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368  村人、朝食を中断される。

 

「───く、クリティカルは……その、慣れたのか?」


「何のって───ああ……。

……そりゃあまだ違和感は有るけど、一晩経てばね」




 領主レイグランが帰ってくる日の朝。

 目覚めたヘイストと、徹夜疲れをキュアの【癒し】( ヒーリング )で癒したクリティカルが朝の身支度を終えて。 廊下で二人を待っていたキュアは、二人がそれぞれの部屋から出てきて開口一番に始めた 『謎の会話』 に首を傾げる。




「何の話だ?」


「「…………」」


「?」




 顔を赤くし、何やら胸元を気にしているクリティカルとヘイスト。

 昨晩、キュアは教会軍と戦った後───【ドラゴンハーツ】から持ち帰った【豊胸剤】を、二人と一部(・・)の女性使用人に振り掛けた。 一人用の薬を多人数で別けたため、一人一人は微増・・なのだが……乙女は敏感なのだ。

  (決して、) (変な意味ではない。)




「しかし……体感的には、数日【ソウルイーター】の中に入っていたからな。

ついつい飛んで移動しそうになる。

にんげんの身体に戻った筈なのに、何やら不思議な感覚だ」


「すぐに慣れるとは思んだけどなあ」




 【ドラゴンハーツ】へ、正規の【仮想現実装置】( パーシテアー )を使って出入りするキュアは 『夢スイッチ』 にて夢と現実をしっかり切り替える事が出来る。 しかしイレギュラーな手段で入ってきたヘイストにとって、(VR)と現実の境目はアヤフヤであり……簡単に取れるレベルとはいえ、時々妙な仕草をしていた。




「それで、ヘイストも兄さんと同じく【ドラゴンハーツ】のスキルを得たの?」


「ああ。 と言っても、二つだけだが……」


「はあ……私も兄さんと冒険に行きたかったわ」


「その時は、【輝くトラペゾヘドロン】の中に魂を容れられてたのだろうな……」




 昨日の時点でキュアが所持していた【ドラゴンハーツ】のアイテムで、魂を込められるのは【魔神城の鍵】【ソウルイーター】【輝くトラペゾヘドロン】の三つだけ。 たぶん、喧嘩に成っていただろう。

 そんな会話をしつつ、領主館使用人専用食堂へ。




「あっ! 母さん!」


「おや。

ヘイストにキュアさんは冒険、クリティカルさんは徹夜仕事お疲れさん」


「お疲れさんじゃないぞ!?

昨晩は、何をしていたんだよっ!?」


「あー…………ありゃあねえ。

アタシがちゃんと事態を把握したのは事後だったんだよ」


「事後?」


「あの時部屋の外で、朱雀さんに一瞬で動きを封じられちゃって……相手は神様だし?

そりゃ逃げられないさね。

ヘイストの悲鳴を聞いて、部屋ん中に跳び入って……眠るアンタとキュアさんの事情を知ってからは起こさない方が良いと判断したんだよ」


「だからってなあ……」




 朝イチからの母娘ゲンカを見た好奇心旺盛なキュアの友人使用人たちが、彼に事情を聞く。 朱雀がヘイストの魂を【ソウルイーター】に封じた事、キュアと共に【ドラゴンハーツ】で旅をした事……等々を簡単に説明するキュア。




「はぇ~……さすが教会のニセ神じゃないホンマモンの神様だな」


「いやいや、この場合キュアさんの剣も凄いんでしょ?」


【仮想現実装置】( パーシテアー )もだろ。

……それを、なあ」


「…………名残惜しくも有るけど、レイグラン様の御立場を考えると仕方無いさ」


「まあな」




 世界的組織、教会。

 各国の王族や貴族からすれば大嫌いな雑務をしてくれる 『有難い組織』 にして、下品に金や権力・信仰を要求してくる 『恥知らず共』 でもある。 そんな教会に風穴を開けたキュアという存在、そんなキュアを飼う反教会派最大派閥コタリア・グヌ・レイグランという存在には世界中が注目している。

 だが……彼等は、『目隠し』 。

 【仮想現実装置】( パーシテアー )という世界の有り様を一変しかねない、この魔道具だけは領主館内だけの秘密にせねば成らないのだ。




「レイグラン様は、何時頃お帰りになられるんだ?」


「夕方以降らしいぜ。

まあクミン様が付いておられるんだから、心配は無いだろうさ」


「警護秘書部隊隊長……クリティカルの上司の人か」


「ああ。

クリティカルが最硬の防壁魔法使いなら、クミン様は最強の攻撃魔法使いさ。

彼女ならアシッド(炎の怪人)にも勝てただろうし……キュア、お前より強いんじゃね?」


【仮想現実装置】( パーシテアー )を使用せず、そこまで強いって事は…………まさか王族なのか?」


「噂は有る。

けど、平民であの魔力のクリティカルっていう例も有るし……真相はレイグラン様しか知らん」


「ふーん……」




 別に自分が世界最強だとは、毛程にも思っていないキュア。 何時だって妹や仲間の助力が有ったから、敵に勝ててきたのだ。 魔ナシであるキュアは、その有り難みを良く知っているので図に乗ったりなどしない。




「ま、レイグラン様は仰々しいのを嫌う方だ。

領主館前に使用人一堂集まって御出迎え、とかしないからオレ達も普段通りで良いさ」


「分かった。

なら俺は、倉庫整理と討伐隊への武具製作か」




 母親との問答を終えたヘイストとクリティカルが合流し、使用人同士で会話をしながら朝食を食べていると。




「───キュアさんっ……!」


「は、はい?」


「リカリス様とコリアンダー様が御呼びです……!」




 メイド長リカリスの部下メイドがキュアを呼ぶ。 その表情は、走ってきたのか若干汗ばみ……。




「その、二人から?」


「レイグラン様と【仮想現実装置】( パーシテアー )の事かな?」


「さあ……私には。

ただ、『急ぎ』 だと」


「わ、分かりました」




 「朝飯を食べずに来い」 と言っているのと同義である。 貴族でありながら、平民だろうと大事にするこの領主館においては……かなり異常だ。

 余程の緊急事態なのだろう。




「兄さん、私も付いていくわ」


「自分も行くぞ」


「二人は…………いや、済まん。

有難う───急いで行こう」

 

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