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390 村人、噂される。

 

「オレぁ【流し斬り】( 剣撃スキル )しか持ってねえから、他のスキル(【植物育成】)は分からんがね。

普通に植物を育てるなら、コレをこうしてアレをああすりゃあ……」


「あー……なるほど。

どうもこの辺だけ、薬草の育成が上手くいってなかったんですよね」


「金は掛かるけどよ、魔石を粉末にして撒くって手も在るぜ?

地の精霊が上手い事してくれるらしいわな」


「へー……魔石ですか」


「増産の目途がたったら儂の方にも回してくれ。

薬師界隈じゃあ兄ちゃんの薬草、市場に出た途端に奪い合いに成ってんだぞ?」


「分かりました」




 【ドラゴンハーツ】のスキルで良質の薬草を育成・販売しだしたキュア。 薬草の効果は凄まじく、かつ、謎の栽培者が販売制限まで掛けているとしてブランド化しつつあった。

 しかしキュアとしては、ただ単にスキルで手の回らない部分での育成に手子摺っていただけである。 仕事の合間に領主館庭師からアドバイスを貰い、増産の目途がつき喜んでいた。




「…………。

ま、コレでよう……一部分でも、兄ちゃんから【仮想現実装置】( パーシテアー )を持ち去った借りは返せたか」


「過ぎた事ですし、気にしてませんって。

では失礼します」


「おう、また何か分かんねえ時は遠慮なく聞きにきな」




 一礼して庭師の作業場から己の仕事場へと戻りつつ、庭師の教えを反芻するキュア。 勉強になった分、遣る事覚える事は多い。 アジルー村の森は薬草の宝庫である。

 採取量・種類、共に膨大ゆえ、薬草の育成について悩むキュア。




「魔石は少しずつだけど集まってるし……うーん、次はアレとかアレの薬草を試してみるか。

だけど流石にHPMP回復薬や状態異常治療薬の材料となる【ドラゴンハーツ】の薬草を育てたらヤバい…………だろうなあ。

朱雀に実体化を頼むのも悪いし───」


「───なら、アタシが遣ってあげましょうかあ?」




 どんな病傷も一瞬で癒す薬、限界を超えて才能を伸ばす薬、姿が透明になる薬、その他色々……。 【ドラゴンハーツ】の薬は、常識では考えられない特殊効果のオンパレードである。

 だが未だそれ等の薬を現実でも【錬金】出来るかは試していないし、そもそも世に出したらヤバい事ぐらいはキュアにも (さすがに) 分かる。


 今は軌道に乗りつつある現実の薬草研究の方が先かと今後の方針を呟いていると……間延びした女性の声に呼び止められる。




「く、クミン様……?」


「はあい、アタシはクミンよお」




 クリティカルの上司である警護秘書隊隊長にして、火の神朱雀の姉である雷の神───クミン。 独自のテンポとポリシーを持っており、状況次第では容易く敵にも味方にも成る存在だ。

 初対面で決闘し(殺されかけ)たキュアは、多少とはいえ警戒してしまう。




「───や、遣ってあげましょうか……って?」


「レイグラン様は自分のお仕事だしい、クリティカルや他の子も育ってきてるから警護秘書隊で特にする事無いしい、朱雀ちゃんは居ないしで今ヒマなのよお~」




 警護秘書隊隊長という肩書きだが、クミンの秘書として能力は高く (……というか全く) ない。 あくまで、警護能力でのみこの地位に居るのだ。

 神という超越者視点において、人間の些末な彼是とは難しいのだ。

  (知能的な) (理由ではない。) (たぶん。)




「…………でえ、詳しくは分かんないけどお?

(朱雀ちゃん)じゃないと出来ない事を頼みたいんでしょお?

ひょっとしてえ……【仮想現実装置】( パーシテアー )に関係するのかしらあ?」


「く……クミン様は、俺が【仮想現実装置】( パーシテアー )を使って精霊王に成るのには反対なのですよね?

そこから得た物を、遣っても良いんですか?」


「すでに得た物については、今更とやかく言うつもりは無いわあ。

以前話した 『歪み』 云々は、貴方が創造神に踊らされている自覚がない事が一番の問題よお。

レイグラン様みたいな覚悟を持てていないものお」


「…………」




 キュアとしては、魔ナシ差別でドン底だった時たまたま(・・・・)拾った遊戯の魔道具で遊んでいただけである。 精霊王だの神々の企みだのは、後から降って湧いた話。

 歪みなどと言われても、切り替えるのは難しい。




「……そんなに警戒しないでよお?

