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389 村人、アジルー村を安定させてゆく。

  

「き、キュアさん……。

この樽、は……どうしますか?」


「売れるなら売って、無理なら廃棄でも良いかなあ」


「わ、分かり……ました。

商業組合の知り合い、に……持っていってみま、す」


「頼んだよ」




 アジルー村がキュアの物に成って、一週間。 キュアたちの生活は幾らか安定してきていた。


 まず、朱雀の言っていた 『魔物が崇める魔石』 と思しき物は幾つか発見した。 今は領主館の仕事後にしか余暇が無いので、休日にでも街で売るため【道具箱】( アイテムボックス )の中に仕舞っている。


 森からの魔物襲来の危機が薄れたなら、次は村の中の安全である。 具体的には、キュアとクリティカル兄妹とヘイスト母娘の家が更に要塞化が進んでいたのだ。

 単純な防御力UPに加え───土魔法と、【ドラゴンハーツ】の魔法ギルド上級昇格試験の中のサブイベントの一つで入手したスキル、【植物育成】で迷彩化したのだ。

  (要は、) (某国のミサイル基)


 安全な拠点の次は、安定した収入源である。 クリティカルは気にするなと言うが、嘗て妹に辛い生活をさせていたキュアとしては償いをしたい。

 ので、行商人のバジルを仲介にキュアが始めたバイトが、




「キュアさん……の、薬草。

好評、です……。

薬師から、出所を……聞かれ、ました」


「魔境の森に生える薬草だからなあ……。

暫くは村の安定の為にも、俺の資金源としても、余所者は森に入れたくないんだけど」


「了解……です。

僕……としても、手数料が美味しい、ので」




 森で魔石を探す傍ら……ついでに採取した薬草を、【ドラゴンハーツ】のスキルである【植物育成】を利用して始めた薬草栽培である。


 【ドラゴンハーツ】序盤において【錬金】などに使える草花アイテムは、道端に生えている 『普通』『虫食い』 という称号付きの物を摘むしかない。 だが、【植物育成】を対応した種に使えば 『特上の』 という称号が付いた物にパワーアップさせて入手出来るのだ。

 しかし、ゲームだと種からほぼ一瞬で収穫できるサイズにまで成長するが……現実ではやはり 『命』 である。 水や栄養は別に要る。




「今はまだまだ少ない収穫量だけど、その内にまとめて───」


「きっ……キュアああああーーーー!!!」


「ヘイスト!?」




 育てている薬草畑に想いを巡らせていると───ヘイストが血相を変えてやって来た。 敵の襲来かと、戦闘モードに切り替えるキュア。




「く、クリティカルが……殺人を犯した!」


「はあっ!?

て、敵は村に近づいてなかった筈だけど……」




 密かに侵入してきた盗賊だかに襲われ、反撃して殺めてしまったか。 失態だ。 無論、キュアは盗賊になど同情しない。 正当防衛だ。 それよりクリティカルである。

 怪我は!?

 心の傷は!?

 急いでクリティカルの下へと駆けつけるキュア。 そこに居たのは……一体の男性遺体と、青ざめ───てはいないクリティカル。




「クリティカ……る??」


「あら兄さん、この変態を治してあげてくれないかしら?」


「……し、尻ぐらい別に良いじゃねーか……」




 男性遺体───では……ギリギリ無かった討伐隊の50代隊員は、どうやらクリティカルにチカン行為を働いたらしい。 その報復として、地面から突き出た巨大な剣でブン殴られていたようだ。

  (死んでいないのは……) (たまたまか、) (絶妙なラインを) (狙ったのかは) (分からない。)




「クリティカル、その剣は?」


「兄さんと色々と合体魔法を使っていく内に、私一人でも防壁魔法を変形させられるコツを掴んだの。

【ベノムセイバー】の、【ベノムブレード】っていう武器を参考にしてみたのよ?」


「スゴいじゃないか!

単発なら、俺の魔法より威力は上かもなあ」


「ふふっ、これからは私が兄さんを守っちゃうんだから♡」


「……い、イチャイチャして……ねえ、で早く治療してくれ…………」



◆◆◆



「全くよう……オメエ等だけでウチのを全滅させられるんじゃねえか?」


「…………。

……出来ますね」


「ま、真顔でマジマジと言うんじゃねえよ」




 キュアたちは討伐隊隊員に、【仮想現実装置】( パーシテアー )の事を話していない。 また、【癒し】( ヒーリング )と【植物育成】以外は【ドラゴンハーツ】の魔法・スキルも殆んど見せていない。


 だが。

 一瞬で大怪我を癒す異常な回復魔法の使い手キュア。 大量の土砂を一瞬で防壁魔法の材料にするクリティカル。 確かな槍の腕に、謎の好調や疲労(・・・・・・・)を起こさせるヘイスト。 豊富な経験からくる知識を生かしたヘイストの母。

 彼等の、歴然の勇士を唸らせる実力に染々と言う討伐隊隊員。



 

