物理法則をねじ曲げてしまうのだ。
「私の土で作った防壁魔法と、兄さんの【土弾丸】で、合体魔法に出来ないかしら?」
「……なるほど、面白いかもな」
「私が重く硬い土弾を作るから、兄さんには射程距離と速度に魔力を振って欲しいの」
「分かった」
土に己の魔力を込めてゆくクリティカル。 盛り上がり、象られてゆくのは約1m半の筒状の物体。
「クリティカル、これは?」
「長く伸ばした……樽、か?」
「【機鋼神ベノムセイバー】に出てきた、【ベノムミサイル】って武器のマネよ。
この樽の、穴の方から火を吹くの」
「ひ、火……???」
「樽が火を吹いて……如何するんだ?」
「勝手に飛んでゆくの♡」
「「「…………」」」
この世界に燃料を燃やして物を飛ばすなど、概念すらない。
【仮想現実装置】のアクティビティでキュアがダイブした【ドラゴンハーツ】も謎の常識が多かったが……クリティカルがダイブした【機鋼神ベノムセイバー】は、それに輪を掛けて意味が分からない一堂。
「ま、まあデカイ矢みたいなモンだろうさ。
……行くぞ、【追跡土弾丸】っ!!」
「お、おお……。
あんな物が飛んで行くのだな……」
クリティカルがミサイルと呼ぶその物体の元々は、その辺の土が材料であったためクリティカルの影響下では重力に捕らわれていた。
が、キュアの魔法と融合し始めるをと……フワリと浮かんで【剣歯虎】の群れへめがけ飛んでゆく。 それはまるで、【追跡】の効果も相まり本物のミサイルのようであった。
「───命中したな。
絶命8、重傷1、残り2。
行くぞ、みんな!」




