34 村人、戦慄される。
コチラが風下であった事もあり、自分達が先に【ウェアラット】の群に気付けた。
【ウェアラット】はそのネズミにあるまじき巨体ゆえ、ネズミ特有の俊敏性を失った。 然りとて犬や猪のような突進力がある訳でもない。
ノロマで弱い魔物である。
だが、群は群。 噛まれれば雑菌により病になったり、患部の壊死もしくは最悪死亡しうる。 先手を打てるのは助かった。
キュアは慎重に群が近付くのを隠れて待つ。
「( 3……2……1……─── )」
「───ひいぃ、何やってんだよ!?
さっさと突っ込めっ、愚図のキュアが!」
「「「 チチッ!? 」」」
「( ……!? クソ馬鹿が! )」
【アジルー村】に……いや、『 キュアを監視するオレ様 』 に魔物が近付く( 隠しているつもりの ) 恐怖心から、せっかくのチャンスを潰される。
アシッドだ。
警戒した【ウェアラット】が騒ぎ始めたので仕方なく群に突っ込むキュア。 幸い、【ウェアラット】が気付いたのはアシッドであって、キュアでは無い。
初撃の不意討ちは成功する。
「( アシッドが邪魔さえしなければ、不意討ちによるパニック中に2・3回は追撃できたものを…… )」
だが、出来ないなら仕方ない。
初撃成功分だけで御の字としなければ……そう思い、キュアが群を確認すると───思っていたより、【ウェアラット】の数が減っていた。
まるで【ドラゴンハーツ】の不意討ちスキル、『隠れた状態から攻撃すると、ダメージアップ』が発動した時のようだ。
たまたま群の密集地帯に剣がキレイに入ってラッキー……程度にキュアは思い、剣を振りかぶる。
密着した【ウェアラット】の頭を切り落としつつ、「 バックステップが使えたら、一旦距離を取れて一突きで3匹同時に殺れていたな 」 とか、飛び掛かってきた【ウェアラット】を切り払いつつ 「 ココでファイヤーボールで射ち落とせれば、2手短縮できたな 」 など考えながら、冷製に【ウェアラット】の群を減らしてゆく。
その様は正しく勇者。
少なくとも、【アジルー村】の村人たちの乏しい見識には……人の領域を超えているように見えた。
「な……なんだ、コイツ───」
「この魔ナシ……こんなに、強かったか?」
「……へ───へんっ!
つ、強い分には良いだろ……オレ達の安全に繋がるんだからな!」
馬鹿で無能な村人達でも……キュアの異様な戦闘熟練度に、ポツリポツリと気付きだす。
戦慄する村人達を他所に、「 強いなら強いで、使い潰してやる……そしてオレはクリティカルと─── 」 などと、呑気に夢想する者もいるが。