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385 村人、ほくそ笑まれる。

 

 【仮想現実装置】( パーシテアー )の対価として、レイグランからアジルー村を丸ごと貰ったキュアたち。

 現在は、村やその周辺の下見中である。

 



「クリティカル。

この森は、どういう扱いなんだ?」


「魔境含め、一応は森もアジルー村の範囲内よ」


「森もかあ……管理するには広過ぎるなあ」


「魔境?

キュア、クリティカル、それは何だ?」




 朱雀がアジルー村に隣接する魔力の濃い森を利用して、キュアを鍛えるつもりらしい。 神たる彼女には、人間の決めた土地の所有権など無関係だろうが……キュアたちにとっては大事なことだ。

 法的な境目を聞いていると、ヘイストが初めて聞く単語に反応する。




「人間が定住する事は不可能って言われている土地さ。

この森にも、道が険しいわ強力な魔物が大量に居るわでシナモンさんたち歴戦の討伐隊だって近づけない場所が有るんだよ」


「へー……」




 重機の無い世界。 小さな山谷ですら、整地は下手したら数世代事業である。 雑な橋を掛けるのも大変なのだ。

 魔境とは、ソコへ引っ切りなしに魔物がやって来る場所を言う。 例え有益な素材や資源が有ろうと、軍を送り込んでなお採算など取れない場所なのである。




「主様」


「ん?」


「先程 『広い』 と仰られましたが……此の森が何れ程に広いか、御存知ですか?」


「肉盾時代にだって魔境になんか行った事は無いからなあ……。

安全地帯の三倍ぐらい、かな?」




 キュアが想定しているのは、凡そ山一つ分ぐらいである。




「主様の妹、説明しなさい」

 

「な、何様よ」




 神様。 (という、) (安直なボケはしない。)




「……はあ、兄さん。

この森の正確な面積は、国ですら正確には把握してないの。

けど……隣国にある森も、この森の一部らしいのよ」


「り、隣国って……山が十も二十も有るぞ!?」




 以前キュアが、朱雀との賭けで向かったシン王国と友好的な国である。 その時は空から朱雀の背に乗ってマッハで移動したが……それでも、そこそこ時間が掛かった。

 この森だけで、下手な小国より遥かにデカイのだ。




「主様は世界に、人類統治国家が幾つ存在するか御存知ですか?」


「うう……こ、今度は百国だ!」


「七国です」


「な……七!?

世界にたった七国しか無いのか!?」


「人類の生息圏とは、迚も迚も狭いのですよ。

其れ以外は、主様の言う魔境なのです」




 厳密には宿場町のような、魔物の住処と住処のスキマに人間の集落は幾つも有るが……国と呼べる大規模な集団は、世界に七カ所しか無い。




「例えば私の実家は、シン王国なら数十入る大陸ですが───」


「実家」


「大陸」


「世界には五つの大陸が有ります。

魔王四天侯は其々一つの大陸を与えられており、人類の九割九分九厘は残る一つの大陸で過ごすのですよ」


「ご、豪邸だなあ」




 朱雀と実姉である雷神クミンが険悪な雰囲気に成った時でさえ、彼女たちは大幅に実力を抑えていた。

 彼女ら本来の実力なら、リラックス状態であろうとその周囲はマグマの沸き立つ火山口の如き気温となり、溢れ出る神気で岩石は宝石と化し生物の死骸を魔石化させるのだ。

 人類の生息圏で息抜きでもすれば、その瞬間辺りは地獄絵図と成るだろう。




「そういや……絵本の 『太陽からきた魔王と、月からきた勇者』 で、魔王と勇者が不思議な場所へと旅立つ描写が有ったけど……」


「我が(大陸)に来た時の話でしょうかね?」


「「「…………」」」




 平民としては別格の邸宅を建てようか───などと会話していて、この桁違いの話である。 妙に切なく成ったキュアたちは再び村の下見へ。



◆◆◆



「魔物の被害こそ無いみたいだけど、人的被害がそこそこ有るわね……」


「盗賊だろうか?」


「いや……この感じは、盗賊じゃあ無いな。

この前まで村を占拠していた貴族たちが、無茶した跡かもしれん」




 アジルー村村民総逮捕の件で、統治者であるレイグランの管理責任を問おうとした政敵……魔法を使う魔ナシの秘密を望んだ教会などが暫くの間この村を占拠していた。 だが彼等とて、無人の村に大した証拠が残っていない事は重々承知だったのだ。


 各組織とも、上司に命令された下っぱの人間ばかりが来ており、現在の村は立つ鳥に跡を濁されまくっていた。




「この家の壁の穴とか……貧民街なら、板を打ちつけるだけで済ますんだがな」


「けど、もしちゃんと村を再建するなら……解体して一から建て直すことも考えた方が良さそうさね?」


「そうですね……」




 貴族の酔っ払いが蹴り割った壁である。 元々がボロ家なので、ダメージは小さくない。




「柱や梁は歪んでない、か……。

……クリティカル」


「なあに、兄さん?」


「クリティカルの防壁魔法で、この壁の穴を埋められないかな?」


「ごめんなさい……私の魔法は、床に接触した自分を囲う半球形態から変えられないのよ」


「んー……」




 暫し、穴を眺めるキュア。

 やがて一つ頷き。




「アシッドが領主街を襲った時……俺の【炎特防】( ファイアガード )と、クリティカルの防壁魔法が合わさったの───覚えてるか?」


「ええ、もちろん!

