338 村人、宝の大事さを教える。
「人工の……建物だな」
邪神への対抗手段を得るため、【聖なる泉】を目指すキュア達。
泉へと繋がる川を、ひたすら流れに逆らって上って行くと見事な滝が出現。 圧倒されつつその裏にあった洞窟へと進むキュア達が辿りついたのは、古びた古代遺跡であった。
「中には【アビスゲータ】と……人間?
いや、違うか……もしかして【ゾンビ】か?」
「いいえ主様。
其れは【ゾンビ】の、更なる成れの果てかと」
「成れ───ああ、【スケルトン】とかいう骨だけの魔物か」
【スケルトン】とは【ゾンビ】から骨を残して腐肉が全て削げ落ちたような見た目の魔物で、どちらも敵を認識するまでは緩慢に徘徊するという特徴を持つ。
壁越しの敵を 『赤いモヤ』 として透視するキュアの魔法【敵視】では、識別不可能と言わざるを得ないだろう。
「【スケルトン】は、邪神と関係無い場所でも出現したりするんだが……どうゆう存在なんだろうな?」
「二千年前の邪神と邪竜の時に作られた【ゾンビ】の、成れ果てかもしれませんわね」
「ふむ」
杖魔法の中には【操骨の杖】という、【スケルトン】をパーティに加入させる魔法が有る。 朱雀と同じ使役枠なのでキュアが使う事は無いが……この魔物は、『ただの人間』 が操れるのである。
邪神の操作力より上回るとは考えにくい。
「二千年で、邪神の操作魔力も弱まるのかもな」
「ゾリディア、スケルトンに成ったらオメェーの事を信用してやるぜ」
「ぬかせ。
滝でずぶ濡れに成った時、ジロジロ見てきた助平が」
「みっ!? ……見ちゃあ───」
「はいはい、ケンカするな。
取敢ずイーストンは死刑で良いよな?」
「おい」
「「「「「賛成」」」」」
「おいっ!?」
女性陣全員の賛成によりイーストンの死刑が可決、一人で囮となり調査する事に。
(無論、仲間を見捨てられぬキュアの万全な補佐つきだが)
分岐の有る部屋をチェック。
壁には根本から折れたスイッチが有ったが、それ以外は特に何も無かったので部屋から伸びる三本の道を調べてゆく。
「ちっ、たくよぅ……。
…………。
……おい、こっちの道は仕掛け扉で封鎖されてる!
鍵穴っぽい窪みに、鍵となる玉かなんかが必要っぽいな」
「玉か……偶にそうゆう、訳分からんアイテムで開く扉って有るよなぁ」
現実で言う魔道具の一種なのだろうが、【ドラゴンハーツ】では利便性を度外視した鍵が多数有る。 意図が読めないキュア。
ちなみに。
朱雀は扉が道を塞いでいるのを知っていたが、セクハラ男への罰として黙っていた。 次の道は地下へ続く階段なのだが、そちらは水没しているのも知っている。
そして最後の道は、流石に全員で向かう事に。
向かった先はソコソコの広さが有る部屋。 然れど床は穴だらけで一度に2~3人しか通れず、階下は階段と同じく完全に水没していた。
「部屋の中央に【スケルトンメイジ】ってか……魔法で穴に突き落とされたら厄介だぜ?」
「ああ……俺は泳ぎ方を知らな───ん?」
≪───グッルグルグルル……≫
「【アビスゲータ】の声……?
【敵視】に、反応は無いが……?」
「主様。
どうやら体色を変化させ、壁や天井に擬態しながら獅噛みついているようです」
「赤いモヤすら消せる擬態かぁ。
反則みたいな能力だな」
【アビスゲータ】の体重は、小型でも200kgを超えている。 同じ爬虫類とは言えワニとトカゲでは体型も違うし、どうやってしがみついているのか。 古い遺跡の壁はボロボロだが、何故崩れないのか。
驚異の一言である。
「しかし、よぉーーーく見ると……擬態しつつも身動ぎしてるから、何となく分かるなぁ───っと」
「こんな薄暗い遺跡で、【スケルトンメイジ】に邪魔されながらじゃ分かんねェよ!?
キュアと朱雀しか捉えきれねぇンだから、しっかりナビしろよ!」
「任せろ、【弾丸】!」
ナビの意味は知らないが、多分 『忠告』 とかそんな所だろう。 部屋の中央から固定砲台のごとく撃ってくる【スケルトンメイジ】の魔法攻撃を回避しつつ、一番手前の【アビスゲータ】に魔法弾を撃ち込んで誘きだしてから安全確実に魔物を狩ってゆく。
そんな事を数度続け、部屋の魔物を絶滅させて奥。 何らかの機構が付いた長さ約60cm、直径5~6cmの棒を発見。
始点の部屋まで戻るキュア達。
注目するのは、折れたスイッチと棒。
「やっぱり。
同じ棒だな、予備か?」
「だろうな、貸してみろ」
ゾリディアが折れたスイッチを、予備と入れ換える。 作動されるスイッチ。 とたんに、遺跡全体が響いているのかと錯覚する程の振動がキュア達を襲う。
「これは……!?」
「地下に貯まっていた水が、何処かへ排水されているようです」
「アイザックのイベントの逆か」
スイッチ一つで、巨大な地下空洞が丸ごと水で満タンになるシーンが有ったサブイベントである。
「これで水没していた階段の先へ進めるのかな?」
「そのようですね。
先程の部屋から飛びおりても行けますが……やはり此処はダンジョンなのか、地下まで1km近くもの高度が有ります」
「1kmかー、空を飛べるチェン達ならラクショーだけどなー……」
「ええ。
腐女子とチャラ男は、先に死者の国へと行くかと」
「縁起でもねェ事言うなよっ!?」
「うーん……」
ゾリディアとイーストンは飛べない。
然れど階段を使っていたら、時間が掛かりすぎる。
キュアは暫し思案し───
「───うん、この方が早い」
「何を……」
「ゾリディア、イーストン。
すまない」
「「はっ?」」
二人が、『何が?』 と疑問に思うより早く……二人を御姫様抱っこするキュア。
「みんな、飛びおりるぞ」
「「ふぅーーーーーーーーっ!!?」」
ゾリディアとイーストンを抱えたまま、1kmの高さから飛びおりるキュア。 地球でいうビルなら160階クラスである。
ゾリディアは以前も似た (20mぐらいの崖) 経験が有ったが……それでも悲鳴を上げる。
イーストンは……最初の悲鳴から動けなくなっていた。
「キュアさん……貴方って人は」
「キュアだからなー……」
「小娘、『他の女に触れるなんて!』 とか憤慨しないのですか?」
「……流石に、これだけの悲鳴を聞くとな。
イーストンはどうでも良いが」
キュアは、【魔人化】【タラリア】【二段ジャンプ】【ロケットダッシュ】といった空中移動系スキルを駆使し、地下に無事到達。
ヨレヨレの二人を下ろす。
「「…………」」
「二人とも。
俺も以前は高所恐怖症だったが……宝を目の前にすれば、多少の恐怖なんてフッ飛ぶさ。
たぶん、あの飾られている丸い石が仕掛け扉を開く鍵だぞ?」
「「…………」」
ウキウキと、子供のように宝を指差すキュア。 と。 今だけは邪神の企みも忘れ、キュアへ殺意を抱くゾリディアとイーストン。