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387 村人、はっきり言う。

 

「よ~う、キュアぁ~!

どんな塩梅だなやあ~~?」


「シナモンさん? 帰ってたのか?

……まあボチボチだよ」




 キュアとクリティカル兄妹が村民の総逮捕事件以前のようにアジルー村の自宅から領主館へと出勤するように成り三日目、帰宅時間の夕方。

 コタリア領辺境の村々を見回っていた討伐隊隊長のシナモンと出会う。




「どうだべ?

【仮想現実装置】( パーシテアー )が無くとも、寝られてるだか?」


「……今は余暇で、アジルー村と森を綺麗にしているんだよ。

領主館の仕事も合わせて、疲れてグッスリさ」


「…………んだべか」




 先祖代々、討伐隊を生業としてきた男───シナモン。

 魔ナシ差別をせず、肉盾時代のキュアを守り導いた彼の師匠たる存在である。 付き合いは長い。 キュアが若干のヤセ我慢をしているのには気付いたが……表情に険は無い。 ので、深くは聞かない。




「そういうシナモンさんこそ……ちゃんと寝られているのか?

領主街の討伐隊隊長と辺境の見回りで忙しいだろう?」


「オラも、その辺はボチボチだなや」




 シナモンは現在、激減した領主街のベテラン討伐隊員の穴埋めを補充・管理・育成する傍ら……コタリア領辺境の各村々を回り、魔物や盗賊を退治していた。

 会社役職で言うなら、専務取締役と営業平社員の二足の草鞋を履いているようなものだろうか。




「領主街ん方は御先祖様の資料を渡したり……ヘイストの幼馴染みが、職を探しとる貧民街の人をエエ具合に回してくれとるんだべ」


「ジギンが?」




 討伐隊隊長シナモンと貧民街マフィアの頭領ジギン。 キュアへの恩を通じ、とある場所で知り合った二人である。


 二人は、互いに命令に忠実な戦闘員を欲していた。 が……シナモンは人材が居らず、ジギンには戦闘教導員が居ない。 そこで二人は、ある程度不干渉を貫いてきた領主街の表と裏を繋げたのだ。

 むろん表をマフィアが歩き回るのも、裏で正規兵が歩き回られるのも両者望まない。 この取引は、飽くまで討伐隊の中だけに納められていた。




「そ、それって……大丈夫なのか!?

ジギンは信用できる好漢だけど、下のマフィアは全員がそうとは限らないだろう?

領主館に迷惑は掛からないかなあ?」


「そこぁ大人の都合って奴だでな。

ちゃんとコリアンダー様や……実はヘイストの母ちゃんも一枚噛んでるんだべよ?」


「それなら大丈夫……なのかな?」




 マフィアは貧民街を根城としている。

 が……マフィアが貧民街を支配している訳ではない。 マフィアより、一般住民の方が圧倒的に多いからだ。

 そして住民は、何かしらの形でヘイストの母には必ず世話に成っていた。 現マフィアのボス、ジギンも孤児であり彼女が育てたといっても過言ではない。

 貧民街の誰か一人を敵に回す事は、彼女を敵に回すことであり、それはつまり貧民街そのものを敵に回すことと同義なのだ。


 ジギンはその事を、徹底して部下に教え込んでいた。 マフィアというていはとっていても、彼は反社では無いのである。

  (なので、) (会話内容を記録しても) (問題無い。)




「ジギンとヘイストの母ちゃんも、貧民街の住民に定職を用意したがっとったし……アイツなら信用できるべ」


「なんか何時の間にか、ずいぶんと仲良しだなあ」


「むふふふ……」




 ───とまあ、建前は色々と有るが……シナモンとジギンが仲良くなった、本当の理由は 『色街』 である。 様々な店でバッタリと出会い、そのうちに意気投合し、御互いのオススメの店を紹介しあう仲と成ったのだ。

  (しょーもない) (スケベ根性が、) (コタリア領を) (救うのである。)



◆◆◆



「こ、コレがあのボロ村だかぁ!?

えれぇキレイに成ってるじゃないだか!?」


「アシッドの時、シナモンさんも居たろ?

斯々然々……その合体魔法さ」




 アジルー村に到着していの一番、目を丸くして叫んだシナモン。 家の殆んどは未だボロいままなのだが……あらゆる地面の勾配が取り除かれ、歩きやすいよう整地されていた。

 メインストリートに至っては、総石製で馬車が何百年にも渡って何台も通ろうと問題無い造りである。




「……こ、この辺とか小高い丘ンなってたべ?

草木を植え替えた跡がねぇのに……スゲェやな??」


「俺より、クリティカルとヘイストが張り切っちゃってなあ……地面に向けて真っ平に防壁魔法を使うとこう成るんだよ。

今は家を改装中さ」


「…………ああ。

あの、けった───変わった家を見りゃあ何となく分かるべ……」


「今、“けったい” って言おうとしたかな?」




 アジルー村の奥。 キュアとクリティカル兄妹の自宅と、ヘイスト母娘が寝泊まりする為に建てられた隣家は、 (もはや悪ノリと) (言っていいレベルで) 元の面影も無い程に変化していた。


 キュアの魔力原子製の魔法と、クリティカルの防壁魔法やヘイストのディメイションモンスターとの合体魔法により、今や自然石を自在に合成・変形させられるように成っていたのである。

