381 村人、領主と謁見する。
「(あっ、赤いクニャクニャ!?)」
アジルー村に纏わるイザコザから、王都へと召喚されていたコタリア領領主コタリア・グヌ・レイグラン。
彼の留守中に起きた様々な問題の会議も終わり、領主執務室で謁見する事と相成ったキュアたち。
当のキュアは……入室一番目に飛びこんできた赤いクニャクニャこと、珊瑚の調度品にビビっていた。 クリティカルがサメ (魚ふくむ) 嫌いになった【仮想現実装置】のアクティビティに出てきた物だからだ。
閑話休題。
「クミン……」
「はあい♡」
レイグランの側に付くコタリア領執事コリアンダーは、キュアと共に入室してきた同僚───警護秘書隊隊長クミンに何とも言えぬ顔を向ける。 少なくとも、朗らかとは程遠い表情だろう。
会議中、突如轟く雷鳴。
「すわ、嵐か!?」 と恐れ慄いていると……主人から、長年の同僚にして 『雷神』 であるクミンの御業だと聞かされたのだ。 人間にしか見えない朱雀という神の前例が有ったので辛うじて受け入れられはしたが……唯でさえ苦手な扱い辛かった者について、未だ消化しきれていないのである。
対し、レイグランはクミンと共に入室してきた同じ神たる朱雀へと跪く。 姉が己の部下であろうと、教会の信ずる架空の神などではない本物の 『神』 なのだからと分相応に。
「朱雀様に於かれては───」
「私に構わぬで善し。
主様……彼等との要件を済ませよ」
「畏まりました。
……皆よ、長らく留守にして迷惑をかけた。
済まない」
「い……いえ」
そして。
最底辺貴族なら兎も角……上位貴族ならばタブー視される行為である 『平民』 のキュアたちにも、頭こそ下げぬものの分不相応に謝罪するレイグラン。
キュアたちの目の前に居るこの貴人は屡、部下たちの生活・財産・生命に著しい負担を掛けたと判断したら素直に謝罪していた。 だがそれで威厳を失う事などなく、使用人たちもまた彼を軽んずる事など有り得ない。
キュアたちは恭しく応対し、レイグランは見届け続ける。
「コリアンダーも皆も。
クミンが神だと聞いて驚いているだろうが、彼女を責めないでやってくれ。
儂が秘密にさせておいたのだから」
「レイグラン様は、クミン隊長の正体を……」
「まあの。
彼女が10歳の子供の頃からの付き合いだ、初めて会った頃は継承争いから逐電した何処ぞの王族かと思っておったが……まあ自然にな」
クミンの部下、警護秘書隊副隊長クリティカルがおそるおそるレイグランに問う。 仕方あるまい。 それだけの事実だ。
何てことのない様に答え、次なる質問がないと判断したレイグランは、クミンに向き。
「───クミンよ、『良い』 のか?」
「ええ、レイグラン様あ…… 『良い』 わよお 」
「『そう』 ……か」
「「「?」」」
謎な二人の遣り取りに、それ以外の者は心中で首を傾げつつ……次の主人の言葉を待つ。
改めて一堂をレイグランは見渡し。
「儂が留守の間に起きた事の粗方は、コリアンダーと話し終えた。
諸君らの活躍もあり、教会・親教会派……ともに信用や権力等々の衰えを見せ始めている」
「「「はい」」」
マフィアや狂信者を利用した教会 の問題は、一応は決着済みという訳だ。
「無論、未だ膿は出しきってはおらぬ。
市井における実感はまだ先だろうが……教会の宗教色は色褪せてゆき徐々に事務専門職となろう」
「…………」
日本人の感覚で言えば、教会とは神社と市役所が引っ付いた物であろうか。 神頼みしたい時に御詣りし、法律関連の時は神官に頼る感じだ。
レイグランが言うのは 『神事の形骸化』 ……それこそ、日本人のような宗教感に成ってゆくだろうという予測である。
「本当に、そんな世の中に……?」
「『地球』 なる世界が、度重なる宗教戦争? とやらを繰り返した結果そう成ったとクミンは言うがの」
「地球……」
朱雀から度々聞く異世界の名前。 朱雀へと見遣れば、頷き返す。
「だがそれは、まだまだ先の話。
儂の寿命尽きるまでに、そんな教会は見れまい」
「…………」
今は準備段階。
狂信者が、世界から居なくなる日まで。
「……キュアよ」
「はっ、はい!」
「儂は……生きているウチに、そんな教会が見たい」
「……はい」
「お前の、お前たちの───
魔ナシ差別を、我等が総力をあげて撲滅させると誓おう」
皺だらけの年寄りの顔。
然れど、全てを射抜くような眼光。
「夢を見せる兜……【仮想現実装置】を渡して欲しい」