「特にキュア坊はよう……最後に一緒に討伐隊活動したのは二カ月ぐらい前か?」


「そうですね。

アジルー村の連中に拘束されてたり、領主館で世話に成ったり……そんなもんかな」


「あん頃から隙なんて無かったがよう……今のオメエは、もはや達人の域じゃねーか。

この短時間で何をしやがったんだ?」


「……まあ、いろんな敵とは戦いましたけどね」




 コタリア領辺境を常に移動する彼等は、世情に疎い。 キュアが領主街に出現した炎の怪人アシッドを倒した話も、何となく彼が 『強い狂人を倒した』 という程度の認識しか持っていなかった。

 あくまで彼等にとってキュアとは、『英雄』 などではなく 『知り合いの強い兄ちゃん』 なのである。




「生活の安定した、今のオメエにゃあ無理な話だろうけどよ……本格的にコッチ(討伐隊)に来る気はねえのかよ?」


「……すみません。

出来る限り、拠点で補佐はしますよ」


「惜しいよなあ」



◆◆◆



「処刑……ですか?」


「うむ。

あまり大声では言えないのだが……急ぎ、執行する事と成った」




 チカン騒ぎの翌日、朝の領主館。

 出勤したキュアとクリティカルは執事コリアンダーに呼び出され、穏やかではない単語を聞かされる。

 魔法を使う魔ナシと、敬虔な教会信者を精霊ナシにする悪魔、反教会最大派閥レイグランを誅するため暴走した教会軍隊長の王族が……今日、死刑執行されるらしい。




「兄さんは一番の功労者なのに、今まで黙っていて御免なさい」


「いや……それは分かってるさ。

相手の、元の身分が身分だし、街人にバレる訳にもいかなかったんだろ?」


「ええ」


「何処の誰に、とは言えないが……かなり責っ付かれ(・・・・・)てな。

だが我等にも矜持と段取りという物がある。

取調室で方をつける(・・・・・・・・・)訳にもいかんが故───こんな中途半端な時期だが、法に従って(・・・・・)執行する事と成ったのだ」




 何処ぞの誰か(シン王国で一番偉い者) とて、余程の大義名分がないと教会の人間を処刑するのは難しい。 教会とはそれだけの権力を持ち、また平民人気が高い。

 信徒による暴動が起きかねないのだ。




「あれから一週間ちょいですか……やはり珍しいのですか?」


「異例といえば異例だな」




 討伐隊に交ざり盗賊をその場で討っていたキュアにとって、犯罪者の末路とは日本で言う切捨御免制度のイメージか……もしくは総逮捕されたアジルー村元村民の、裁判で長期化するケースである。

 政治司法は分からねど、一週間がどっち付かずの微妙な時間だとは何となく理解できた。




「それと───公開処刑では無いのですよね?」


「うむ。

他の平民には場所も教えられん死刑執行場で、ひっそりと執行される」


「なるほど」


「何処かの誰かも、秘密裏の処刑を望んでいる。

だがホイホイと処刑場は使えん。

そういった彼是が、今日の処刑だ」




 娯楽の少ない世界。 犯罪者の公開処刑は、庶民の楽しみの側面を持つ。

 悪しき者を、自分も成敗させた気分にさせるヒーロー番組のような共感性。 子供なら親に 「悪い子はああ成るぞ」 と教訓に使われるだろう。 支配者に不平不満を持つ領民が多い土地なら、悪意の目を犯罪者へ反らす目的も有る。


 だがコタリア領ではあまり公開処刑は行われられない。 治安が良く(・・・・・)死刑映え(・・・・)する犯罪者が少ないからだ。




「…………。

一応、聞いておくが……見たい(・・・)か?」


「まさか」




 実はこの一週間で一度だけ、取り調べの一環で軍隊長と会っていたキュア。 その時は始終、罵詈雑言に慣れたキュアで投げれば耐え難いような言葉を浴びせられた。

 相手の惨めな姿を見て溜飲を下げるタイプなどでは無いキュアとしては、二度と会いたいと思わない。




「そんな暇が有ったら、もっと有意義なことに使いますよ」


「だろうとは思っていたが、お前ならその権利が有るので一応な。

興味がないならこの話はこれで終いだ」




 キュアは平民だが、かなり特別な功労者でもある。 色々と負い目も。

 もし望むなら、多少の権力のゴリ押しで秘密の死刑執行場へと連れていく用意も有ったコリアンダーだが……杞憂だったようだ。




「軍隊長と共に生き残った副隊長の女と、彼等と取引をしていた技術顧問とやらは?」


「法律で、処刑台は一回使う毎に清掃・点検せねばならないからな。

副隊長は明日以降に処刑される。

技術顧問は……まだ暫く尋問を続けるつもりだ」


「分かりました」




 討伐隊として働かされてきたキュアは処刑に興奮などしないし、己や領主館の仲間を襲った敵に慈悲も特に湧かない。

 すでに終わった出来事として、普段通り仕事につく。

  

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