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406 村人、botに不快感を抱く。

 

「彼の少年と、【仮想現実装置】( パーシテアー )との関係性ですが……去り際に使用した 『時間操作』 が怪しいかと」


「ああ……まるで周りの時間を濃縮したような、【強化】( ヘイスト )っぽいアレか」


「ええ」




 領主館に存在する数々の問題を語りあう一堂。

 キュアの魔石を奪い、教会軍軍隊長を蘇らせ、何らかの時間覚操作により逃走した謎の少年。 その正体が、【仮想現実装置】( パーシテアー )と関係あるのだという朱雀。 




「───主様の妹、小娘。

貴女方が【ウィル・オ・ウィスプ】を通して主様を窃視していた時、我等が感じた時間操作を感じましたか?」


「せ、窃視とか人聞きの悪いこと言わないでよ。

……特に感じなかったわね」


「同じくだな」


「離れた位置に居る彼女らには作用しなかった───其れはつまり、彼が本当に時間を操っていた訳では無い……ということなのでしょう」


「だから、【強化】( ヘイスト )と同系統の魔法を使ったんだろう?」




 【強化】( ヘイスト )とは飽くまで自分自身の各種神経を強化し、反応を大幅に増幅する事で己の時間感覚を引き延ばす魔法である。




「ですが……彼方は、本人含め彼の場に居た者たち全員(・・)に作用しました」


「……どう違うんだ??」


「其処で【仮想現実装置】( パーシテアー )です。

【仮想現実装置】( パーシテアー )は、己を被った者の(・・・・・・・)脳を操作(・・・・)することで時間感覚を操作し、一晩で何日分もの体験をさせるのです」


「あー……【仮想現実装置】( パーシテアー )を長時間操作すると、≪脳の疲れを検知≫とか言ってたなあ。

…………つまり?」


「少年の、時間感覚を操作する能力とは……相手の脳を操る能力(・・・・・・・・・)だと思われます」


「「「…………っ!?」」」


「そ、それって……」




 毒なり疲弊させるなり、脳を間接的に狂わせる(・・・・・・・・)手段は有るだろう。 だが、直接操る(・・・・)術となると……そう簡単では無い。

 神ですら他人の脳の操作など不可能に近いのだ。

 朱雀は、会議室に居るメンバーの顔を見回し一呼吸。 自分を楽しげに頬擦りするクミンを見遣り。




「其の話をする前に───馬鹿姉。

貴女……【仮想現実装置】( パーシテアー )を如何しましたか?」


「……んーとぉ?

如何いう意味かしらぁ?」


「外に漏洩させている───なんて事は無いでしょうね?」


「…………」




 神としての力量は違えど、本気の殺意を込める朱雀。 クミンの返答次第では文字通り命をかけて、キュアの為に動くだろう。



 

【仮想現実装置】( パーシテアー )は、真の(・・)精霊王として覚醒した主様の物。

其処な男(レイグラン)には、主様の慈悲で下賜(・・)してやっているに過ぎません」


「…………」




 もし本当に少年と【仮想現実装置】( パーシテアー )との間に何らかの関連があるならば、【仮想現実装置】( パーシテアー )現所有者であるレイグランは場合によっては責任問題に成りかねない。

 殺気を向ける朱雀。

 受けて、彼の守護者クミンは……笑顔を崩さず。




「…………。

……朱雀ちゃんはぁ、名前(・・)について如何思ってるぅ?」


「名前?」


キュア(病忌避)クリティカル(会心)ヘイスト(強化)アシッド(強酸)バリア(結界)の五人の名前よぅ。

……偶々だと思ってるぅ?」


「…………」




 問いに問いで返す愚姉に、訝しげな視線を向ける朱雀。 だが自分も気になっていた話題ではある。

 【ドラゴンハーツ】に於いては、有れば便利だが無くともクリア出来る魔法の数々。 この世界では普通に有り触れた人名として知られている。 その由来は古代文明時代───嘗ての精霊王、勇者と魔王の時代まで遡る。




「アタシの名前…… 『クミン』 や、『コリアンダー』『リカリス』 に古代文明の食材や魔法の実物は文明の崩壊と共に失われ───何故か人名として残ったわぁ」


「……生き残った人々が、失われた物に想いを馳せて我が子の名前に付けた……おそらく、そんな所でしょう」


「かもねぇ?

