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397 村人、賭けに出て。

 

「…………!???」




 蘇った炎の怪人アシッドの首に魔力の刃を食い込ませ、あと少しで頸椎を切断する───その直前。

 キュアは何の前触れもなく、物理法則すらも無視して吹っ飛んでいた。 ただただ 『吹っ飛ばす』 という 『現象』 を押し付けられたかの如く。 彼が気付いた時には地面が迫っている。

 慌ててつつも百戦錬磨の経験が最適解の着地を取らせ、ダメージは小さい。




「なん……っ!? いや、コレは!」


「───ォ……あ…………」




 キュアが吹っ飛んだのとは反対側を見遣れば、赤いモヤを撒き散らしながら 『ソレ』 が立とうとしていた。

 絞首刑の痕が(・・・・・・)生々しく残るモノ(・・)




「やはり軍隊長か……っ!」


「ゴァ…………ア……ァ…………!!!」




 王族の落ちこぼれとして迫害を受け。 暗殺されそうに成った所を秘密組織の手引きで教会内部へと逃げこみ。 新たな場所で権力を手に入れるため、魔法を使える魔ナシや反教会派に天罰を与えんと息巻く狂信派を唆し。 コタリア領に攻め込むもキュアと領主館の皆の協力の下、返り討ちにあった男。

 王族・教会共に見捨てられ処刑されたばすの教会軍軍隊長が、蘇っていた。




「やっぱり……コレは俺の【振動弾】( ショットガン )か!

おまけに【拡散】( ワイド )まで……!」


「た、隊…………ちょ……う?」




 強大な一個である事を尊ぶ王家におて恥以外の何物でもないとされた物真似魔法で、かつて自らが食らったキュアの魔法を世界最高峰たる王族の魔力に任せて放つ軍隊長。 アシッドから離され、せっかくのチャンスを失ってしまう。

 だが、軍隊長の様子がおかしい。 キュアを殺すためならアシッドや少年、副隊長でさえ巻き添えになろうと構わぬとばかりに魔弾を撒き散らしてゆく。




「……ぐっ!? おいっクソ餓鬼!

見境ねぇぞコイツ!?

テメエ、失敗したんじゃねぇだろうな!?」


「失敗ではない。

……多少、面倒くさい事態だが」


「何だそりゃ!? ソレを失敗っつーんじゃねぇのか!?」


失敗()()かけていたのは何処の誰だ?」


「……ちっ」




 意志とでも言うべき物が殆んど感じられないのだ。 有るのは憎悪。 特にキュアへの、禍々しい憎悪である。

 アシッドとてキュアには深い憎悪を抱いている。 だが俗物だ。 憎悪に混じり、様々な欲望が見て取れた。 ある意味ではとても人間らしい感情である。

 しかし軍隊長の憎悪は、とても人と思えぬモノ。 もっと深く、もっと濃く、もっと純粋なモノ。 只管にキュアの破滅を願うモノであった。




「た……隊長!

お止め下さ───きゃあ……っ!?」


「生贄を介さねば完璧ではないとは言え、この魔石でも蘇りの触媒に出来るのは新発見」


「……き、貴様!

その魔石を使ったら、隊長は元の御姿で復活すると言っていたで……しょう!?」


「それは、(生贄の) 貴方が使用した場合の話だと、最初に言った。

人の話は確りと聞くべき」


「……貴様あっ!?」




 魔弾の雨の中かろうじて聞こえるのは、アシッドから食らった傷がなんとか回復したらしい副隊長が少年と会話している様子である。

 未だ 『生贄』 の全容は計りかねるが……アシッドを守るため緊急回避的に魔石を使用した少年。 ソレは、混乱している副隊長では成し得られないらしい。 そのせいで軍隊長は意志の無いまま殺戮を犯す存在と化した……と、キュアは判断する。




「こんなのを 『四天王』 にしちまって大丈夫なのか!?

