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410 村人、レイグランの家系を知る。

 

「来たか。

何やら、キュアに来客であったようだが……」


「実は斯々然々───

それで彼と、薬草の収穫・販売量について色々と」




 会議室に集まった、領主館主要メンバー。 中断されていた会議の再開である。

 ちなみに。

 キュアは庭師のアドバイスを受け、薬草の収穫量増加の目処が立っていた。 バジルにもその事は伝えていたのだが……今回の戦争や四天王関連の所為で、領主館に薬草を回さねば成らなくなったのだ。

 平時ならばコリアンダーとて、キュアがバジルへ売った分を領主館で買いとってもいい。 流れた先が教会であるというならば尚更だろう。 しかし今や彼の薬草は高騰しすぎており、即決即買いできる話ではなくなっていたのである。




「そうか……キュアの薬草については我々も把握している。

買い取りも考えておく」


「申し訳ありません」




 結果として、バジルにぬか喜びさせてしまったキュアは 「申し訳ないが渡せる量は据え置きで」 という取り決めが交わされたのである。

 バジルとしては……まあ商人組合や薬師からの責付きといった苦労は有るが、普通ならイチ行商人と領主館だ。 見捨てられても文句は言えない。 なればキュアの判断に感謝こそあれ、不服など無い。

 キュアの性質を考えれば、バジルから全ての権利を取り上げても───望ましい結果は見えないだろう。 コリアンダー自身、教会のように救うべき民草から糊口を奪う真似も好まない。

  (またもや、) (キュアの遣らかしに) (頭悩まされる) (可哀想な) (コリアンダー。)

 閑話休題。

 コタリア領に迫る問題を話しあう会議の続きである。




「取敢ず……我々の方針としては、四天王よりも教会と教会外部組織を優先して対処するつもりだ」


「そ、それは……大丈夫なんですか?」




 領主館執事コリアンダーが、会議室に集まった面々を見遣り……領主館上層部の方針を伝える。 受けて、動揺が広がるキュアたち一堂。

 キュアとしては四天王が一角、アシッドの危険思想や残忍っプリを嫌という程に知っている。 その強さも。

 比べ───

 教会など政治解決出来る見込みのある分、幾らでも遣り様は有るのではないかと思う。 一番厄介な相手を放っておくと宣言され、思わず不安顔でコリアンダーを問い詰めてしまう。 それはクリティカルやヘイストとて同じであった。




「奴等は、一人一人がおそらくは領主街に甚大な被害を齎した炎の怪人以上の化け物たちなのですよ?」


「しかも創造神の妹の加護を得て、瞬間移動能力まで……一般兵が対処出来る範囲を超えています!」


「一般兵で対処出来ないからこそ、だ。

そんな相手に負け戦を仕掛けて戦力を減らし、教会やサジラ・グヌ・セドラー相手にまで負ける訳にはいかん」


「ですが……」




 雑魚になら対処出来るので、雑魚だけ相手しよう───言いたい事は分からないでも無いが、やはり如何考えても四天王は放っておいて良い存在ではない。

 …………が。




「『月』 とは……とても偉大で巨大な、『魔石』 なのだ」


「「「……は?」」」




 慌てふためくキュアたちを無視して、突如遠い目で語りだすレイグラン。

  (ボケるにはまだ早い) (年齢である。)




「つ、月……って───

……あの空に浮かぶ月、ですか??」


「他に有るまい?」




 まるで慌てるキュアたちが可笑しいとでも言うように、真っ直ぐ真剣に答えるレイグラン。 (疲れたのだろうか……) (本気で、薬草か) (回復魔法の使用を) (考えるキュア。)

 訝しむキュアたちに、ニヤリと警護秘書隊隊長クミンは笑みを向け。




「朱雀ちゃん」


「……何ですか、バカ姉」


「知ってたぁ?

月が巨大な魔石だって事ぉ?」


「……下らない。

只の其奴の妄言でしょう」


「じゃあ何でぇ、『太陽からきた魔王と、月からきた勇者』 なんて名前の絵本が、古代文明時代から現代まで連綿と受け継がれてきたのかしらぁ?」


「…………。

……勇者人間が書いた書物の事など知りません」




 ニヤニヤと、物を知らない妹に自分だけが知る知識を ( (たぶん) 親切心で) 教えたがっている姉クミン。 その、上から目線の愚姉が気に食わない妹朱雀。

 無視してやりたいが……場を仕切るのは、己の主様が付き従っているレイグランとクミンである。 従者としては付き合うしかない。




「神々たるアタシたち大精霊はぁ……これまでに二度死んで、一部(・・)知識を受け継いで生まれ代わってるわぁ」


「…………。

……其れが、真の精霊王に仕える我等の宿命ですから」


「だったらぁ……何で、一部(・・)なのぉ?

