33 村人、現実の魔物と対峙する。
「( ……よし、着いてきているな )」
本当にキュアが魔物退治へ行くのか監視の為、キュアの後ろに付く村人達。
魔物を相当に恐れている筈だ……『放火』などと口走るほどに。 されど村人達は、キュアに着いてくる。 極限の恐怖が、キュアが出てきた事の安堵感により反転してしまったのかもしれない。
彼等は全員、気味悪い笑みを浮かべていた。
キュアは、彼等の顔に張りつく表情に寒気すら覚えるが……人類史を見れば、多々見られた表情である。
……死刑台に送られる囚人を見る時の民衆など───人間にとって、かくも他人の死は……娯楽足りうるのである。
◆◆◆
「ほらっ、アレが魔物の群れだ!
さっさと行け、魔ナシっ!」
「アンタが死ぬのは良いけど……ちゃんと、魔物を皆殺しにしてからにするんだよ!」
「クリティカルまで危険に晒しやがって……この屑が」
声を聞いて、やっと着いてきた村人の中にアシッドが交ざっているのに気付くキュア。
ソレ程に皆、同じ表情だったからだ。
「( まあ、どうでもイイか。
今、自分でも不思議な程に落ち着いているしな……。 毎夜【ドラゴンハーツ】で戦闘訓練をしているようなモノだ )」
毎夜毎晩、キュアは【仮想現実装置】の【ドラゴンハーツ】において、奇想天外な戦法をとる魔物達と戦闘している。
【ドラゴンハーツ】における『死』とは復活できる『遊び』に過ぎないが───ソレでもキュアは『ソレ』を現実の死と同様に、命懸けで避けてきた。
今やキュアの戦闘勘は歴戦の戦士をも上回るほどなのだ。
「クリティカル、心配するな……俺は無事に帰るぞ!」
「ウゼェっ!
さっさと魔物を倒してオマエも死ねっ!」
自分が死んだら、後の魔物をどうするのか考えての発言か……いや、何も考えていないのだろうな。
そう結論づけたキュアは、雑音をシャットアウトし魔物との戦闘を開始する。
今回出現した魔物は【ウェアラット】、群成す体長80cmの巨大鼠である。
普段は山野の虫や通常の鼠を食らう。 しかし、稀に異常繁殖し人里に現れた時は……【ウェアラット】は人間にすら飛びかかり、補食しようとしてくる危険な魔物だ。