 コンクリート建築も斯くや、下手な城より防御力が有りそうな家へと改造していたのだ。




【仮想現実装置】( パーシテアー )で、クリティカルが遊んだ【ベノムセイバー】と、ヘイストが遊んだ【ディメイションカード】で出てきた─── 『びる』? とか言う建築物を参考にしているらしい」


「まあよう……オメェさんら兄妹に、元のアジルー村に愛着なんざ無ぇんだろうけんどよう……。

こりゃ改造しすぎだなやあ……」


「元村民連中にはともかく、村そのものへ全く愛着が無い訳でもないけどな」




 嫌な思い出ばかりの土地ではある。

 何処を見ても、誰かに虐げられた場所ばかりだ。

 ……しかし。

 物心ついた時から最愛の妹と過ごし、【仮想現実装置】( パーシテアー )と出会った場所でもある。

 アジルー村を、嫌いには成りきれなかった。




「───兄さん御帰りなさ……あら?

シナモンさん、いらっしゃい」


「よ~う、クリティカル。

スゲェ家を建てたやなぁ……こりゃあ王都の城よかスゲエんじゃねえべか?」


「ふふっ、見た目はね。

中はある程度、元の家を残しているのよ?」




 クリティカルもまた、アジルー村に良い思い出など特にない。 が……最愛の兄と暮らした生家まで壊すには忍びなかったらしく、石造りの家の中に、元々の家といった造りであった。




「な、なかなか斬新だなや……」


「まあ、不味けりゃ直ぐ戻せるしな」


「……まあオメェ等兄妹らしいっちゃらしいべや、お邪魔するべ。

おお、ヘイストも居ただか」


「シナモンさんか、いらっしゃい」




 警護秘書隊は、クミンが神である事を隠さなくなった事である程度の改革が有った。 ようは、 (馬k───) 破天荒なクミンの尻拭いをクリティカル一人でしなくても良くなったのだ。

 その事から、幾らかはキュアと同じ時間か……それより早く帰れるようになったのである。


 またヘイストも後釜が育っており、似た状況である。 これらは、レイグランが裏で【仮想現実装置】( パーシテアー )の謝礼にと渡したサービスでもあった。




「さすがに、キュアたちの家と自分たちの家が大きくなってきたのでな。

今日はコッチの家、明日はアッチと……協力して改装する事に成ったんだ」


「どーせオメェ等でキュアの取り合いになったんで、妥協点がこー成っただけだべ?」


「「ぐ」」




 クリティカルとヘイストが一回ずつ魔法やらディメイションカードを使うたび、キュアは二回魔法を使わなければならない。 いかなキュアが一呼吸毎に魔力が回復するとは言え……疲労は貯まる。

 「疲れてグッスリさ」 というキュアの台詞は、伊達ではないのかもしれない。

  (安易にタラしこむ) (キュアが一番) (悪いのだが。)


 彼女たちが黙ったところで、ヘイストの母がシナモンに語りかける。




「シナモンさん、討伐隊の新人は上手くやってくれてるかい?」


「んだ、討伐隊が危険なのは重々承知で入ってくるだしな。

給料は破格だし、肉盾なんかにゃあせんべ」


「頼むよ」


「母さん、何の話だ?」


「知り合いがちょっとね」




 ちなみにヘイストの母は、事情を娘に話していない。 言えば手伝おうとしてくるだろう。 しかし母親としては、娘には愛しい男との作業に時間を費やして欲しかったからだ。




「で、今日はどうしたんだ?」


「ん、んー……。

やっぱ止めるべか───」




 いくつかの用事が終わり、晩飯時。

 ずっとシナモンが用件を切り出すのを待っていたキュアだが、何時までたっても彼は話を切り出さなかった。 まさか飯をたかりに来た訳でもあるまい。

 明らかに、何かを遠慮している。

 水くさいと感じたキュアは、若干怒気を纏わせて問いただす。




「何なんだ?

歯切れが悪いなあ、言うだけは言ってくれよ」


「…………」




 キュアに根負けしたシナモンは、一堂を見回し。




「……実は、アジルー村の一カ所を───移動討伐隊の休憩所に欲しかったんだべ」


「あー……成る程…………」




 シナモンの言葉を聞いて、ようやく彼が言い渋っていた事情を察したキュア。


 盗賊や魔物相手にとはいえ。

 自分たちを守ってくる者達とはいえ。

 ───とはいえ、だ。

 『殺し』 を職にした連中を忌避する者は、やはり居る。 排他的な田舎者なら尚更だ。 「疲れた? 怪我した? 休ませてほしい? 知るか。

殺し終えたら、さっさと去ね」 と言ってくる者は、少なくない。


 そんな中……気心知れたキュアが、広大な土地を手に入れた。 移動討伐隊にとって、拠点は幾つ有っても足らない。

 是非とも、頼みこもうとして……。




「自分は討伐隊の苦労は知ってるし……何故そんなに言いにくそうにしていたのだ?」


「今、アジルー村に居るのは俺以外みんな女性だからなあ……」


「あ……ああ、そういう事か」




 肉盾時代のキュアは、シナモンが隊長を務める討伐隊に着いて行ったので隊員の事は良く知っている。




「シナモンさんの部下は知っているけど……悪い人たちじゃあ無いんだが───まあ、その…………………………………………………………ガラは悪い」


「ハッキリ言うなべや……」

 

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