むしろアタシは、朱雀ちゃんや創造神よか貴方の側に立っているつもりなんだからあ?」


「朱雀や創造神……より?」


「朱雀が秘密にしている、貴方を使った創造神の企みい……予測は多少混ざるけど、全部教えてあげるわよお?」




 嘗て。 古代文明と呼ばれた時代。

 魔王や勇者と呼ばれし精霊王たちは、何らかの偉業と共に 『精霊たちの楽土』 とやらを作った。

 らしい。

 然れど何らかの理由で古代文明は崩壊し、楽土もまた崩壊しつつある。 創造神は大精霊である朱雀やクミンを使い、精霊王を再び造りだす計画を立てた。

 らしい。

 魔ナシとは、『世界』 が楽土崩壊を止めるための 『都合』 として生みだした存在であり……キュアはその中でも特別な役割───精霊王として創造神に選ばれた。

 らしい。




「どうやって精霊王に成るか、精霊王に成ったらどうなるか……聞きたあい?」


「───……。

一つだけ、良いですか?」


「どうぞお?」


「クミン様は、創造神は 『神』 ではなく…… 『調律師』 ? だとか言ってましたよね?」


「言ったわあ」


「世界そのもの、だとも」


「言ったわねえ」


「……なら、『創造神の企み』 と 『世界の都合』 は───同じ物、なんですか?」




 キュアの問いに、クミンはニヤリと笑い。




「……違うわあ。

強いて言うなら創造神は 『心』 で、世界は 『体』 かしらあ?

体が病気になって、勝手に魔ナシという名の自浄作用が働いちゃって……でも本当は、貴方たちに迷惑を掛けたくはないのよお」


「そう……ですか」


「でも、貴方に何も伝えず貴方を利用しようとしてるのも本当よお?」


「…………それでも良いです。

朱雀を信じていますので」




 今の喩えなら、精霊王とは薬か……あるいは手術に近いのかもしれない。

 例え、キュアを魔ナシにしたのが朱雀や創造神ではなかったとしても。 例え、魔法を使えるようにしてくれたのは世界を治すためであるとしても……キュア一人に負担を押し付ける形に成る。

 ───それでも。

 キュアとしては、文句を言える立場ではない。




「神頼みなら……朱雀にします」


「あらあらあ、アタシ振られちゃったわあ」




 お互い笑顔で、それぞれの仕事場へ行くため別れる二人。







「…………た、大変な現場を見ちまったぜぇ、オイ!?」




 なお、余談ではあるが……二人の会話場面を遠くから(・・・・)目撃していた、他人の下世話な話が大好物の庭師のエロジジイ。 『キュアとクミンが痴話喧嘩をしていた』 という誤情報を領主館中に拡散。


 後に、クミンやクリティカルにお仕置きされた。

 らしい。



◆◆◆



「───たった今、元王族の教会軍軍隊長が処刑されたそうだぞ」


「そうか……問題は無かったのか?」


「最後の瞬間まで、奴は───……いや、問題無い」


「…………。

……まだ副隊長や技術顧問は残っているけど、先ずは一区切りかな」




 昼休み。

 遠隔視能力を持つディメイションモンスターを通じ、処刑場の現状を知ったヘイスト。 当然、彼女は処刑シーンに興味などなく現場そのものを直接見たのではない。 ディメイションモンスターは処刑部屋の外に待機させ、処刑を確認したコリアンダーの部下に教えてもらっていた。




「……ん?」


「どうした、ヘイスト?」


「んん……今、コロポ(ディメイション)ックル(モンスター)の視界に、処刑場には似つかわしくない場違いな子供が映ったような…………?」


「子供?」


「……いや、気のせいだな。

すぐ確認したが、長い廊下で誰も居なかった。

たぶん処刑場の雰囲気に緊張していたのだろう……その場に居ないのに情けない」


「まあヘイストの眼病は完治してないんだ。

その辺は仕方ないさ」




 過ぎた事である。 飯の不味くなる話は止め、次の休日の話に切り替えるキュアたち。 同日に休みが取れる仲の良い使用人たちを新生アジルー村へと招待していたのだ。




「領主館の秘密工房的な場所にでもすんのか?」


「概ねそんな感じかなあ。

HP回復薬とかの材料薬草は置いといて……前に話した、砂糖が取れる植物の種も有るんだよ。

一本からこんぐらい取れるんだ」


「100gちょいか。

それ……興味はあるけど、バレたら砂糖成金の北の国が黙ってねえんじゃね?」


「ワタシ、実は領主街から出た事ないからちょっと緊張するわァ」




 クミンと話し、幾つかのつっかえが取れたキュアはアジルー村の方針を決めた。 やはり自分は自分を信じてくれる人間の為に動くのが性に合っている。

 使用人たちも、キュアが造りだす物は見たい。

 

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