364 村人、ノーネームを倒す。
「───キュア君。
本当に君は素晴らしい。
人間って、ここまで強く成れるんだね」
ノーネームとの最終決戦。
何度も見てきた魔弾の山津波を見切り始めたキュアとヘイストとチェン達。 減ってゆくノーネームのHP。
……だが。 しかし。
「オマエみたいな付け焼き刃じゃない、長い時間で獲得してきた強さだ!」
「大量の【弾丸】を吸収する術もモノにしつつ有る!」
「チェンもガンバってるぞー!」
「そうだね、君達は頑張った。
…………でもあとちょっと。
ほんのちょっとだけ、足らなかったんだ」
「なんだとーっ!?」
足らない人手。
削りきれないHP。
過ぎゆく時間。
「そろそろ、巫女が深い眠りから目覚めるんじゃない?」
「…………」
竜の怨念に囚われたシーナ。
邪神にチカラを与えられた勇者と、竜の巫女の子孫である彼女は……圧倒的に竜の血側を色濃く受けついでおり、竜に触れると人間としての理性が弱まるらしい。
そんな彼女の中の勇者の血を刺激するため、【深眠】で眠らせている間に同じく両者の血をひき、かつ勇者の血を色濃く受けつぐイーストンが強く呼びかけるも───芳しくない。
「【深眠】はあまりに強力だから、もう使えないんでしょ?」
「…………」
【深眠】は、ボスすら一定時間眠らせる超強力な行動阻害魔法であるがゆえに、1イベント内で一回しか使用できない制限が有る。 敵味方の区別なく暴れたシーナを眠らせて……暫し。
彼女が目覚めれば、戦況は悪化。
キュア達ならともかく、モダンでは対処しきれず勝利は難しくなるだろう。
…………更に。
「丁稚の娘の方も、殺意の反応が有るよ?」
「ゾリディアは……朱雀に任せている」
「でもね、聞こえるだろう?
彼女の、刻一刻と深まる怨嗟の声が。
……暴れだすのも時間の問題さ」
少し離れた場所から聞こえてくるのは、深い絶望。
「貴しゃまあぁぁ……!
殺すぅ……殺してやりゅう…………!」
そして、それでもなお。
……諦めぬ希望。
「───フフフ……ふだん武人振っていようと、その【ウェディングドレス】を着る意味は知っているのでしょう?
……今、想像の中では貴女の隣に誰が立って居るのです?」
「殺しゅ~……!」
「「「…………」」」
数多生命の、魂の残滓たる憎悪が満ちる空間に似合わぬ純白のドレスを着たゾリディアは、朱雀への呪詛を吐きつつ…………暴れる事もなく、顔を真っ赤にして縮こまっていた。
「……ヘイスト。
あの、『うえでぃんぐどれすを着る意味』 って何の事か分かるかな?」
「コッチ特有の、儀式的な何かではないか?
チェンは分かるか?」
「うー…… 分かんない かなー…………?」
殺意は殺意でも、邪神の血とは関係無い殺意に転換して、ゾリディアが闇落ちするのを引き延ばしている 朱雀。
【ドラゴンハーツ】のイレギュラー存在である彼女だからこその裏技だろう。
「───ま……まあイイよ。
巫女が目覚めるまでに、君達が間に合わないのは確かなんだから」
「そんな事は無い!」
激しさを増す戦い。
「あとは目覚めた彼女を適当に利用して君達を殺して……彼女を【リミッターキャンセレーション】にしよう。
ドラゴンの受け皿に成れる彼女なら、新しい【名を失いし───」
「───そんな事はさせないのである!」
「ぐっ!?」
突如、ノーネームに這いよる黒きモノ。
この世界の邪神とは別の邪神。
「【輝くトラペゾヘドロン】!!!」
「こっ、これは……っ!?」
「ノーネーム! 生けとし生ける全ての生命から嫌われているのだな!
皆、協力してくれたぞ!」
黒きモノの根本、不気味な剣を握りしめるモダン。
スキルが無い代わりに倒した敵の魂を吸収し放つ【輝くトラペゾヘドロン】の必殺技、その隠しイベントである。
【輝くトラペゾヘドロン】を所持していると、犠牲者の魂が共にノーネームを倒そうと語りかけてくるのだが……別にモダンに限らないイベントであり、むしろプレイヤーが所持していたらシークレットトロフィーなどがあった。
まあ、今のキュアには関係あるまいが。
「ヘイスト、チェン、俺達も行くぞ!
【ソウルイーター】【倍加・鍛冶具】!」
「任せろ!
【ソウルイーター】!」
「任されてー!
【魔人球】ぅー!」
「蟲毒などという、貴様の策略で犠牲にされてきた数多の憎悪に自ら食われるのだ!」
ノーネームを貫く闇に合わせ、キュアとヘイストとチェンも攻撃に加わる。 深々と突き刺さる、四人の連撃。
「───カハッ!
…………お、おめでと…う……かな……?」
「有難う、ノーネーム。
…………くたばれ」
「つれないな……あ…………」
ノーネームのHPが…………『0』 となった。