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416 村人、決闘の後で……。

 

「……兄さん、大丈夫?」


「ああ、【癒し】( ヒーリング )ぐらいの魔力は……っと」


「ふむ、回復に関しては圧倒的にお主の方が上じゃのう」




 キュアとレイグランの決闘がレイグランの勝利で終わり。 余りの迫力で、一時は歓声を上げていた使用人たちであるが……冷静になれば二人とも怪我だらけだ。 治療の準備をと慌てふためくクリティカルたちや使用人たちを他所に、軽く傷を癒すキュア。

 彼は当然レイグランも癒そうとしたが、




「儂も回復用の技ぐらい持っとるからの……【喉鳴らし】( プァー )


「れ、レイグラン様も傷が……」




 キュアには若干劣るものの、彼と同じく教会が有料で施してくれる回復魔法を遥かに上回る勢いで自らの傷を癒してゆくレイグラン。




「【ドラゴンハーツ】で言う、持続型のアクティブスキルですね……」


「実戦で使うにはまだ慣れが必要じゃがの。

そういったスキルはまだまだ有る。

それらが使えれば、もう少し楽に勝てたかもしれんのう」




 超獣武装アームドを解き、豊かな白髭を撫でながらカカと笑うレイグラン。 しかしキュアの実力はまだまだあんな物じゃないと憤慨する女性陣は、彼のボロボロになった衣類の替えを用意しつつも物申す。




「……人間、真の精霊王たる主様に対して無礼ですよ」


「御言葉ですが、レイグラン様……。

キュアとて、真の奥の手は使っておりません」


「うん?」


「ちょっ……ヘイスト!?」


「武人としてこれだけは言わせてくれキュア!

レイグラン様、キュアは相手が神でもない限り絶対に行動不能にする魔法を持っています」


「何……?」




 訝しみ、表情を変えたレイグランは己の隣に付き従うクミンを見遣る。 頷くクミン。

 彼女たち神───大精霊にとって魂とは、血肉とほぼ同義である。 他者の魂であろうと、その眼に写せば情報など丸見なのだ。 クミンはキュアが、【深眠】( ケルキオン )という相手を強制的に眠らせる魔法を所持しているのを知っていた。




「朱雀ちゃんもそうなんだろうけどぉ……あたしは敢えてレイグラン様にその(・・)魔法の事は御伝えしてないしぃ、キュアに使っちゃダメとは伝えなかったわぁ」


「…………」


「……なぜ使わなかったのぉ、キュアぁ?」


「アレは───戦法も何もない手段ですから。

ソレで勝っても、レイグラン様は納得なされなかったでしょうし……」


「……ま、合格ねぇ」


「何を偉そうに、このバカ姉は……」




 レイグランは己が率先して四天王や侵略軍と戦い、キュアを含めたコタリア領の民を守る義務と責任が有ると考えている。

 キュアは領主の義務と責任は理解しても、レイグランが最前線で戦う必要は無いと考えている。


 その意志と意志のぶつかり合いが今回の決闘である。 『純粋な強さ』 を持って、相手に勝たなければ意味はなく……【深眠】( ケルキオン )は、純粋な強さとは言い難いと考えるキュアは、決闘には使用しなかった。

 勿論それはヘイストとて分かっている。 自分が戦う時は正々堂々を好むが、貧民街育ち故にそういった手練手管も知っているのだ。

 忠誠を誓う主人が相手とはいえ、言わずにはいられない。




「正々堂々の決闘はともかく……キュアが四天王に劣るとは思えません」


「つまり、ヘイストはキュアに危険な四天王を押し付けたいと?」


「そ、そんなつもりは───…………」


「結果、そう成るんじゃよ。

その魔法については想定外であったが……決闘の勝敗を覆すつもりはない」




 ヘイストを、キュアを、この場に居る者全員を見渡すレイグラン。

 ヘイストに同意見の者、キュアと同じくレイグランに最前線へ出て欲しくない者、レイグラン絶対主義、思惑は様々だが……アレだけの決闘を見た後である。 全ては些事、全ては終わった事である。