私と兄さんの共同作業だもの!」




 ふんすっ! と、鼻息を荒らげるクリティカル。 キュアの魔法だけでもクリティカルの魔法だけでも防ぎきれなかったであろうアシッドの爆炎を、兄妹の合体魔法が防ぎ切ったのだ。

 クリティカルにとって、何度も自分を褒めたファインプレーである。




「あの時のアレ、【壁】( ウォール )で試してみたいんだ」


「確か【特防】( ガード )は兄さん自身に耐火能力とかが付く指輪魔法で、【壁】( ウォール )は土や炎で壁を造る杖魔法よね?」


「ああ。

形状は平面、強度は俺たち二人分だ」


「少し緊張するけど……遣ってみたいわ!」




 何時も守られている側のクリティカルが、己の魔法でキュアの役に立つかもしれないのだ。 彼女にとっても望むところである。




「まあ失敗しても良いさ。

成功すれば善し。

失敗しても、普通に直すか……いっそ取り壊すかすれば良いんだし」


「頑張れキュア、クリティカル!」




 空いた家の壁の前に並ぶ兄妹。

 キュアの魔法は、壁魔法なら壁型にしか造れない。 が……大きさや形成速度は自在だ。 土壁用の土を用意し、兄妹同時に魔法を使用。 徐々に穴と同じ大きさに成ってゆく。




「んっ……!

アシッドの時は、私が形状の主体だったけど……今回は兄さんが主体だから、上手く自分の魔法を抑え込めないわ……!」


「空中でキュアの魔法に上乗せするのには成功したけど……形が、球状に膨らんでゆくな」




 アシッドの爆炎を防いだ時は、クリティカルの防壁魔法にキュアの耐火魔法が付与された形であった。 端的に言えば、クリティカルはキュアの魔法を受け入れただけで合体魔法そのものを造った訳ではない。

 しかし今回はその逆、キュアの造る壁魔法にクリティカルの魔法強度を付与するのだ。




「んくく……っ」


「魔力は主様の妹の方が多いですが……主様は【ドラゴンハーツ】内で魔法の威力や速度などを操作しておられたぶん、魔力の精密操作が得意なようですね」


「…………クリティカル。

『俺』 と、共同作業するんじゃなく…… 『精霊』 と共同作業すれば良い」


「精霊……と?」




 苦悶の表情で聞き返すクリティカル。

 魔ナシゆえ、【ドラゴンハーツ】内で登場キャラクターたちに教わりながら魔法の使い方を覚えていったキュアとは違い……生まれつき自然に魔法が使えたクリティカルは、17年間こり固まった自分の魔法を改造するのに苦戦していた。




「今のクリティカルは、ようは精霊に 『俺の魔法と同じ形に造れ』 と 『命令』 してるように感じるんだ」


「命令……」


「もう一度言うけど、失敗して良いんだ。

精霊と相談しながら徐々に壁を造ってみよう」


「…………分かったわ」




 苦悶の表情から、微笑みへと変わるクリティカル。 言うなれば、クリティカルは防壁として───誰かの命を守る為にばかり、この魔法を使ってきた。 失敗の許されない状況ばかりだったのだ。

 キュアの言葉を聞いて、肩肘張らず……キュアの魔法に流れを任すクリティカル。




「……………………完成、かな」


「まあ多少デコボコだけど……薄いのに硬くて軽いし、穴にピッタリ収まっている。

成功なんじゃないか?

やったな、キュア、クリティカル」


「普段より疲れたけど……次はもっと綺麗で簡単に造ってみせるわ!」


「いや、次はキュアと自分のディメイションモンスターとの合体魔法の番だ!

……さあキュア!」


「はいはい」




 下見そっちのけで、キュアとじゃれあう女性陣……から少し離れて一同を眺める朱雀。 彼女は心中、ほくそ笑む。

 人間たちには認識できていないが、キュアたちの周りには沢山の小精霊が喜びの舞を踊っていた。




「(本来、主様の妹にはあんな事が出来る才能など有りませんでしたが……ふふ。

ひょっとしたら、主様は歴代最高の精霊王と成られるかもしれませんね……♡)」

 

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