4 村人、ユーザー登録をする。
「ユーザー登録……か」
キュアが拾った 『兜』 は 『魔道具』 であったようだ。
兜……【仮想現実装置】が空中に書きしるす行動指示文どおり進めてゆくキュア。
「たぶんこの【仮想現実装置】とは、『ユーザー』 とか言う 『持ち主』 を認識する能力があるんだろうな」
然れど長く放置された所為で、前の持ち主の事を忘れたのでは? と当りを付けるキュア。
魔道具とは、遥かなる昔 『古代人』 と呼ばれる高度な文明を持った人類が作ったとされる特殊な道具である。 極希に古代遺跡などから発掘される。
ひょっとしたら前ユーザーとは古代人であり、兜を落としたのは数年前どころじゃ無いかもな…………などと想像しつつ、再び操作を始める。
≪ユーザー登録を開始します。
脳波をスキャン致しますので、【仮想現実装置】を外さずに10分お待ち下さい≫
「脳波だスキャンだとやらはよく分からないが……いくらでも待つぞ」
ちなみにこの世界にも、時計は魔道具として存在する。 家や自室に持つのは王や貴族などの、極一部の金持ちだけであるが、大きな街などには時計台が有ったりするので、庶民でも何となく時間の概念はあるのだ。
「兄さん、お風呂あがっ───な、何なの……ソレ!?」
領主館に勤めるクリティカルは身綺麗にする義務があり、平民であっても自宅に風呂を作る許可と費用を貰っていた。 キュアはこれまた、妹の手柄である風呂に抵抗があり滅多に入らない。
( 他の平民のように、週1~2回身体を濡れタオルで拭くのみ。)
しかし明日質屋で兜を売る時に汚れていては足下を見られるだろうと思って、仕方なく風呂に入ろうとしていたのだ。
そんな兄へ、風呂上がりを告げにきたクリティカルは……キュアの頭が、『兜の化物』 に食べられているとしか思えない姿に仰天する。
もはやキュアの頭部で、見えているのは口許のみであった。
「く、クリティカル!
この兜は魔道具だったぞ!?」
「まあ!?
だ……大丈夫なの!?」
「今、効果を調べている。
でも兜の鍔で目が隠れているのに、クリティカルの顔が見えてるんだよ!」
クリティカルは、兄の声が先程より更に弾んでいるのに気付く。 こんな兄の声を聞くのは何時以来か……目元は兄の言う通り見えないが、おそらく笑顔だろう。
そう思うと、我が事のように嬉しくなるクリティカル。
「ソレで、魔道具だと平民が売る代物じゃないし……盗品とか言われると面倒だから売りに行くのを止めようと思うんだが───どうだろう?」
「ええ。
兄さんの予想通りだと思うわ」
魔道具は、現行人類の文明を遥かに超える 『オーバー・テクノロジーの塊』 であり、その能力次第ではたった一つで世界の有様を変えてしまう。
その為、世界中の魔道具は国際機関により所在管理が成されており、盗品かどうかは問合わせ一発でわかるのだ。
仮にこの【仮想現実装置】が何処かの金持ちから盗まれた盗品であったとしても、キュアが軍でも持たない限り一人で盗めるようなシロモノでは無い。
平民一人が魔道具を売ろうと、(面倒事は有るだろうが) キュアの心配するような事態には成らないのだが……クリティカルは、喜ぶ兄の様子に合わせた。