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408 村人、異常空間を知る。

 

「脳を操る能力……そんなの、人間に対処できるのか?」


【仮想現実装置】( パーシテアー )を使った時の、あの強制的に眠らされる感じは……人間が抗える物では無いわよね」




 朝に新生アジルー村の御披露目パーティー、昼に処刑場で四天王との戦闘。 領主館に帰ってからは親教会派貴族とその手下たちとのアレコレ。

 貴族たちが逃げ帰った後、そのまま続けて始まった 『これから』 の行動を決める会議であったが……問題は多く、どれも大きい。 皆の腹が減り始める時間まで縺れ込んだ。

 ので一旦会議は中断。 休憩に入り、領主館食堂へと集まったキュアたち。




「ところで朱雀」


「何でしょうか、主様」


「創造神の妹の下へ行ったらしい、本体朱雀とは連絡つかないかな?」


「───……。

…………申し訳ありません。

私の探査範囲を越えた場所に居るようで、応答は無理なようですね」




 謎の少年がキュアから魔石を奪った時。 少年は、神たる朱雀を出し抜いた。 これは彼が朱雀と同格の神……創造神の妹の加護を受けていたと思われた。 故に朱雀はその妹を牽制しに行ったのだ。

 彼女が心配だが、その現状を知る術がキュアたちには無い。 神々の争いがどういった物なのか、人間には想像もつかないのである。




「無事だと良いんだけどなあ……」


「おそらく、二柱とも 『異次元空間』 に居るのかと」


「い、異次元空間?」


「何だそりゃ?」


「其の前に先ず……。

本体は、主様との約束で(分身)を取り込まないよう有る種の防壁を張っております」




 キュアが【ドラゴンハーツ】を効率良く進められるよう、朱雀は自らの魂の一部を【魔神城の鍵】に封印。 こうして分身朱雀は作りだされた。

 最初は本体朱雀と分身朱雀は完全なる同一存在であったのだが……共に旅するうちに差異が生まれだす。 本体朱雀はそれを良しとせず、キュアが目覚めるたび人格のリセットをしようとして───キュアがそれを拒否。 分身朱雀を独立した一個人として認めるよう頼んだのだ。




「最初は、其の防壁の所為で本体の居場所が分からないのかと思ったのですが……防壁の反応其の物が全く感じとれません」


「ま、まさか……殺されたって事は無いでしょうね?」


「其の時は、私に何らかの帰還フィードバックが有って然る可きかと。

其れが無いという事は、此の世界とは別の世界に居る可能性が有ります」


「別の世界……まさか地球とやらの世界か?」


「彼処は遠すぎます。

創造神以外には、神といえど移動不可能ですね。

おそらくですが……創造神の妹が創る 『世界と世界の隙間』 に居るかと」


「【ドラゴンハーツ】で言う、『ダンジョン』 みたいなモンか」


「ええ」




 創造神の妹は酷く怠惰であるという。 また、人間や世事に一切の興味を持たない彼女は自作の異次元空間に引き籠ってばかりなのだと朱雀は説明する。




「少年の脳操作能力に加え、瞬間移動の加護は厄介過ぎるからなあ……」


「正直……何故に彼の不感症女が、四天王どもに加護を───関心を持ったのかさっぱり分かりません。

彼れに得など無い話だと思うのですが……」




 創造神の妹は人間の生き死にに興味を持たない。 たとえ創造神から精霊王たるキュアの助力をせよという使命を与えられても、丸きり無視していた。

 そんな彼女が、四天王に加護を与えるメリットが見出だせないという朱雀。 たとえどんな財宝を謙譲しようと、たとえ絶対の忠誠を誓おうと、そういった行為すら彼女にとっては煩わしい筈なのだそうだ。