誰でも成れる(・・・・・・)訳じゃあねぇんだぞ!!」


「貴様のようなクソ人間でも四天王は四天王。

なら、イカれ(・・・)でも四天王は四天王。

コレが最善と判断する」


「(四天王……?)」




 魔王四天侯に良く似た言葉……何処で聞いたか。 キュアに思いだす暇は、無い。

 キュアの目標は、成功か失敗かで問えば失敗だろう。 精霊の遺骸は奪われてその魂は救えず。 少年の目的であった軍隊長は蘇り。 アシッドを倒せず。

 敵方も混乱中だが……キュアとて今や生き残るのも困難な状況である。




「カ、カカ……ェあ…………あぁああがアぁ!」


「───……。

クリティカル、ヘイスト、みんな……済まん」


「ハッ、諦めたかよっキュア!

あのクソ王族のチカラを借りたのは残念だけどよ……惨めに死ねっ!!!」




 逃げて再びチャンスを探る手も有る。

 だがアシッドと軍隊長は、領主街と領主館の仲間たちを殺そうとした危険極まる相手である。 瞬間移動まで使うとなれば、逃走は愛する者たちの安寧を揺るがすだろう。




「……ああ、無事にココを出るのは諦めたよ」


「クソ魔ナシが、超えられねぇ壁ってモンが有るんだからさっさと死ね!」


「───だけどな……お前たちを倒すのは諦めやしないぞ?」


「ああん!?」




 相討ちを覚悟するキュア。

 彼は、間違いなく本気を出していた。 だがそれは防御や回避も含めてだ。 捨て身。 アシッドの言う、超えられない壁は事実だろう。 如何なキュアでもこの三人を相手に勝ち目はない。




「───……。

前に朱雀は、『唱えた時の魔力が』 と言っていた」


「……何の話だァ? 何をブツクサ言ってやがる?」


「今の……。

精霊王だと言われた今の俺でも駄目なら、俺は死ぬだろう」


「ハッ、恐怖で狂ったのか?」




 然れどアシッドは、魔ナシのキュアしか知らぬ愚者は、肉盾としてどんな戦いを強いられてきたかを知らぬ卑怯者は。

 キュアの本性を知らない。

 彼は何時だって格上の敵と戦ってきた。 実力では敵わない相手と何度も戦ってきた。

 そんな時……キュアは、卑怯者には取れぬ戦法だって取れるのだ。




「…………っっ! クソ人間!

今すぐその人間を殺せっ!!!」


「───【道具箱】( アイテムボックス )!!!」


「……あ???

なんだ、そりゃ?」


「コ……ォ…………!」




 軍隊長の猛攻を躱しつつキュアが唱えたのは、【ドラゴンハーツ】で入手したアイテムのほぼ全てをしまっている魔法の箱を出す物である。 今の、人間を超越したアシッドたちから見ても異常な程の魔力を消費したキュア。 どう考えても自殺行為である。

 だが彼に死ぬ気はない。

 強大なチカラを得ねば満足に戦えもしない、チカラに溺れた愚かな卑怯者には絶対に真似出来ぬ 『賭け』 。

 生き残るための、賭け。

 仲間のため、命を賭ける。




「……来いっ!

【魔人城の鍵】……朱雀!!!」




 箱の中身は、数多の立方体……キューブ。 かつてキュアがこの魔法を現実で使った時は、泥が詰まっていた。

 全魔力の八割を消費する、非常に燃費の悪い魔法だが……賭けに勝ちさえすれば、その効果は───




「───主様の、良しなに」


「ああ……頼む!」




  色鮮やに輝くキューブの中の一つ、キュアの呼びかけに応えたのは……彼の従者を称する者。 【ドラゴンハーツ】の中でキュアと共に戦った存在。

 火の神朱雀の分身体。




「…………は? 女??

何だそりゃ?

…………しかも、朱雀だぁ?」


「其うですよ、嘗ての依り代。

私は主様の剣にして盾。

主様の敵は、我が不倶戴天の敵。

惨めに憐れに無様に殺して差し上げましょう」

 

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