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399 村人、怪人を退けて。

 

 閉鎖的なド田舎にあっては絶対権力者たる村長の息子として産まれ、分かり安く差別対象も居て。 権力は父親から、村を平和にする武力は幼馴染みから、自らは何物をも得る事なく。 誰かからの借り物のチカラを己の実力だと勘違いしたまま過ごしてきたアシッド。

 幼い頃から肉盾として魔物や盗賊と戦わされ、【ドラゴンハーツ】で奇想天外な攻撃手段を持つエネミーと対峙してきたキュア。

 ───二人の差は、軍隊長が放つ魔弾の嵐の中でそのまま現れる。




「───……?」


「…………」




 一瞬だけ交差する、ポカンとした表情のまま落ちるアシッドの首と……斬り落としたキュアの視線。




「───……ぁ?」


「クソ人間……!」




 『ゴッ』 という、首が床に落ちた音と衝撃。 頭部を無くした己の肉体が天地逆さまに見える景色。 死出までの数瞬、アシッドはやっと自分が負けたという状況を理解したらしい。

 物陰に隠れていた少年も一瞬目を離していた間の出来事に臍を噛む。 その忌々しげな視線は……キュア、にではなくアシッドへと向けといた。 それは仲間に向ける視線ではない。 邪魔者を見る目である。

 ……四天王は(・・・・)四人揃わねば(・・・・・・)意味がない(・・・・・)のだから。


 


「次はあの少年に…………」


「主様っ!!」




 キュアは直ぐに次の敵へと視線を向ける。 落ちたアシッドの首など、もはや如何でもいい(・・・・・・)からだ。

 そんなキュアの視線を……死ぬ直前のアシッドは絶望しながら見ていた。

 キュアはオレ様より格下のゴミ。 以前の 『アレ』( 負け ) は、朱雀が裏切ったから。 そうでなくてはならない。 だというのにまた負けた。 そして有ろう事か───無視までしやがった。

 自分はキュアを殺した暁にはその首で祝ってやろうとまで思っていたのに……奴にとって、『オレ』 とはそこまで(・・・・)価値の無い存在なのだ。

 許せない(・・・・)……っ!




「ぁ…………あ、あ あ"あ"あ" あ" あ" っっ!!!」


「なっ!?」




 肺を失った首の何処から出ているのか……だが確かに、そのクチから発せられる声と共に炎が吹き上がる。 人頭大の火球。 怨嗟の声をあげる呪いの人魂ヒトダマ

 キュアが 『何かが不味い』 と思った瞬間───時間が止まる。 正確には【ドラゴンハーツ】の魔法、【強化】( ヘイスト )を使った時のようにゆっくりとした時間となる。

 【強化】( ヘイスト )は、己の体感時間を引き伸ばす魔法である。 回りの世界が一秒過ごす間に、己だけは一分を過ごすかのような。 自分以外の全てがゆっくりに感じられる、あの感覚……自分以外の誰かが【強化】( ヘイスト )を使い、その世界に巻き込まれたのだとキュアは感じた。




「こ  れ  は  …  …  !?」


「… … … …」




 キュアも、疾うに【強化】( ヘイスト )は使用している。 そのキュアが動けない世界を……ゆっくりと歩む影。

 少年だ。

 少年が……少年自身もまるで水中を進むが如く、ゆったりと、苦しげにキュアの脇を通り過ぎ───落ちたアシッドの首を緩慢な動きで拾う。




「今  回  は  こ  ち  ら  の  負  け  だ、 魔  王」


「ま  …  …  魔  王、 だ  と  ?」


「絵  本  の  勇  者  と 魔  王  で  は  な  い  …  …  本  来  の  魔  王。

英  雄  と、 英  雄  に  倒  さ  れ  る  魔  王  の  物  語」


「何  の  話  だ  っ  …  …  !?」


「…  …  …  …」




 静かに、ゆっくりと流れる時間の中……少年はアシッドの首を抱え───消えた。 軍隊長も。 どうやら瞬間移動で去ったらしい。 副隊長は恐慌の表情のまま固まっていた。

 少年たちが消えたと同時に異常な時の流れも消える。 合わせ、キュアに駆け寄る朱雀。




「───主様……申し訳ございません」


「朱雀?」


「私が付いて居ながら……敵を逃してしまい……」


「仕方ないさ、相手は神の加護持ちだ」


「其れなのですが…………いえ、先ずは此の建物から脱出しましょう」


「……ん、そうだな」




 この戦場は、燃え盛る処刑場の地下である。 よほど確りした造りなのだろう、今はまだ崩れる気配も熱も無い。 然れど何時までも居て良い場所でもない。

 放心する副隊長を連れ、急ぎ処刑場を脱出したキュアたち。



◆◆◆



ポポーッ(キュア)!!≫


「ヘイスト……心配かけて済まない」




 処刑場から脱出し、待機していたコリアンダーの部下と合流したキュアたち。

 本来、喋るタイプ以外のディメイションモンスターの言葉は常人には分からない。 常人ならば文章などを介する事でしかヘイストとはコンタクトを取れないのだが……精霊王として覚醒したらしいキュアには、精霊と融合した【ウィル・オ・ウィスプ】の言葉が理解できた。

 部外者である処刑場職員や囚人から離れた場所にて【ウィル・オ・ウィスプ】と直接会話してヘイストとコンタクトを取る。

  (コリアンダーの) (部下は、) (若干引いていたが。)




≪【ウィル・オ・ウィスプ】の視界を確認していたら……オマエは火事の中に突っ込むわ、復活したアシッドやら軍隊長やらと戦うわ───

見てて、生きた心地がしなかったのだぞ!?≫


「無茶はしていない……つもりなんだけどな」




 キュアとしては、副隊長にしてもアシッドにしても放っておいた方が危険だと判断した結果だ。 今までの人生経験で得た直感である。




「処刑場職員にアシッドや謎の少年に蘇った軍隊長の事は言えないし、副隊長は領主館に連れて帰る事に成ったよ。

彼女が火事の遠因だから裁判のやり直しだとしてな」


≪まあソイツを放っておくのも不味いだろうし……仕方ないだろう≫


「それでそっちは如何だ?」


≪アジルー村から領主館まで……は、特に問題無い≫


「な……何だ、その言い方!?

まさか領主館では何か有ったのか!?

みんな無事なのかっ!?」


≪き、危険は無い……のだがな。

今、親教会派の高位貴族が来ているんだ。

今レイグラン様が対応為されている≫




 奥歯に物が挟まったかのような物言いのヘイスト。

 レイグランは仮にも一地方を治める領領である。 その部下には沢山の貴族が働いている。 今キュアの隣に居るコリアンダーの部下も然り。 然れど、領主館の気風としてあまり身分差を気にする者は少なかった。

 だがさすがに余所の貴族……しかも反教会派のレイグランと敵対する親教会派貴族相手にコタリア領領主館の気風のままの態度では居れず、使用人たちは皆ピリピリしているらしい。




≪本当ならば、ずっとキュアの援護に行きたかったのだが……只でさえ処刑場の火事とかで向こうが突っ掛かって来ているらしいしな。

そういった訳で自分もクリティカルも身動き取れないんだ≫


「なるほど……なら俺も、アシッドの事なんかをあまり領主館に持ち帰らない方が良さそうだな」


≪済まない≫




 余所の貴人を放っておいてトラブルを起こせば領主館全体に迷惑が掛かり、詰まる所キュアにも返ってくる。 ヘイストやクリティカルとしてはキュアを信じて待っているしか無かったのだ。




「直ぐ帰るよ」

 

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