365 村人、選択を迫られる。
「───……うぅ」
「ゾリディア!
ノーネームからの洗脳は、解けたのか!?」
「き、キュア…………。
洗脳は分からんが───取敢ず朱雀を一発殴らせろ」
「うん、普段通りかな」
遂に強敵ノーネームを倒したキュア達。 ノーネームにより洗脳を受けていたゾリディアのステータスボードからは、状態異常の洗脳は消えていた。
「後は、竜の怨念により囚われたシーナだけだが……イーストン!」
「キュア……ダメだ……。
オレん中の 『何か』 が、反応してんのは感じんだがよ……」
【名を失いし神】が、人類の限界を超えた超生物 『リミッターキャンセレーション』 を産みだしたように。 ノーネームもまた、己でリミッターキャンセレーションを産みだそうとした。
数多生物を集め。
殺し合わせ。
憎悪を纏め。
才有る者に埋め込み、【究極のゾンビ】として生まれ代わらせるための装置─── 『蟲毒』 を用意し。
この国の兵士長と貴族の一人には成功したが、シーナは竜の怨念のみで暴走してしまう。 嘗ての時は、兄であるイーストンがシーナに呼びかけて理性を取戻したが……。
「その時、イーストン殿は何と呼びかけてシーナ殿を元に戻したのであるか?」
「確か───
空飛ぶ妹のスカートの中を覗き見て、『パンツが丸見えだぞ』 と呼びかけていましたね」
「イーストン殿?」
「テメェ朱雀っ!?
テキトー言ってんじゃねえよっ!?」
だがイーストンがキュア達に弁護を求めて視線を向けると……全員、サッと目を反らす。
「あ、あの時ぁシーナがいきなり飛んで、パニくってただけだよ!
その前から呼びかけてたっての!」
「「「…………」」」
「まあ待て、みんな。
確かにイーストンはゾリディアの水浴びを覗こうとするような男だが」
「……イーストン殿?」
「キュアぁっ!?」
「あの時……シーナは頭の中で命令?されて、北連山に行くよう操られる寸前に───イーストンが助けてくれた、とかそんな事を言ってハズだ」
「そ、そうだよ!
そーゆーこたぁ、もっと早く思いだしやがれよキュア!」
「「「…………」」」
如何な天然と言えど、 キュアは悪くあるまい。 強いて言うなら、ナンパ師でノゾキ魔のイーストンが悪い。
「命令であるか……」
「キュアー、竜の怨念は命令と違うのかなー?」
「さっきまでのシーナは、憎むべき五柱神の加護を持つ人間種全てへ憎悪してたっぽいしな。
命令っていうより、本能に近いんじゃないかなあ?」
「なら、どーすりゃシーナは助かるんだよっ!?」
悩む一堂。
その、背後から声。
「一つだけ、手が有るよ?」
「───っ!?」
キュア達に声をかけてきたのは、光燐種の凡夫としか言いようのない者。
「…………のっ、ノーネームっ!?」
「っと、僕はもう死んでるよ。
今は魂だけなんだから、その物騒な物は仕舞ってくれない?」
「【リッチ】や【アビスダイナソー】みたいな、神に近しい者は死後も魂が云々ってのか」
「そういう事だね」
半透明のノーネームが、まるで旧友と再会したかの如く朗らかに近寄ってくる。 エネミーボードは無い。
それでも。
「ちっ、近寄んじゃねえぜ!?
もっかいブッ殺してやる!!」
「巫女を救う手段を教えてあげるって言ってるんだよ?」
「こ、こんな事をしておいて何を……」
全ての原因が、悪びれもせずのほほんと語りかけてくる事に激怒するイーストンと……全て終わった事だと笑むノーネーム。
「なら君達に、解決法が分かると?」
「───【血のヴェール】と【破邪の面】じゃないか?」
「…………へぇ?」
ノーネームの問いに答えるキュアと、思わぬ答えに嬉しそうなノーネーム。
「イーストンとシーナ、勇者と竜の血を受けついだ二人と───邪神と邪竜のチカラを持ったアイテム。
関係有るかと思ったんだが……」
「正解だよ。
……だけど、両刃の剣さ」
「両刃の剣?」
「キュア、聞くな!
クソノーネーム、戯れ言をほざくんじゃねえぜ!」
「現状、巫女の中の 『神』 と 『竜』 は竜の勝ちさ。
勇者が幾ら頑張っても足らないぐらいにね」
「喋んじゃねえっつってんだろっ!?」
「【血のヴェール】と【破邪の面】……神と竜のチカラが封じられた二つのアイテムを、勇者にプラスするのさ」
憎悪のイーストン。
微笑むノーネーム。
「勇者…………邪竜を倒すため、邪神にリミッターキャンセレーションされた者───だっけか」
「つまり……イーストンの中の邪神のチカラを増幅させて、シーナの中の邪竜を倒すという算段だな?」
「そういう事だね剣の御嬢さん。
だけど、勝つにしてもスマートじゃなきゃ」
「すまあと?」
「巫女の中の、神のチカラを増幅させ過ぎちゃあ……今度は巫女が【名を失いし神】に成っちゃうんだよ」
わざとらしく、困った風なジェスチャーで頷くノーネームに激昂するイーストン。
「ん……んな事、信じられっかよ!
ソイツは敵だぞ!
しかも、こーゆー事を平気でやって城一つスケルトンだらけにしやがるようなクズだ!」
「───【名を失いし神】。
何故、名を失ったのか?
それは何度も代替わりしているからさ。
分身の赤ちゃんの事じゃあ無いよ?」
「代替わり……」
「例え前神が死んでも、新たな誰かが神となって復活するのさ。
いろんな種族性別の彼、あるいは彼女達は、そうやって名を失っていったんだ」
「繊細な作業が必要なのか……」
「そーゆー事さ。
この広大な地下空洞には、まだまだ【輝くトラペゾヘドロン】で使われてない犠牲者の魂が残ってるのも後押しするしね」
唯でさえ一人の肉体に、別の意識が有る状態なのだ。 負担は大きい。
「つまりシーナは……」
「放っておいて、竜と成るか。
奇跡が起きて、人に戻るか。
神に囚われ、【名を失いし神】と成るか…………それは君達と巫女が決める事さ」