351 村人、兵士長ゾンビと戦う。
「ヘイスト、【貴族ゾンビ】の魔法を吸えるかな?」
「任せろ……と言いたいが、十割全部は無理だぞ。
【リッチ】より強く複雑な奴の魔法にはイイとこ三割、慣れて五割だ」
「それで頼む。
奴は武器攻撃に弱そうだから、イーストンとゾリディアとモダン達に任そう。
彼等を守ってやってくれ」
邪神【名を失いし神】により、超常のチカラを与えられた邪神の使徒達のボス【リミッターキャンセレーション】。 彼自身もまた、手駒を増やすため光燐種の人間に劣化制限解除を施して 『超級ゾンビ』 を作っていた。
ただしその性能は素体側の才能に大きく依存せざるを得ないため、出来あがったのは肉弾戦特化の【兵士長ゾンビ】と魔法戦特化の【貴族ゾンビ】の二体のみ。
キュアは大凡の彼我戦力差を見極め、皆を配置する。
「キュアは?」
「取敢ず、魔法攻撃に弱そうな【兵士長ゾンビ】を一対一で引き付けておく。
あの【ダークファング】とかいう小回りが利く上に連続攻撃出来る技は、純魔法使いのシーナや経験不足のモダンにはキツいだろうしな」
「あ、アレを一人でって……。
…………いや、キュアなら大丈夫か。
オマエに任そう」
「頼む、ヘイスト。
朱雀も全体的な援護を頼めるか」
「主様の、良しなに」
【貴族ゾンビ】の攻撃は炎を直径10m範囲で格子状にして降らせたり、巨大ローラー状にして転がしてきたりと……規則正しくも多彩な攻撃方法を 『如何に見切るか』 という、いわゆる 『弾幕ゲー』 である。
ある程度慣れれば攻略法は見えてこよう。
朱雀の魂感知によるゾーンオブコントロール能力に、【ソウルイーター】による一部魔法を無効化する本来正しい意味でのチート付きゆえ、パーティは一進一退ながらも大きな被害を出すこと無く【貴族ゾンビ】のHPを削ってゆく。
一方、【兵士長ゾンビ】と相対するキュアは。
「チェンはー……キュアと一緒でイイよなー? なー?」
「……仕方ないなあ、回避重視だぞ?」
「やったー!
アイアイサーだぞー!」
キュアはチェンに、専用回避特化装備であるブルマ体操服に 着替えさせて共に戦う。
驚異的な戦闘勘を持つキュアと、人類最強種のチェンだからこそ辛うじて致命傷を避けられる、【兵士長ゾンビ】の【ダークファング】───長く伸びた、剣付き触腕を掻い潜りつつ攻撃する二人。
「【弾く光球】!」
≪効"、か"……ん"≫
キュアが放つ、触れた者を大きく弾き飛ばす魔法弾は……多少切っ先をブラつかせるものの、触腕剣に斬られる。
「弾き耐性が有るみたいだな」
「でもアレ、破壊部位っぽいぞー?」
「なるほど……破壊すれば、あの剣を得られそうだ」
持ち主から堂々盗む宣言をするキュア。 違う。 悪徳の敵からの戦利品だ。
彼は、【兵士長ゾンビ】に掛け寄って触腕剣を直前まで引き付けてからスライディングで潜りこみ……避けながら真上へと跳ねあげる。
「【倍加・鍛冶具】!
───チェンっ!!」
「いっくぞー……【魔人球】!」
「オマケだ!
【スイッチ・サラマンダー】【会心】!」
≪ぎっ……!?≫
チェンの、弾速は遅い代わりにMPを込めれば込めただけ威力が爆発的に増加する必殺技【魔人球】と、キュアの威力を増加させた燃えさかる剣の連撃を受け……千切れる触腕剣。 部位破壊に成功する───が。
≪……ご"、ご"ア"ァ"ァ"!
未"だ"……だ"!
オ"ー"バ"ー"・ダ"ー"ク"フ"ァ"ン"グ"!!!≫
「今のでちょうど、【兵士長ゾンビ】のHPが40%を切ったか……!」
「グロいなー……タコみたいに成っちゃったぞー?」
「タコが何かは分からんが、ヤる事はそんなに変わらないさ」
追い詰められ、本気になった【兵士長ゾンビ】は……その全身から、剣こそ無いものの無数の触腕を生やす。
嵐のごとき数多触腕の動き。
然れど。
避ける対象は増えたが、その分一本一本の速度は幾分か落ちた。 対多戦に慣れるキュアやチェンの驚異ではない。
「【拡散・癒し】。
いくぞ、チェン。
さっさと皆と合流しよう」
「みんな、チェン達が居ないとダメだからなー!」