まあソレは良いのよぉ。

ただ……その五人の名前はねぇ?

有り触れた名前だから、偶々だと言えなくもないけどぉ」




 キュアたち五人の名前は、どれも現代では珍しくとも何ともない名前である。 だが。 古代文明に於いては、精霊王に成るための試練として存在した五つの魔法の名前なのだ。

 現精霊王たるキュアの周囲に、そんな都合よく五人も集まるのかと考えれば……如何しても秘密主義にして色々と企んでいるらしき創造神の顔が浮かんでくる。




「アタシがレイグラン様を精霊王にしたいのはぁ……レイグラン様がその座に相応しいと思っているのも事実だけどぉ。

そもそも、創造神がキュアを精霊王に推す理由が分からない以上無条件に彼の下には就けないからよぅ」


「……創造神が間違っているとでも?」


「何も仰ってくれないんだものぉ。

間違っているか如何かすら判断のしようが無いわぁ。

だからアタシは自分の目で見て判断するのよぉ」




 今でこそ、 (天然の主に調教された) (……とかでは無く) だいぶ柔らかくなった朱雀。 だがその本質は使命に実直、融通の効かない所は未だ有る。

 クミンは。

 クミンも使命に不真面目という訳ではない。 ただ、自分が納得出来ないのであれば……相手がたとえ創造神(産みの親)であろうと命令を無視してしまう。 己が納得する道を己で探しだすのだ。




「彼の御方が秘密主義なのは認めます。

ですが其れが其のまま、彼女が間違った事をしているという言い訳には成りませんよ?」


「そこまで言ってないわよぅ。

ただ、キュアを 『どう』 使って精霊の楽土の崩壊を止めるのか……今一つ謎な以上、アタシはアタシが考える最も精霊王に相応しいレイグラン様に御仕えするのよぉ」


「我が主様は真の精霊王として覚醒したと言っているでしょう!?」


「レイグラン様を舐めないでよねぇ?

今、この瞬間もレイグラン様は【仮想現実装置】( パーシテアー )の中に居るんだからぁ♡」


「「「…………は?」」」




 女神たちの (彼氏自慢) 会議に居心地の悪さを感じていたキュアとレイグラン、他メンバーであったが……クミンのセリフに、視線がレイグランへと集中する。

 今、レイグランは起きているし、【仮想現実装置】( パーシテアー )を被ってもいない。




「……馬鹿姉?

其れは───如何いう意味ですか?」


「さっきの朱雀ちゃんの、『【仮想現実装置】( パーシテアー )を漏洩させてないか?』 って問いの答えが 『コレ』 よぅ」




 言って、クミンが己の腹に自らの手を突き射す。 だがそこから血などは出ず、代わりに僅かな放電。 暫しゴソゴソと動かし……。




「はぁい。

【仮想現実装置】( パーシテアー )は、ちゃぁんとアタシが保管してるわぁ」


「こっ、此れは……」




 自らの腹から、ヌッと【仮想現実装置】( パーシテアー )を取り出すクミン。 火燐や放電の一つ一つが神の本体であるという。そういった細胞の隙間に空間を作り、誰の目にも触れられない場所で秘宝を守っていたようだ。

  (服も己の細胞から) (作られているようで、) ( 「神様ってなあ) (常にスッ裸だった) (んだなぁ」 などと) (ニヤニヤ笑っている) (エロジジイズ。)

  (それは死ゾ?)




