413 村人、決闘を開始する。
「キュアよ、覚悟は決まったかの?」
「俺は───
戦闘も殺人も、別に好きな訳では有りません。
ですが、レイグラン様に四天王の相手をさせるつもりは無いです」
「お前は教会が生み出した 『魔ナシ差別』 により、幼い頃から無用の戦いを強いられてきた。
今日から儂がその戦いを継ぐだけじゃ」
「ですが俺はレイグラン様の仕事を継げません。
クリティカルやみんなを守るなら、今の形が一番良い筈なんです」
突如決まったキュアとレイグランの決闘。
レイグランは、キュアばかりが背負ってきた重荷を代わりに背負う気でいた。
それはキュアだけの為ではない。
公人レイグランにとって、領民を守るのは己の務め。 キュアはその一人でしかない。
私人レイグランにとっては……キュアが生まれる前から、戦っていた不倶戴天の敵である。 己の手で始末を付けたい。
───そして……。
「…………。
……その道は闘争の道ぞ?
今は良くても、いずれ引き返せなく成る道じゃ」
「既に、俺は腐れた道を歩いてクリティカルにも迷惑をかけてきました。
───ですが、もう迷いません」
「…………」
思案顔のレイグラン。
暫し空を見遣り……ニヤと笑う。
「───ふふん。
まだまだ人生の道半ばの小僧に、負けはせんぞ?」
「こちらこそ」
決闘の広場 中央へと進むキュアとレイグラン。 二人とも、未だに魔法を使用していないが……広場に渦巻き始める風と魔力。
何処か。
見物の使用人たちから生唾を飲む音に混じるは、風の音か気の所為か───勘の良い者は僅か、ボソボソと話し声を聞いた。 人の目には見えねど小精霊たちも集まり、この決闘を見学しているようだ。
警護秘書隊隊長クミンが審判として、二人の中間に立つ。
「じゃあ、二人とも良いかしらぁ?
禁じ手は無し、武器も魔法もスキルも好きに使って良いわよぉ」
「何でもアリ……ですか」
「決闘なんて物は本気でヤらなきゃねぇ?
大丈夫よぉ、致命傷はギリギリ通らないよう対処してるからぁ」
以前キュアが神に近い魔物である八部伯衆と戦った時、彼の知らぬ間に朱雀が皮膚表面にバリアを張っていたのだという。
修行のため、非致死性ダメージは通るように成っていたらしいが……それと同種の技能なのだろう。
「それじゃあ、イクわよぉ……始めぇっ!」
「【強化】っ!」
「超獣武装・猛虎───【猛虎襲】!!」
クミンの合図と同時、キュアは何時もの如く神経拡張魔法を唱えて全感覚を高速化。 距離を取ろう後退とする。
レイグランも己の戦闘能力を上げる変身スキルを使用したが……慎重派で守勢のキュアと違い、苛烈な性格の彼は同時にタックルを繰り出してきた。
変身したレイグランは、盛り上がった筋肉を模した2m半にも成る鎧姿である。 鈍重ではあるものの、その勢いづいた巨塊は強化済みのキュアだからこそ直撃を避けれたような一撃だった。
「兄さん!?」
「大丈夫、カスっただけだ。
けど……けっこう痺れたな」
「逃げ足だけかの? コタリア領の英雄よ」
触れるか否かというレベルでレイグランの攻撃が右腕に当たったキュア。 それでも、普通の成人男性に殴られたぐらいのダメージだ。 痛みそのものは慣れた物であり、戦闘に影響は無いが……その破壊力は要警戒である。
レイグランといいクミンといい、決闘と成ったら躊躇いのない者たちばかりで 「これが貴き御方々か」 と納得するばかりであった。
「(しかし……レイグラン様の変身、昨日見た時とは違うな。
今日のは筋力特化といった所か。
たぶん俺の杖・指輪魔法のように、他にも変身形態が有る筈だ)」
「考え事など、しとる暇は無いぞ?
───超獣武装・狩猟豹」
瞬間的な速度で、一瞬だけキュアを捕らえたレイグランであるが……キュアはキュアとて英雄たる者。 レイグランの勢いすら利用して大きく距離を取っていた。
だが大きく鈍重な鎧から細くしなやかな鎧へと変形し、超速のキュアに負けぬスピードで追従するレイグラン。
「───っ!?」
「行くぞ、【百裂爪】!!!」
「キュアあっ!」
『ブンッ……』 と、ぶれるレイグランの像。 次の瞬間、五人に分身しキュアを取り囲んだかと思うと鋭利なナイフと化した両手の爪で乱れ斬る。
吹き荒れる風。
暴れる魔力渦。
飛び散る赤。
誰しも、キュアの死を連想したが───
「───落ち着きなさい。
バカ姉は動いていません」
「えっ……?」
慌てるヘイストを押さえる朱雀。
審判のクミンは決闘の終わりを告げていない。 それ即ち。
「……頑丈じゃな」
「伊達に【仮想現実装置】の元持ち主では有りません」
目にも止まらぬ乱撃の、致命傷足りえる攻撃にのみ集中して仕込み杖にて防いだキュア。 その他の攻撃は【防御力○%UP】系スキルや指輪魔法【結界】で最小ダメージに抑えていた。
「だが、何時まで防ぎきれるかの?
【百裂───」
「───【火円】!」
再び五人に分身し、キュアを囲むレイグラン。 最小ダメージとは言え、軽傷とは言い難い。 キュアが消耗するまで攻めたてるつもりだったらしいが……キュアとて対策は有る。
自分を中心に炎を円形に繰り出し、五人のレイグラン全員を炎に包んだ。
思わず乱撃を中断し、キュアから距離を取る。
「……ふむ、流石に一方的にヤラれたりはせんか」
「当然です」
仕切り直しの二人。
だが、レイグランの鎧は……一部が多少黒く焦げていたが、ダメージが有るようには見えなかった。