358 村人、壁を斬る。
「【超拡散・火・弾丸】【超拡散・水・弾丸】【超拡散・雷・弾丸】【超拡散・土・弾丸】【超拡散・風・弾丸】」
「なっ……!?」
「さあ、五色の地獄だ。
───僕を本気にさせた償いは、命で償うんだね」
邪神、【名を失いし神】の最強の手下である【ノーネーム】。
その必殺の魔法を……キュアがチート級の 『ズル』 をカマす事で、全員無事に切り抜ける。
───しかし。
「ンだ……よ。
カンベンしろよなァ、次から次へと」
「これが私達の敵……進化した人間だというのか」
「何処までもワタクシ達を嘲笑うかのように……」
キュアが 『ズル』 をした弊害か。
明らかにノーネームもまた、通常有り得ない事をする。
「主様……此れは───」
「HPが、四割を切ってないのに……本気に成ったのか」
データ的には、『光燐種に変身中だった姿』 と現在の 『真の姿』 とでは同じノーネームでありながら別のステータスとなっている。 与えたダメージはリセットされていた。
つまり天使姿とは戦い始めて直ぐの現状……HPが満タンに近い筈なのに、ノーネームは本気を出したのだ。
五色の魔弾。 五つの属性。
それ等は射出されず、からかうようにノーネームの周囲を漂う。
「キュア……」
「……ヘイスト。
いきなり掴んで、いきなり振り回して済まなかった。
俺は君を、辛い目に合わせていないか?」
「何を……」
「俺は君に、無茶をさせていないか?」
「何を馬鹿な……。
無茶な……無茶な事などある物か!
戦士として、キュアの横に並べていないのは不満だが……それでも誇りに想う!」
現実で朱雀により魂を封印する魔兼【ソウルイーター】に封ぜられ、キュアの魔法経由で【ドラゴンハーツ】の中へと入ってきたヘイスト。
己が遣った訳では無いとはいえ、キュアは、己の冒険へと彼女を引き連れまわしている。 あげく、彼女を剣として使い……現状だ。
然れどヘイストは。
「オマエに眼病を治して貰った時から、この命はキュアに預けたような物だ。
───好きに使え」
「……そうか、有難う」
ヘイストは、キュアに何度も助けられて返しきれぬ程の恩を貰っている。 それはキュアも然りなのだが……今は危機に直面した状態。
万感は、言葉一つのみに乗せる。
「……告白のつもりなら、主様には伝わらないかと」
「う、うるさいぞ朱雀!?」
「纏まったかい?
───じゃあ、行くよ」
そして、放たれる地獄。
範囲は謁見室の全て。
属性違いの魔弾が混沌と雑ざり飛来してくるらしいため、【特防】魔法はあまり役立たない。
通常、対処方法としては【結界】か【癒し】を掛けっぱなしの壁に任すか。
避けるなど、以ての他。
だがキュアは片手に剣を、もう一方の手に杖を持ち。
「【強化】!」
「……ああ、これが───
これが自分の名前の世界なのだな……」
キュアが装備しているからか、ヘイストも超速思考に入る。
キュアだけの世界。 置いてけ堀を食らっていた、ヘイストには追いつけない世界。
然れど、今。
人の身ならば歓喜に震えていただろう。
「【会心】……からの【ソウルイーター】!!!」
「この魔法も、とても力強い……。
クリティカルが、自分を助けてくれているようだ」
キュアの妹、クリティカル。
ヘイストとは同僚にして 親友でもある。
僅かばかりのMPを敵から、ヘイストが宿れば魔法からも直接MPを吸収する【ソウルイーター】。 武器である以上、【会心】の魔力を乗せて大量の多属性魔弾を消しさってゆく。
「みんな、壁は俺が破る!!」
「任せンぜ? 俺ぁ取敢ず【癒し】を会得してるってだけで、後は【病忌避】ぐらい……殆んど回復力は無ェンだからよ」
「右に同じだ!
だが、道さえ出来れば奴など!」
「その先は拙者等が切り開くのである!」
「頼む!」
キュアが振った剣の軌道の分だけ、魔弾の壁に穴が開く。