335 村人、被りが分からない。
「───おいキュア、そっちは南だぜ?
……ソレとも、やっぱオレ等に付いて来る気になったか?」
邪神の使徒とのイザコザを解決したものの、溝を作ってしまったゾリディアとイーストン。
現在は敵アジトの洞窟を脱出。
ぎこちない雰囲気ながらも、皆でゾリディアの故郷である【名もなき集落】がある北連山……ではなく、どちらかと言えばイーストン・シーナ兄妹の故郷【ロス村】が有る方角へと向かうキュア達。
「君達なら大丈夫だろ」
「「「 ? 」」」
キュアの突拍子もない言動には慣れっこのイーストンとゾリディアとて、会話になっていない返答に───思わず顔を見合わせて……ハッと気付き、慌てて視線を反らす。
シーナは、そんな二人をヤレヤレといった感じで眺めつつ……キュアの後ろを歩く朱雀達に問いただす。
「どういう事なのかしら、朱雀さん?」
「折角なので、内緒としておきましょうか」
「うふふー、ビックリするかなー?」
「こっちでも珍しい物らしいがな」
「あらら、みんなイジワルですわ」
ニヤリと笑う朱雀とチェンとヘイスト (?)。 この一行ゆえ、悪いことには成らないだろうが……気になる物は気になる。
彼等の後を、10分するかしないか付いて暫し歩き───
「……えっ!?」
「な、なんじゃコリャ!?」
「に……虹?」
「コイツは異世界の神らしいなぁ」
キュアが案内したのは、【ロス村】近くの虹色の球体───【扉】であった。 この辺りを何度も歩いた事のあるイーストンとシーナは、見た事もない物体にポカーンとクチを開き……ゾリディアは。
「異世界の……神?
異大陸の神の、朱雀と何か関係あるのか?」
「失敬な。
こんな訳の分からない生態の神と、一緒にせぬよう」
「ははは……俺達も初めて見た時はビビったからなぁ」
「ち、チェンはビビって無いぞー!?」
笑いながら虹色の球体の中へ、突っ込んでいくキュアとチェン。 警戒しつつ、朱雀とヘイストに促されてイーストン達も球体の中へ。
一瞬の立ち眩みの後に、彼等が立っていたのは無数の【扉】が並ぶ屋内。
「こ、ココぁ……?」
「【光燐神殿】だ」
「そ、それって……【名を失いし神の神殿】もある北連山って事ですの!?」
「あっちの部屋には、【光燐神】の死骸の燃えカスが有るぞ」
「「「はあっ!?」」」
言い方。
下手したら、宗教戦争でも起きかねない発言である。 決して嘘はつかぬキュアの言葉ゆえ……イーストン・シーナ・ゾリディアの三人は信じざるを得ない。
「朱雀が【光燐神】のチカラを一部、受け継いだんだぞー」
「つ、つーこたぁ……今は朱雀が【光燐神】なのか?」
「まさか。
私は【光燐神】より格上の神ですよ。
……本体は、ですが」
朱雀の肉体である【魔神城の鍵】。
本来は唯のアイテムであり、ステータスなど無いイレギュラーな存在であった。
しかし。
【光を食らいし蜘蛛】をキュアが倒した時、彼と別行動をしていた所為で【光燐神】から謎のスキルを獲得。 魔人族のボス、【ラスト・ユキーデ】を倒して、使役化によるステータスを獲得。
結果───
キュアが授かるべき【光燐神】のチカラ、『指輪を二個同時装備できるスキル』 は……朱雀の物となる。
「な……何にしろ、あまり他言しない方が良いだろうな」
「でしょうね」
やや飽きれつつ、ゾリディアは一言告げる。 【光燐神】の加護を受けた指輪を売る【光燐教会】などに聞かれれば、一悶着ありそうだからだ───とは言いつつ、誰にも見られない位置でコッソリと朱雀に瞑目するゾリディア。
己の神を、いや。
当の朱雀は何も気付いていない……ようなのだし、如何でも良いだろう。
キュアが、並ぶ球体のウチの一つの前で立ち止まり。
「───で、これが【名もなき集落】に繋がる【扉】だな」
「ここは……木の実の広場か」
「ワタクシと兄さんも、調べ物の合間に収穫を手伝いましたわ♡」
「…………けっ」
【扉】を潜る前に、ゾリディアとイーストンの二人ともが大事な仲間であるキュアは……ふと振り返り。
「…………。
ゾリディア、失礼な事を聞くが……君は 『邪神の使徒』 みたいに、『変身』 出来ないんだよな?」
「お、おい……キュア?
自分は部外者みたいなものだが……ソレは流石にかなり失礼になるのではないか?」
「いや……ヘイストと言ったか。
蟠りを取り除くには、憂いは全て吐き出すべきだ。
気遣ってくれて有難う」
「……」
邪神の加護、『変身』 。
邪神の使徒が使用し、イーストンとシーナ兄妹をピンチに陥らせたスキルである。
キュアの質問は、『クチでは信用するとか言っといて、腹では疑っていたのか』 とでも取られかねない。 然れど邪神の使徒と同じ種を祖に持つゾリディアが、このスキルを隠し持っていたとすれば……裏切り行為となりうる。
だからこそ、誰かが聞かねばならない質問だろう。
「キュアは寧ろ、私の為に聞いてくれたんだ」
「あ、ああ……」
「───また……アイツに助けられたか……」
「…………」
誇り高く微笑むゾリディア。
そんな彼女に、ヘイストは。
「……や、やはりキュアの回りの女は、みんなこうなのか───」
「な、何がだ!?」
現実にて彼女等の話は聞いていたヘイスト。 だが キュアが、その辺の機微をちゃんと語れる訳もなく……ゾリディアの関心が何処にあるか、今一つ測りかねていたのだ。
「……はあ、其んなのは今更でしょう。
普段は武人ぶっておいて、いざ主様の事なると 『ふにゃあん♡』 となる似非武人被り娘ども」
「はあっ!? 誰が被っているって!?」
「誰が似非武人だ!?」
幼い頃からイロコイに興味を示さず、槍に剣に打ち込んできた少女が二人。
「───ご、ごほん。
……キュア、皆も。
証明する手段はないが、私や【名もなき集落】の人間に変身能力などない」
「へン、証明する手段がねェンじゃ信用は出来ねェな」
悪魔の証明、という奴であろう。
「だからそんな奴ぁ───」
「みみっちい男だな、貴様」
「あン?」
【ソウルイーター】に宿るヘイストが、ユラユラと忌々しげに揺らめく。
「自分は今、人間の肉体を失っているが……自分は自分だ」
「だ、だから何だっつーンだ?」
「ゾリディアが何であれ、ゾリディアはゾリディアだろう?」
【ソウルイーター】の切っ先を、イーストンへ向けるヘイスト。 殺気では無いが……見る者を圧倒させるチカラがあった。
「…………けっ」
「ふん」
睨み (?) あい───下がるイーストン。
「ヘイスト……すまない」
「……気にするな」
礼を言うゾリディアに、プイッとそっぽを向くヘイスト。
お互い、照れくさそうに───
「ツンデレ被り……」
「「ああんっ!?」」