415 村人、決闘を終える。
「───超獣武装・超獣形態」
「───【グルカナイフ】【ライフイーター】」
互いに奥の手を出しあうレイグランとキュア。
新たに変身したレイグランは、至るところにネコ科の動物の彫物がされた黄金に輝く鎧姿である。 シン王国には存在しない 意匠だが……彼に心酔する者には、正しく 『神の戦士』 に見えた。
対するキュアも、最大値の八割という莫大な魔力を消費して【道具箱】から取り出したキューブをシステム側から装備する。 彼もまた、皆の目には一瞬で変身したかのように見えたその装備は……豪勢な造りだが、珍しいとまでは言えない デザインの鎧と妙に曲がったナイフであった。
「……キュアよ、魔力もそうじゃが……ソレで良いのか?」
「まあ……取敢ずコレで。
短剣の方は───入手した経緯が嫌いなので、あまり使いたく無いんですけどね」
ダメージが通ってない訳でも無いらしいが……【土柱】や【振動弾】など、次々とレイグランに魔法攻撃を往なされたキュアは残存魔力の考慮を無視。
物理攻撃戦へと変えた。
グルカナイフは、【ドラゴンハーツ】のとあるサブイベント───女性ばかりを狙って殺害していた聖職者に関するイベントのリザルト品である。 被害者女性とクリティカルを重ねたキュアは、吐き気を催すこのナイフを好んでいない。
然れど……レイグランと一対一で決闘という今の状況では、かなり有用な効果を持つ一本であった。
「為れば善し、後は語らず」
「…………」
構える二人。
先に動いたのは、やはりレイグラン。
「狩猟豹、黒豹、尾背獠どもよ……行け」
「レイグラン様が、分身したっ!?」
レイグランが手を掲げると……全身の彫刻から三つの光球が出現。 それぞれが独立した鎧姿となり、キュアめがけ駆けていく。
受けて、キュアは。
「【魔力を持った残像】!」
「き、キュアも分身っ!?」
キュアもまた、とあるサブイベントにて入手した【舞踏家の靴】のスキル【魔力を持った残像】を発動する。 このスキルは任意の自分の足跡に、それを付けた瞬間のポーズとMPが分身として残るという物である。
【ドラゴンハーツ】に於いてはこの分身が使用者への敵意を肩代わりしてくれ、攻撃される確率を減らしてくれるのだ。
現実に於いては───
「に……兄さ…………あ、あらっ?
あららっ!?」
「キュアの魔力が点いたり消えたり移動したり……酔いそうだな」
キュアの魔力が一部残存して分身となり、キュア自身の魔力は隠蔽されていた。 魔ナシ以外は魔力を視認するのが当たり前の世界である、明滅増減するキュアの魔力で見物人はパニックを起こしかけている。
そしてそれは、レイグランと彼の三体の分身もまた同様であった。
「ふーむ……我が分身をも騙す分身とはの。
じゃが───」
再び手を掲げるレイグラン。
更に全身から光球が出現、数々のネコ科型全身鎧の分身を産みだしてゆく。
現れた分身は総計で十。
「全ての分身を消せば良いだけの事じゃて」
「「「…………」」」
レイグランの分身体はそれぞれが簡単な命令を聞く程度の知能と、物理的に攻撃できる実体を持っていた。
しかしキュアの分身は飽くまでヘイトを肩代わりする虚像……動かぬダミーである。 次々と破壊されてゆく───と。
「───【不意討ち】」
「ぬっ!?」
レイグランと彼の分身がキュアの分身を破壊している内に、魔力撹乱によって行方を眩ましていたキュア本人がレイグランすぐ脇に出現。
隠伏状態で敵に攻撃するとダメージが増えるパッシブスキル【不意討ち】を発動させ、キュアが放つのは。
「【グルカナイフ】【光燐種へのダメージUP】からの……【器物破損】!!」
「…………っっ、なんという威力か!
───それに儂の超獣武装が……!!?」
グルカナイフの効果と獲得スキル名は【光燐種へのダメージUP】。 現実に於いては光燐種に相当する、『人間』 への攻撃力が増すという……キュアには好ましく思えない、殺人鬼からのリザルトに相応しい効果であった。
当然レイグランは変身したからとて人間でなくなった訳ではない。 【不意討ち】+【グルカナイフ】+【光燐種へのダメージUP】のトリプル効果で大ダメージを与える。
更に同時に使うアクティブスキル、【器物破損】とは確率で攻撃した相手の攻防スキルを封印するスキルである。
「超獣武装が、どんどん錆て……!?