精霊王を助けるってんなら、全知識を持ってた方が断然助けになるわよねぇ?」


「…………」




 魔王に仕え、勇者に仕え、キュアに仕え。

 この世に精霊王が誕生すると、朱雀たち神々は生まれ、従者として仕え、役目を終えて死ぬ。

 そして新たな精霊王を待つのだ。

 その時々で、ある程度の記憶は有しているが……前世の記憶とは、完全なる自分の物というより日記に近い。 記憶に漏れが有ったり、自分であって自分ではない違和感が付きまとうのである。




「───……精霊王の……主様の成長を促すため、過度な情報を与え過ぎないよう創造神が…………」


「月が魔石って情報ぉ、それに該当するぅ?」


「何が言いたいのですかっ、貴女は!?」




 いい加減、イライラが募りだす朱雀。 ニヤケ面のこの愚姉が、本()は本気で妹のために想ってやっているつもりらしいのが余計に腹がたつ。




「…………もしかして、月が魔石っていうのは───クミン様の知識じゃあなく、レイグラン様の知識なのですか?」


「……あらぁ?」


「……主様?」


「兄さん、どういう事?」




 朱雀とクミンの姉妹喧嘩を尻目に、キュアがポツリと呟く。




「いや、何となくだけど……。

クミン様の言い分を聞くに、朱雀は受け継がなかった記憶をクミン様だけが受け継げた───っていう風には聞こえなかったから」


「ち、違うの?」


「其うですかぁぁ~~???」




 イラつきと、姉への不信感から……キュアの言葉を俄かには信じられない (今までに) (見せたことの無い) (珍妙な表情の) 朱雀。

 受けて、クミンは。




「まぁ、ほとんどキュアが正解ねぇ」


「……貴女の知識でないというのであれば、その知識とやらに何も確証など無いでしょう?」


「レイグラン様が、只の人間なら……ねぇ♡」


「勿体ぶらず、さっさと言いなさい!」




 猛る朱雀に、やれやれ顔のクミン。

 やや、ばつが悪い感じでレイグランが答える。




「朱雀様。

私は、コタリア・グヌ・レイグランは───かの絵本に出てくる 『月からきた勇者』 の血筋の者なのですよ」


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………はあ?」


「れ、レイグラン様が……勇者??」




 絵本、『太陽からきた魔王と、月からきた勇者』 。 この世界の住人ならば貴人平民に国を問わず、誰しもが幼き日々の寝物語として聞いた童話なのである。 童話ゆえ、神と縁遠い一般人には只の創作だと思われていた。 その登場人物たちの事も然り。

 ……だが、領主館関係者は朱雀たちを通じて絵本の中身が凡そ真実だと知っている。

 然れど。

 然れど、だ。

 絵本は数千年前───古代文明時代の出来事を描いているのだ。 登場キャラクターの中でも巨大なチカラを有する魔王四天侯と違い、子孫とはいえ人間が出てくるとは思わず呆気に取られる一堂。

 特に朱雀は、よほど混乱しているのか…… (顔面崩壊レベルで) 普段の澄まし顔をとれなくなっていた。




「……故に私は、クミンや朱雀様が失った知識を先祖代々 『口伝』 という形で受け継いでいます」

 

「……………………は、はあ」


「つまりぃ……アタシの神々の知識と、レイグラン様の御家の知識を相互補完しあってるのよぉ」


「……だから?

其れが真実だという保証は?」


「レイグラン様はぁ、神しか知らない……或いは神すら知らない筈の勇者関連知識を持ってたわぁ。

幾つかは確認も取ったものぉ、レイグラン様の御言葉は真実よぉ」


「…………」

 

 

 初期プロットでは、レイグランがキュアをラスボスから遠ざけるため敢えて敵対しコタリア領から追放しました。 が……遠因には、『勇者の子孫である自分を差し置いて、朱雀に傅かれるキュア』 に嫉妬した───という理由もほんのちょっとだけ有ったり。


 この話に、キュアとクリティカルの両親のエピソードを絡ませる予定でした。

 兄妹の両親は、とある亡国の騎士団団長と大貴族の令嬢という設定です。 権力争いに巻き込まれた事が切っ掛けで二人は結ばれるものの……魔ナシであるキュアが生まれてしまった事から暗殺事件に発展、国外脱出、流れ流れてアジルー村へとたどり着きます。

 田舎村に有るまじき兄妹の美貌、キュアの戦闘力、クリティカルの貴族を上回る魔力はこの辺が理由で……何時か閑話で書きたいエピソードなのですが、冗長に成りそう。

 只でさえ、『異世界の村人、VRマシンと関係の無い話が続いている。』 状態だというのに……。

 

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