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376 村人、決闘を申し込まれる。

 

「に、兄さん!」


「クリティカル?」




 レイグランが領主館に帰ってきて暫し、コリアンダー以下政治組と会議をしていると思われる時間帯。

 食堂では使用人達が、自らの主の荘厳な帰還姿を語りあっていた。


 そんな中。 キュアが、ヘイストの母の作るラーメンに近い異国料理をクチに入れる寸前……血相を変えたクリティカルが、兄を探しに駆け込んできた。

 息も切れ切れなクリティカルに駆け寄るキュア。




「ど、どうした……そんなに慌てて!?

まさかレイグラン様が、お呼びに……?」


「い、いいえ……レイグラン様は兄さんに 「暫く待て」 との御命令よ。

大事件が多発したし、ある意味一番安全な兄さん関連は後回しってことかしら」




 世界を変えうる【仮想現実装置】( パーシテアー )

 だが現在の所有者であるキュアは、クリティカルも居るし持ち逃げしたりはしないだろう。 ならば後回しでもいい。

 レイグランは(・・・・・・)そう判断したようだ。




「なら……」


「───居たわねえ?」




 突如、食堂入口から響きわたる間延びした女性の声。 一様に、サアッと顔色を変えるキュアの先輩使用人たち。

 しかし、使用人歴の浅いキュアとヘイスト母には聞き覚えのない声であり……二人ともポカンと入口を見遣る。


 入口から現れたのは、成人男性平均を上回るキュアの身長を更に上回る女性。 天パー気味の黄髪で彩るのは、二十歳ちょい過ぎの美人である。 だが、その表情は───年齢にやや不釣り合いとも言える子供じみた微笑み。

 女性は、まっすぐキュアへと近づく。


 声は分からずとも、見覚えのある顔にキュアは。




「警護秘書隊隊長、クミン様……ですね」


「そうよお、アタシはクミンねえ?

そして貴方はキュア」




 ゆったりとした語りクチのクミンは、キュアに用が有るらしい。 それが分かると、使用人たちは素早くキュアから離れてゆく。

 キュアも異常事態は察したが、彼女はクリティカルの直属の上司。 挨拶しない訳にはいくまい。




「い、何時もクリティカルが御世話に成っています」


「それ程でもお……。

何時も難しい書類とか全部ヤってくれて助かるわあ」


『(そりゃ、クリティカルが世話してるっつうんだよっ!)』




 離れた位置の使用人の、心の声。

 だが、キュアとクミンには伝わらない。

 どうやら警護秘書隊隊長とはいえ、クミンは事務的な事というか…… 『秘書』 仕事は苦手らしい。

 王都へは、『警護』 部分だけ頑張っていたようだ。 (レイグランの苦労は) (如何ほどか。)




「前にネズミが出た時も、最初はアタシが退治してたんだけどクリティカルが防壁魔法で簡単に追い詰めてくれたわあ」


「……はあ、館の一部を吹き飛ばした 『アレ』 ですか」


「ネズミって怖いわねえ」


『(一番怖いのはアンタだよ……)』




 現代日本ですら、ネズミが原因の健康被害は出ている。 中には死にいたる病傷も存在するのだ。 薬も魔法も劇的な治療法など無いこの世界では、『悪魔』 と呼んでもいいだろう。

 ネズミ退治には皆、躍起になる物だが……。




「ネズミ一匹に……昨日兄さんが王族相手に使ったのと近い威力の魔法を放ったのよ」


「あ、あれと!?」




 【ドラゴンハーツ】内のアイテム 『MP回復薬』 を四本使った、キュアの最大魔力(MP)四倍分の攻撃魔法である。 【ドラゴンハーツ】の魔法は殆んど余波が発生しないので現場の人間は無事だったが……無差別なら、爆心地の旧市街を全て飲み込んでいただろう。




「スゴい魔力だなあ」


「いや、兄さん……そこじゃ無くて……」




 もちろん、そんな魔法を領主館内でブッ放てば普通は領主館も崩壊するとはキュアも分かっている。 たかがネズミにそんな魔法を使う事が異常だとも。

 だが現状、この世界に魔力を回復できる薬はキュアしか持っていない。 最低でも、クミンの魔力はキュアの四倍以上あるという事だ。



「……凄いじゃないか。

人的被害も無かったんだろ?