「皆よ、心配をかけた。

思う所は色々あろうが……なに、今までと同じよ。

コタリア領を侵す賊など蹴散らしてくれよう」


「「「わあぁ……っ!!」」」




 宣言するレイグラン。

 呼応する使用人たち。


 ───一部の者を除いて…………。



◆◆◆



「アタシも見たかったさねえ」


「武人としては、確かに見応えは有ったけどさ……心臓に悪い場面も少なくなかったよ」




 決闘を終えて昼を過ぎた御八ツ時。

 驚異的な回復力を持つキュアは既に体力・魔力ともに全快していたが……激しい決闘の後という事で、半休みを与えられていた。 食堂にて果実水を飲みながら、誰かからのお呼びを待つ。 ちょっとした力作業の手伝いに誰かが怪我をしたから回復魔法を───などなど、彼を倉庫整理以外に頼る者は多い。

 そんなキュアに、見学より仕事を優先したヘイストの母はしみじみと言う。




「歓声はもちろん、ドカッバキッとここまで激しい戦闘音が聞こえたからねえ」


「キュアの魔法も凄かったが……レイグラン様の変身も驚愕だったんだ」


「ふーんだ。

レイグラン様も仰られていたけど、ヘイストは兄さんの事なんて心配してないものね」


「い、イジワルを言うなよクリティカル……」


「まあまあ、二人とも」




 クリティカルとてレイグランが戦争最前線に行くのは望んでいない。 だがそれでも、彼女が選ぶのはキュアである。 愛する兄が危険な四天王と戦うなど、断固反対なのだ。


 そんな、妹として兄を慕うクリティカルと武人として恩人を尊敬するヘイストとでは若干違う。

 そんな二人を宥めつつ……キュアは朱雀に向き直り。




「朱雀……すまなかったな」


「主様?」


「朱雀は、勝敗を五分五分だと言ってくれたけど……俺はレイグラン様に及ばなかった」


「…………。

……私の目に狂いは有りません。

強いて言うならば、主様が最後まで彼の人間に遠慮していた事でしょう」


「…………」




 魔ナシである自分に善くしてくれたレイグランを、キュアは深く強く尊敬している。 如何なクミンが守っていたとはいえ───最後の一線は越えられなかったのかもしれない。

 だが、それとこれはまた別の話だ。




「……あの御方は強かったよ。

レイグラン様が四天王と戦うって決まったのなら、俺はそれを全力で補佐するだけさ」


「…………主様の、良しなに」



◆◆◆



 領主館内部でも滅多に使用人が立ち入らない場所。 聞こえるのは、二人の足音と話し声のみ。




「───皆は……怒るだろうの」


「妹の 『本体』 は、未だ帰ってきませんわぁ。

……王都で接触してきた連中の事を考えれば、もはや時間は然程残されていないかと思われますものぉ」


「じゃろう……な」




 足音が止まる。

 目的地に着いたようだ。

 そこは、牢屋でもないのに外側から施錠された部屋。

 陽の気配溢れるこの建物の中でも、殊更に陰の気配満つる場所。

 二人のうちの、女の方が錠前に触れると……たちまちドロリと溶けた。

 扉を開け、部屋の中へと入る二人。

 中には、男が一人。




「───おや?

まさか貴方は……レイグラン様、ですか?」


「うむ」


「これはこれは……何もおもてなし出来ませんが」


「構わんよ」


「では。

……所で、そちらの女性は警護秘書隊隊長クミン様とお見受けしますが───如何されましたか?」


「…………いいえぇ?

ただ、『歪んでる』 なあ……ってねぇ」


「はあ……?」


「報告では、お主の名は確か 『やじりの二番』 だったかの」


「ええ」




 二人───レイグランとクミンは、決闘で疲れているからと誰にも付いてこないよう告げていた。 部屋の男……コタリア領に攻めてきた教会軍軍隊長と副隊長が密談していた相手、鏃の二番と名乗る男との会話を聞かれない為に。




「それで……こんな大物が、私如きに何の御用で?」


「…………。

……お主の主人(・・)からの伝言じゃよ。

『矢は放たれた。 弓士は目の前に居る』 、とな」


「ほほう……?」




 薄暗い部屋。 レイグランの表情は分からない。 だが。




「───委細承知しました」


「うむ」


「…………」




 レイグランにひざまずく、鏃の二番を名乗る男。 応じるレイグラン。

 後ろに立つクミンの表情は……やはり分からなかった。

  

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