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379 村人、魔ナシの真実を知る。

 

「当然、教会とも何度も接触したわあ。

……あれは駄目ねえ。

教義に凝り固まる、歪の極限だものお」


「…………」


「そんな中、レイグラン様と出会ったわあ。

アタシはねえ?

キュア、貴方じゃあなくてレイグラン様を精霊王にしたいと思ってるのよお」


「なっ……正気ですか!?

創造神が決めた精霊王は、主様なのですよ!?」


「『承認』 は問題ないでしょお?

『濾過』 だって、いずれ何時かの話だわあ」




 困惑する、キュアたち領主館使用人の面々。

 彼等の前で言い争うのは、二柱の女神。 この世界の頂点───いや、『理』( コトワリ )そのもののような存在である。 議題は、二人の人間の男の事でありながら……その実、世界の命運。

 いち地方領主の下で働く平民使用人たちなど、百回人生をやり直したとしても聞けはしないだろうレベルの単語がポンポンと飛び出てくるのだ。 昨日の教会軍との死闘ですら霞む事態に、困惑も已む無しである。




「れ、レイグラン様を精霊王に……。

そんな誰でも成れるものなのか?」


「…………。

……全ての精霊が認めれば、ですが」




 創造神が選んだ精霊王は、キュア。

 朱雀も、最初は創造神の言うがままにキュアを精霊王とすべく動き……今は創造神の命令とは関係なく、彼が王に相応しいと思っている。

 確かに、条件を満たせばキュア以外でも精霊王に成れる。 しかし、他の全精霊が認めようと───朱雀が認め仕えるべきは……眼前の魔ナシの青年のみなのだ。




「そもそも、精霊王とは何なんだ?」


「精霊を愛し、精霊に愛される者です」


「「───あ、あああ愛し愛され!?」」


「はぁい、御嬢ちゃ(クリティカル)んたち(とヘイスト)はちょっと静かにねえ。

今は大人の大事なお話の最中だからあ」




  (二人の人間の女には、) (唯の痴情話だが。)




「お、俺は……見知らぬ全ての精霊を愛する事なんて……」


「精霊たちは、体を張って主様を御守り致しております。

その事に思う事など無いと?」


「…………それは」




 魔ナシであるキュアは、魔力が見えない。 精霊を感じとり難い。

 だが。

 魔ナシ差別から、自身への憎悪をよく知るキュア。 故に。 自分に良くしてくれる仲間へは無条件で命を掛けてでも守りたく成ってしまう。

 ───クリティカルやヘイストから、さんざ言われてきた事である。



 

「『心』 とは、其う簡単な……表と裏だけで形作られる物では在りませんよ。

主様は魔ナシとして生まれなかったとしても、其ういう性分でしたでしょう」


「……よく分からん」


「ふふ……私がアシッドを操り、街を焼いた後も主様は 『分からん』 と仰りって私の顔面を殴りましたね」


「う」


(「「む゛う゛~゛) (む゛う゛~゛っ!」」)




 照れと気不味さで頬を掻くキュア。

 強気に、だが慈しみの笑みを浮かべる朱雀。

  (そこはかと無い) (ラブの波動を) (嗅ぎとって、) (焼きもぐ) (クリティカルと) (ヘイスト。)




「神をも恐れぬ、其の一途さは精霊の好む所。

魔ナシを厭う者共の所為で、主様は精霊と距離を感じておられるのかもしれませんが───」


「俺が【ドラゴンハーツ】の魔法・スキルを使えるのは、精霊が頑張ってくれているからだっていうのは感謝してるさ。

……だけど、それが特別な事だとは思えない」


「魔ナシ以外の者にとって、精霊など 『命令を聞いて当たり前』 の存在なのです。

感謝すると公言できる時点で其れは特別な事なのですよ」


「…………」




 魔ナシは神に嫌われし者。

 魔ナシは精霊に嫌われし者。

 そう言われてキュアは育ったのだ。 苦手意識が全くないとは言えまい。 そんな二人のやり取りに、クミンがフフンと胸を張る。




「一途さなら、レイグラン様だって負けないわよお?

アタシが昔っからどんなに跨が───慰めようとしても、教会に殺された幼馴染みの婚約者を忘れないものお。

あの人を好く精霊は多いわあ」


「だからレイグラン様は教会を憎んでい るのか……」




 使用人同士でも、教会を恨む理由を無理に聞かないのが御約束である。 尊敬する主レイグランともなれば尚更だ。

  (クミンが、昔っから) (何をしようとして) (いたのかは……) (問わない。) (聞こえなかったので。)




「……俺としては別にレイグラン様が精霊王でも構わないし、領主館の皆もそんなに否定はし無さそうだなあ」


「でしょお?」


「ですがそう容易い話では無いのですよ、主様」


「創造神が、そうと決めたからか?」


「其れも在ります。

……が、領主には 『承認』( 愛する事 ) はできても、『濾過』( 愛される事 ) ───精霊の自己を維持するための能力が無いのです」


「濾過……?

自己の維持……?」




 明らかに……言い難い台詞である事が分かる、朱雀の表情。 クミンは……笑み。

 だが、何処か勝ち誇った───




「…………さっき話に出た 『精霊の楽土』 、あれは言わば 『この世界』 そのものが使う 『魔法』 よお」


「世界が……?」


「そう、世界よお。

神は宇宙とも呼ぶけど……。

世界が使う魔法(創る楽土)の中でのみ、精霊は生きられるのよお」


「……ですが、楽土に異変が起きて魔力の流れがおかしく成りました。

おかしな魔力の流れの中では精霊は生きてゆけません。

今も苦しむ精霊が居ます」


「魔ナシの俺には、そんな魔力のおかしな流れとか分からんよ」


「ええ。

神が分かっても、精霊が分かっても、数多の人間が分かっても……主様たち魔ナシだけには絶対に分かりません」




 字面だけだと、魔ナシ差別にも聞こえる朱雀の台詞。 だが……彼女がそんな事は言わないのを知っているこの場の人間たちは。




「朱雀……?」


「魔ナシの周りでは、楽土を創る魔力が正常に流れるのです。

いえ、正確には正常に流れ 『だす』 のです」


「…………ん?

どういう意味だ?」


「魔力異常の有る所に、魔ナシは生まれます。

もっと言えば……異常の 『修理工』 として、『世界』 が魔ナシを創るのです」


「……………………は?」


「創造神は此れを、『世界』( システム )『戯れ言』( バグ )『取り繕った』( 無理に修正した ) 『歪み』 ───其の被害者を、『魔ナシ』( デバッガー ) と呼んでいました」


「ようはあ……世界の不手際を世界自身じゃ治せないから、負担を背負わせる係───魔ナシを世界が生み出してるって事お」


「「「…………」」」




 人の身では想像すら出来ぬ途方もない話に……絶句するしかないキュアたちであった。

  

 

 レイグラン、ロリコン疑惑を回避。

 

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