それ程の方なら、安心してクリティカルやレイグラン様を任せられる」


「「「…………」」」




 あ、ダメだこいつ。 馬鹿に匹敵する天然だった。 そう判断した使用人たち。

  (クリティカルは……) (違う。) (たぶん。)

 そして、キュア(天然)からそう評価されたクミン(馬鹿)は。




「ふ、ふふーん!

そんなおだてたって、手加減しないからあ!」


「手加減?」




 コリアンダーなど、頭の固い人物からは早々に話を切り上げられてしまう事の多いクミン。 常人にはビビられて避けられる。 その事そのものには気付いてはいないものの……誉められ慣れていないらしく、ちょっと顔が赤い。

 しかし、 (流れるように) (タラシ込もうとする) キュアは彼女が発した不穏な単語に反応する。




「それが……クミン様は、兄さんの事を英雄だとは認めないから決闘する───って」


「け、決闘??」




 キュア自身、己を英雄だとは欠片も思っていない。 たまたま自分には沢山の心強い仲間がいて、【仮想現実装置】( パーシテアー )のお陰で強くなれただけ……そう思っている。




「皆の助力無くして、俺はココには居れていません。

それに見知らぬ誰かまで守れるような、高潔な精神性は持ってませんし……」


「それでも、よお。

貴方の、その資質は将来…………レイグラン様に立ち塞がる障害物に成りうるわあ」


「俺が、レイグラン様の……………………………………………………はあっ!?

い、意味が分かりません!

俺がレイグラン様に害するとでも!?」


「教会軍に勝ち、王族の魔法すら打ち破ったんですってねえ?

……それは覇者の(わざ)(ごう)よお」


「クミン隊長!

兄さんは、誰よりもレイグラン様を尊敬しています!」


「なら、レイグラン様よりもっと尊敬する人間が現れたらあ?

或いは、レイグラン様に失望したらあ?

その時、彼は教会軍を屠るチカラを領主館に向けるのよお?」




 何処からか、聞こえる生唾を飲む音。

 キュアの実力は目の前でしかと見た。 あれは───この街を、この国を、この世界を、相手取れるチカラ。


 クリティカルが言うように、魔ナシ差別から救ってくれたレイグランをキュアが大いに尊敬しているのは領主館の誰もが知る所。 疑うつもりすら無い。

 ……しかし。

 使用人たちの冷や汗は止まらない。




「アタシの雷ならあ、貴方の一部を封印できるわあ」


「ふ、封印?」


「生き物は物を考えるのにも身体を動かすのにも、体内で雷が走ってるのよお。

アタシはそれを制御できるのお。

当然、魔力の流れもねえ」


「…………」


「アタシと決闘しなさあい。

アタシが納得したら、封印は考慮してあげるわあ」


「に、兄さんに利点は有りません!」


「何時ものアタシなら有無を言わさず、封印ないし殺してるわあ。

決闘はせめてもの慈悲よお」




 使用人やクリティカルの表情を見るに……ドッキリでも何でもなく、本気で封印だか殺すつもりなのだろう。

 キュアは、拳を握りしめ───




「───そうすれば…………俺がレイグラン様に仇なしたりなどしないと信じて貰えるんですね?」


「そうねえ」


「に、兄さん……」


「大丈夫だ、クリティカル。

俺たちは何時も一緒だからな」


「…………ええ」




 意を決したキュア。




「───決闘を、受けます」


「そおう?

大丈夫よお、殺したりはしないからあ」


「それで、決闘は何時?

今からですか?」


「今はあ…………ねえ」




 静かな、然れど重たい空気。

 誰も喋れない中。




「……それえ、美味しそうねえ?」


「「「…………はあ?」」」




 キュアが晩飯に食べようとしていたラーメン擬きに、ヨダレを垂らすクミン (に、割と本気で殺意を) (覚えるクリティカル) (他、使用人たち。)

 

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