「じゃあ……朱雀の妹の、インケン妹だとか言う神は如何だ?」


「そうですね……。

彼れの性格上、動くことは無いと思うのですが……既に創造神の妹という例外が居る以上、私には 『分からない』 としか御答え出来ません」




 長女、雷神クミン。

 次女、火神朱雀。

 三女、氷神たる朱雀の妹神。

 彼女もまた、質は違うものの怠惰であるらしい。 到底、キュア含めその敵のために動くタイプでは無い筈なのだが……。




愚姉クミンは、彼れらに会いに行くよりレイグランから離れない事を選んだようですし……万一、愚妹が動いた時は後手に回るかもしれません」


「ほんと問題は山積みだなあ……」


「おーいキュアぁ、お前に御客さんだぜー?」




 うなだれるキュアたちに、来客だと彼の同僚使用人が伝えにやって来た。




「こんな時間に? ……誰だろう?」


「バジルって名乗ってたぞ。

お前の依頼で薬草を商業組合に売った、とか言ってたぜ?」


「ああ、彼だったか。

殆んど何の説明も無いまま、アジルー村から追い出す形に成っちゃったんだっけ」




 命を賭けて魔物や盗賊を退治するも、命を奪う忌み職だと 『助けた側から』 冷遇されてしまいがちな職業である討伐隊。

 アジルー村の全権がキュアに譲渡されて暫く、彼は師匠とも呼べる辺境討伐隊隊長シナモンの頼みを受けてアジルー村の一部を貸し与えていた。 その時に討伐隊と共にアジルー村へ連れてこられたのが、盗賊に襲われていた所を救助された行商人のバジルである。




「斯々然々───という訳で、金勘定の分からない俺の代わりにアジルー村で栽培している薬草の売却をバジルに頼んでいるんだ。

謎の少年に魔石を盗まれたから、避難のため別れてたんだけど……」


「ほーん……。

まあ金の事だから、言付けじゃなくて直接お前と話したいらしいぜ?」


「分かったよ。

晩飯の途中だけど、今すぐ……」


「───キュアさん」




 同僚から聞いた来客バジルの要件に、キュアが席を立つと食堂キッチンから彼を呼び止める声。 領主館食堂で料理人として雇われているヘイストの母親からだった。




「今……領主館周りは、四天王とやらだ何だでキナ臭いんだろう?」


「そう……ですね」


「なら万が一に備えて、ウチでも大量に薬草が必要になってくるんじゃないかねぇ?」


「なるほど、確かに」




 言うまでも無く、領主館は常に薬草薬品の確保のため動いている。 その為の人員は多く、予備含め揃っていた。

 ───ただし。

 それは飽くまで平時レベル……炎の怪人事件などもあり、戦争の気配燻る今はやや心許ない量だと言えた。

 『普通・低品質』 の種からでも 『特上』 という称号付きの草花を短時間で咲かせることが出来る、【ドラゴンハーツ】で得たキュアのスキル【植物育成】。

 質・育成期間、共に異常な量で薬草が備蓄されてゆくのだ。 戦争に於いては味方からは頼もしく、敵からすれば堪ったものではないだろう。




「またキュアさんに頼って悪いけど……キュアさんの【植物育成】は、戦況を一変させ得るからねぇ」


「そうなんですかね?」




 上官命令で敵に突撃する戦争は、大を生かすため小……兵士個人の怪我 (死) を前提とする作戦など少なくない。 薬草は必須である。

 逆に、キュアのような個人で戦う場合は怪我しないのが大前提……そもそも薬草に頼らないで済む運用が望ましい。

 所詮はスキルで栽培していた 『だけ』 だと、個人戦が多く戦争に於ける良質大量の薬草の意味を計りかねるキュアは呑気なものだが……アジルー村に隣接した魔境有する森の高級薬草を大量に短時間で高品質なまま提供するのである。

 常人には、その 『だけ』 が出来ない。




「ここ10日あたり、アジルー村でバジルさんの為人ひととなりは見てきたけど一応信用できる人みたいだし……晩飯がまだなようだったら、誘っちゃあ如何だい?」


「良いんですか?」


「領主館の益になる人間になら、晩飯を奢るぐらいの裁量は貰ってるからねぇ」


 


 ヘイスト母娘もバジルも、今はアジルー村に拠点を置いている。 その縁で彼女は彼の性格等を知っていた。

 真面目で誠実、キュアの【敵視】( エネミービジョン )でも引っ掛からない好青年である。

 有り難く申し出を受けるキュア。

 

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