371 村人の上司、尋問をする。
「───斯々然々、という訳で全員生け捕りにして魔力欠乏症にしています」
≪そう……か≫
逃亡した教会軍軍隊長と従者、それと、二人と密談をしていた謎の男。 その三人を行動不可能にして、捕縛したキュアとヘイスト達。 政治的に、かなりの面倒事に成らざるを得ない行為ではあるが……領主館にとって、放っておくのも間違いなく危険だったであろう者達でもある。
報告するディメイションモンスターの視界ボードには、疲れた顔の領主館執事コリアンダーが写っていた。
「コリアンダー様……」
≪……いや、良く遣ってくれた≫
「「…………」」
コリアンダーの渋い顔は、キュア達が暴走して勝手な事をしたから───ではない。 むしろ暴走していたのはコリアンダーの方だろう。
≪私も、些か冷静ではなかったようだな。
良く生け捕りにしてくれた、コレで情報収集が捗る≫
「…………。
差し出がましいでしょうが……もし、魔法を真似られたのを御気にしておられるのならソレはコリアンダー様の責任では……」
≪ソレはソレ、という奴だ。
───ソレだけでも無いしな≫
「「…………」」
≪異民族の母が、教会の差し向けた殺し屋に襲われた時の事を思いだしていた≫
コリアンダーの母たち異民族は、むろん人間である。 然れど、教会は異民族を人間ではなく悪魔だと謗り迫害してきた。『魔法を使う魔ナシ』 や 『教会を救わぬ神』 ほど危険視されている訳では無いものの、今回の領主館襲撃のように狂信者から狙われてきた過去がある。
≪ソレ故、ついつい……な。
キュアとヘイスト、また、領主館の皆には迷惑をかけた≫
「そんな……教会を憎むのは領主館使用人一堂、同じ想いです」
≪…………済まん。
そして御苦労だった、軍隊長どもの受け入れ体制は整えたので急ぎ帰還してくれ≫
「「はいっ!」」
◆◆◆
「───……ふうっ。
こ、ココは…………コタリア領領主館……ですか……ね?」
「質問は、我等だけがする」
領主館に帰ったキュア達。
王族と従者の二人は、見張りを置かず (【ソウルイーター】で魔力吸収のしようが無く) 鍵も通常の物から急遽、閂やバリケードを増設した部屋に閉じ込め、キュアが【敵視】で部屋の外から監視している。
現在、コリアンダーが尋問しているのは、軍隊長達と密談をしていた謎の人物。 焼けた隠れ家から、目隠しをされ魔力欠乏症にされながら領主館まで運ばれたのだ。
ちなみに。
この日の朝、コタリア領領主街には珍しい濃霧が短時間とはいえ出た。 街人は、その神秘的な光景に暫し目を奪われたという。
「正直に答えれば、手荒な真似はしない」
「コリアンダー様…………自ら……が……尋問とは……。
御手数……掛け……ますね」
「…………」
突然の拉致監禁、正体不明の魔力欠乏症。 目隠しは取っていない。 拷問も考えられるこの状況で……冷静に判断する男。 確かに別日だったならば、拐ったのは違う人間 (組織) の可能性も有ろう。 しかし。 教会軍が襲ってきた、その次の日に教会軍軍隊長と密談していた男を捕らえる人間達などは、そう居まい。
だがそれを、この状況下で咄嗟に判断出来るのはプロ───それもトップクラスだと思われた。
「貴公の氏名を答えよ」
「私に、名前も住所も有りません。
強いて呼ばれている呼称を上げるとすれば……『鏃の二番』 ですかね」
「……貴公の使用魔法を答えよ」
「あいにく、魔法に才能は無く……簡単な火魔法が精一杯でして。
これこの通り……鍵開けなんて出来ません」
「貴公の所属機関を答えよ」
「所属機関は───教会の外部技術顧問、とでも言いますか……私も複雑過ぎて、よく分かっていないんですよ。
下っぱなモンで……申し訳ありませんね」
声は、魔力欠乏症患者らしく絶え絶えであったが……語りクチそのものは淀みが無い。 言い訳をこの場で考えていないのがよく分かる。 コリアンダーが、どう判断すべきか思案していると取調室がノックされた。 扉の、ノックする僅かな位置やタイミングの違いから、メイド長リカリスからの緊急報告だと知れた。
「……失礼する」
「お構い無く」
恐れも悪びれもせず答える男。
薄気味悪さを感じつつ、僅かに取調室の戸を開けたリカリスの下へ。
「(どうした?)」
「(キュアさんから伝言です。
あの男は、【敵視】で見える色が黄色から全く変化していないそうです)」
「(何……?
どういう事だ?)」
「(キュアさんは、自らの魔法の不調すら疑っています)」
「(キュアの魔法には何時も助けられてきた。
疑うべくも有るまい。
……もし、奴の不調ではないとしたら?)」
「(あの男は───捕らわれて今なお、キュアさんの……我等の敵では無いという事かと)」
「(…………)」
あの男が、嘘を吐いているようには見えないコリアンダー。 然りとて、もちろん男が味方だなんて思っている訳では無い。 そもそも、人は味方であっても時に嘘を吐く。 コリアンダーが男に抱く感想は……ある種、サイコパスを眼前にしたような違和感。
男に向き直り───
「……鏃の二番とやら」
「はい?」
「貴公は……我等に比護を求めているのか?」
「いいえ?」
現状の男は、何らかの作戦行動中に失敗した状態である。 上司に消される可能性があるのだ。 故に、領主館に情報を流して比護を求めている。 領主館にとっては、利と成る行為。
───結果、キュアの【敵視】はこの男を敵と捉えられないのでは……と踏んだのだが───
「我々の目的は、貴方方との敵対ではありません」
「ならば何故に 『教会軍軍隊長』 と密談していた?」
「正確には、『落ちぶれた元王族』 と密談していたのですよ」
「……どういう意味だ?」
「大きなチカラを持ちながら、誰にも認められず鬱屈した人生を送っていた人間に、教会内部でチカラを与えたら如何なるか……上司は、ソレが見たかったと」
「……上司は何でそんな物を?」
「さあ?」
相変わらず、嘘を吐いているようには見えない。
そして。
「大きなチカラを持ちながら、誰にも認められず鬱屈した人生を……か」
「…………?
何か?」
「いや、何でも無い」
コリアンダーは知っている。
大きな魔力を持ちながら、魔ナシとして生まれて誰にも認められず鬱屈した人生を送ってきた人間を。
妙な符号に、何とも言えぬ不安を感じるコリアンダー。




