40 村人、悪魔憑きを疑われる。
元38・39話を、再編成して38・39・40話に別けました。
ストーリーは変えていません。
素晴らしい兄が、魔ナシだからと不当差別を受ける事が許せないクリティカルにとって……キュアが魔法を使った事実は我が事のように嬉しい。
「いや、クリティカル君。
済まないが、キュア君はコレからも魔ナシでいて貰う」
「何故っ!?」
若干……平民が向けてはイケない視線を領主様に送るクリティカル。 彼女にとって世界一の兄であるキュアが世界に認められないのは、ひたすら苦痛でしかないからだ。
「キュア君の出生届を教会から取り寄せたのだが……間違いなく、教会はキュア君を魔ナシ認定している」
「それは……まあ両親から聞きました」
この世界における教会とは、役所の一面がある。 出生届の管理、赤子の魔力の有無認定など、コレらも教会の仕事である。
「過去、魔ナシが後天的に魔法を使えたケースは無い。
教会が魔ナシ認定したキュア君が、実は魔ナシではない……となったら───」
最悪、キュアは宗教裁判にかけられる。 有りえるのは、「 悪魔に取り憑かれた 」 と疑われる事か。
悪魔とは、魔法学に於ては 「 人間にタチの悪い悪戯をする、飽くまで唯の精霊 」 であるが───宗教に於ては 「 全く別の世界から来る、悪しき存在 」 である。
「クリティカル君、キュア君の名誉は大事だが……死刑や幽閉の危険は避けるべきだ」
「……はい。 仰る通りかと」
一理ある上、流石に領主からそこまで言われれば納得せざるを得ないクリティカル。
自分の理解の及ばぬ自分の話が進む事に……居心地の悪さを感じ、キュアは話題を変える。
「く、クリティカル……【アジルー村】はどうなったんだ?」
「意気消沈して【アジルー村】の村民が腰を抜かしている間に、私たちは村を脱出したのよ」
「く、クリティカルが俺を担いだのか!?」
記憶がない以上……自分はその時、気絶していたのだろうと思っていたキュアだが……。
「いいえ、魔法を使っ───あの後の兄さんは……意識が無いながら、私の後を歩いて付いてきたわ」
「そ、そうか」
全く覚えていないキュア。 なんか恥ずかしいやら申し訳ないやら。
「む、村人は?」
「……順を追って話そう。
クリティカル君が意識のないキュア君を連れ、領主館に来たあとは君をココで治療させ……クリティカル君から事情を聞いて、共に【アジルー村】へと挙兵した」
「きょ、挙兵」
「闘いにも成らんかったがな。
腰が抜けたままだったり、キュア君の攻撃で這いずりながら逃げる村人一人一人を逮捕してゆき───其処で、一名の行方不明者に気付いた」
「一名?」
「アシッド……とか言うらしいな」
「アシッド!?」
キュアの幼馴染みにして、最もキュアを差別してきたアシッド。 魔物退治の後、最も悪意を振り撒いたアシッド。
……そしてある意味、現状の原因であるアシッド。
「森の方へ、血の跡が続いていた」
「血? アシッドは怪我なんかしていなかったハズだが……気付いたら、という事は兵士の方々もアシッドに攻撃していないのでは?」
「うむ。 誰も姿すら見とらんからな。
今アシッドは、兵士と森に慣れた猟師に探索させておる」
「兵士さんの話だと、出血は多いけど走って逃げたみたいよ」
ならば怪我をしたのは腕か腹か。
あの森は肉食獣も居る。 アシッドは、良い匂いを垂れ流すご馳走となるだろう。
「捕まえた【アジルー村】の人間は全員尋問中よ、兄さん」
「そうか……。
クリティカルを一番不快にさせていたらしい、奴の最後を確認出来ないのは悔しいが……クリティカルに怪我が無いなら良かった」
「兄さん……」
「あー……ゴホンゴホン」
隙あらばイチャつく兄妹。 白い目で見る領主や、普段は『警護秘書』という肩書きでビシッとしたクリティカルしか見た事がない兵士などが微笑ましげに見てくる。
「「 す、済みません…… 」」
「まあ、良いがな」