しかもチカラが抜けてゆく…………!!!」
≪≪≪ヴ……ヴヴ…………≫≫≫
「分身どもまでもか……!?」
レイグランの 『超獣武装』 というスキルは、キュアをも圧倒する強大なチカラを持っている。
だが。 しかし。
【ドラゴンハーツ】のスキルが単独で細分化しているのに対し……【超獣武装フィーリドゥ】のスキルは、超獣武装 という変身スキルの 『中』 に、様々な補助スキルが入りこむ入れ子方式を取っている。
ステータス画面を開くと、
超獣武装・超獣
┗獅子
┗スーパーアーマー
┗獣王
┗力+2
┗守備+1
・
・
┗猛虎
┗スーパーアーマー
┗物理的ダメージ半減
┗状態異常の効果半減
┗力+4
・
・
┗狩猟豹
・
・
といった表示が成される。
これは……例えば 『獅子』 という能動的スキルを使用中であるならば、『獣王』 といった威圧スキルや 『力+2』 という筋力増強スキルなどの受動的スキルを全て発動できるという意味である。
更に『超獣』 使用中ならば、全形態の全スキルが発動できる。
───イコール、超獣を封印された今や……レイグランの持つ全スキルが封印された事を示していた。
「───って筈……なんだけど、【器物破損】の効きが悪いっ!?」
「如何やら、こちらの【状態異常の効果半減】と拮抗しておるようじゃな……っ!」
本来の【器物破損】は決まれば即時効果が発動、30秒間完全にスキルを使えなくするスキルである。 しかしレイグランの持つ【状態異常の効果半減】により、徐々に効果が表れているようであった。
「為れば……変身が完全に解ける前に、この決闘を終らせてくれようぞ!!」
「止めますっ!
貴方は皆に必要な御方ですから!!!」
互いに【仮想現実装置】のスキルを操る現時点では、キュアよりレイグランの方に分が有る。 然れど刻一刻とレイグランのスキルは弱体化してゆく。 如何なレイグランが歴戦の猛者とはいえ、素の肉体能力にはキュアに分が有った。
「長期戦にさせてもらいます、【空中機動】!」
「逃げに徹するか……卑怯とは言わんがの」
重力を無視した動きで空中に逃げるキュア。 今までキュアが戦ってきた 『敵』 とは魔物や盗賊ばかりである。 決闘も礼儀も何もない……勝てば良かろうという世界なのだ。
敵は何でもしてくるし、キュアも何でもする。
「獅子・猛虎・狩猟豹を見て、儂の戦力を計ったか!?
また情報に踊らされておるぞ、キュアよ!」
「何が出ても……俺が勝ちます!
【拡散弾丸】!!」
レイグランの鎧に彫刻された、何十もの像。 獅子や狩猟豹の像も有る。 そこから出てきた分身。 為ればレイグランは、あの像の数だけ変身でき分身を産みだせるのだろう。
それでも勝たねばならない。
未だ回復しきっていない魔力を消費し、レイグランを牽制するキュア。
「……儂に空中戦闘が出来んと思うておるなら大間違いじゃ、超獣武装・空狩!」
「なっ……!?」
重力を無視した空中のキュアを、脚力によるジャンプだけで追撃するレイグラン。 想像を超える戦闘力を持つ二人の空中戦闘に、見物人たちは開いたクチが閉じない。
もはや人外と呼ぶに相応しい戦闘である。
「【二段ジャンプ】、【ワイルドスラッ───」
「───【鳥追脚】【猛虎襲】、【百裂爪】!!!」
「ぐっ……!」
空中を、超重級の攻撃力で、高速連撃してくるレイグラン。 必死に反撃するキュア。
【ライフイーター】の効果で、幾らか回復しつつも───あと僅か、あとほんの僅か、届かない。
もう少しだけ、【仮想現実装置】を被り【ドラゴンハーツ】で旅をしてスキルを集めていたら…………。
「…………。
……儂が王都から帰るのが、一日遅れておったら───結果は逆じゃったろうの」
「……仕方ありません」
互いの最後の一撃。
キュアの一撃はレイグランを捕らえ……レイグランの一撃はキュアの皮膚表面で止められた。
それ即ち───
「───そこまでよぉ、二人ともぉ?」
「バカ姉……」
レイグランの警護秘書にして雷神、この決闘の審判たるクミンが……終わりを告げる。
レイグランの一撃を、彼女が止めた。
そうしなければ、キュアが死んでいたからだ。
「勝者ぁ……コタリア・グヌ・レイグラン!」
「「「わあっ……!」」」
沸く、見物の使用人たち。
人知れず、数多の小精霊たちも踊る。
どちらが勝っても何らおかしくない決闘であった。
「……兄さん」
「キュア……」
「…………。
……主様」
「───……ははっ、負けちゃったよ」
フワフワと、【低速落下】でゆっくりクリティカルたちの所へ落ちるキュア。
悔しそうでもあり……吹っ切れたようにも見える表情である。
これで人類最強の称号をレイグランが得───四天王と戦うことが決まった。