「前にキュアと決闘した時にも言ったけどぉ、生物は何をするにも体内で雷が走ってるのよぅ」


「た……確か体を動かしたり魔法を使ったりしたら、神経が如何? とか何とか?

雷の神であるクミン様は、それをも操作できると」


「そうよぅ。

そして人は、思考しても雷が走るわぁ」


「はあ……?

……………………えっ!?」


「アタシはねぇ。

レイグラン様の思考を複製・統合して、今この状況で【仮想現実装置】( パーシテアー )とレイグラン様を繋いでいるのぉ」




 クミンのセリフにざわめく一堂。 己の 『心』 を複製……などと言われても、人の身では 『それ』 がどんな状態か想像すらつかない。

 顔をしかめる朱雀。




「人間に相手になんという無茶を……!

其れは脳を操っているのと違うのですか!?」


「レイグラン様の脳を操ってるんじゃなく、飽くまで複製……アタシん中にもう一人のレイグラン様を作ったのよぅ」


「ですが……」


「コレも長年一緒に居る愛の為せることよぅ。

さすがに本人と完全に一緒は無理だけどぉ、一部同じ反応をする人形かしらぁ?

【仮想現実装置】( パーシテアー )が、レイグラン様だと誤認する疑似脳波を送ってるのよぅ」


「それ……は……。

………………………………」




 朱雀とクミンの……神々の会話内容を、全て理解することは出来ていないキュア。 思考の複製など完全に想像の埒外だ。 ディメイションモンスターがヘイストの一部だという話は聞いているが……彼等は彼等で独立している。

 キュアは、己に湧き上がったその感情を理解しきれていない。 だが何となく不快感を感じていた。

 地球で言うなら、レイグランとクミンが【仮想現実装置】( パーシテアー )の中で遣っているのは 『bot』 という行為である。 起きている時も自分のbot(複製された思考)【仮想現実装置】( パーシテアー )の中に送り、代わりにアクティビティをプレイさせていたのだ。

 ゲームに於けるbotとは、主に自動で経験値や金を稼ぐのに使われたりするマナー違反とされることも多い行為。 ゲームは自分で楽しんでこそ至高───そう考えるキュアには受け入れがたい行為だった。




「アタシは、本当の意味では【仮想現実装置】( パーシテアー )を信じていないわぁ。

ちゃんと 『これ』 が何なのか、しっかり見定めるつもりよぅ?」


「……其の割には体良く利用しているようですが?」


「効率的って言って欲しいけどぉ……まあ無理よねぇ」




 朱雀もキュアと同等の感情を抱いていた。

 魔ナシのキュアとは本気度が違うとはいえ───愛しい主と共に、笑い、怒り、苦労し……そして楽しんだあの旅を、bot行為で汚された気分がしたからだ。




「……随分と怪事な物言いを───」


「───朱雀様」




 朱雀とクミンの遣り取りを見守っていたレイグランが、クチを挟む。 諸に表情に出した朱雀はもちろん、おそらくは同様であろうキュアの心情を踏まえ。




「私とて、伊達や酔狂で精霊王を目指している訳ではありません」


「…………」


「親教会派の連中のような薄っぺらい物ではなく、真に民草の平穏を願い、精霊の平穏を願っているつもりです。

その為に手段は問いません」


「……しかし貴方には、(精霊王)の資格は有りません」


「それは諦める理由には成らないかと」


「…………」




 タイプこそ違えど、キュアとレイグランに共通点は多い。 出奔したとはいえ腐っても神であるクミンが懐くのも分からぬでもない朱雀。




「……朱雀」


「主様……」


「今はアシッドたちの方が大事だよ」


「…………。

……主様の、良しなに」




 botという遣りクチには拒否感情を拭えないキュアだが、それでレイグランの功績や人徳まで失せはしない。 それに【仮想現実装置】( パーシテアー )はレイグランに譲ったのだ。

 方法まで問えない。

 

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