327 村人、スゴロクを終えて【ロス村】へ。
「と、取敢ずスゴロクとやらを遣らせてくれないか?」
「それでは、コチラへどうぞォ♡」
【イーストンの剣】から得たスキル、【チンピラメンチ】の効果で【スゴロク券】を手にいれて【スゴロク会場】へと遣ってきたキュア達。
彼等を対応したのは……鼻にかかった甘ったるい声で喋る、やたら露出度が高い 『なんちゃってメイド服』 を着た女性、モェモェ。 「きゃはっ♡」 だの意味不明な擬音を挟むたびにヘイストは軽くブチ切れそうになっていた。
「キュア……スゴロクの仕組みは自分達が聞くから、オマエは後ろを向くんじゃないぞ!?」
「は、ハイ……」
ヘイストがブチ切れそうな理由はもう一つ───
キュアが【ドラゴンハーツ】から持ち帰った豊胸剤により、僅かながら成長を見せ始めたヘイストのその胸が……それでも、モェモェと比べて敵わぬ圧倒的 『格差』 を見せつけられているのと無関係ではあるまい。
キュアの顔が赤く、意外とムッツリであった事も怒りの一因だ。
それはそれとして、モェモェに案内されるキュア達。
「これがサイコロかぁ。
これを振らなきゃならんとは……スゴロクって大人用の遊戯なのか、朱雀?」
「いえ……私の知るサイコロは、一辺が1cm前後の物です。
スゴロクも、小さい机だけで出来る遊戯なのですがね」
巨大ステージに案内されたキュア達は、一辺約40cm、大人でなければの持ち辛そうなほどの巨大サイコロを渡された。 これを振り、ゲームを進めてゆくらしい。
「初心者ステージをプレイ為されるプレイヤーに於かれましてはァ、一人で10回サイコロを振るチャンスが有りまァす♡」
「一人10回?」
「ハァイ♡
出目の数だけマスを進み、マスに書かれた事を実行してもらいまァす」
「ふむ……例えばどんな事を?」
「それはマスに停まった時のォ……オ・タ・ノ・シ・ミ・ですゥ♡」
「きゃはっ♡」 っと両手を己の頬に当てて、愛想を振り撒くモェモェ。 胸の谷間を強調させる、ゾイのポーズである。
「キュア、出来る限り証拠は残さないから……な?」
「証拠を残さないから……何っ!?」
「徒手も意外とイケるぞ……」 っと両手を己の頬に当てて、殺気を振り撒くヘイスト。 被弾覚悟で相手の射程圏内を突き進む、ボクサースタイルである。
装備システムを得た現在は分からねど、嘗て【仮想現実装置】を使用する以外のイレギュラーな手段で【ドラゴンハーツ】に入った朱雀は、悪徳プレイ禁止のVR法適応外であった。
今のヘイストも、恐らくは適応外。
下手な許可は出せない。
キュアはヘイストの攻撃範囲をスルリと抜け、笑顔で語りかける。
「ヘイスト……俺の応援に専念してくれ!」
「ひゃいっ!?」
いきなりキュアに急接近され、乙女チックになるヘイスト。 武骨な鎧姿だが。
「大丈夫!
ヘイストが不安を抱く前に片をつけるから」
「ひゃい……♡
キュアぁ、ガンバってくりぇぇ……!」
ヘイストは、最早モェモェなど眼中にない。 キュア応援マシーンと化していた。
「…………。
……キュアは、なんでヘイストが怒ってたか分かってないんだろーし、ヘイストはキュアが誤魔化したって分かんないんだろうなー?」
「あの二人ですから」
キュアはサイコロを持ち上げ。
「先ずは一回目……それっ!」
「出目は、4ですね」
キュアが立つ巨大ステージは、自らが駒となる巨大スゴロクであった。 出目の分だけマスを実際に歩いて進み、4マス目。
「えーっと……『金10000獲得』?
───おわっ、お金がいきなり……!?
……えっ? 獲得ってことは、貰えるのか?」
「ハァイ♡」
『マス目に書かれた事を実行』 に、やや恐々としていたキュアは……思わぬ幸運に頬を緩めかけたが───
「スゴロク会場入口で歓喜していた浮浪者風の男は、こういった入金が在ったのでしょうね。
ですが主様。
絶望していた客が居た事も……努、御忘れ無きよう」
「そうだな。
遊戯である以上、いつ状況が逆転するか分からん」
───朱雀に忠告され、気を引き締めなおす。 そしてサイコロ二投目は3、引いたマスはHP回復薬入手。 三投目は5、何も無しマスへ。
「朧気ながら、スゴロクの雰囲気だけは掴めたぞ。
マス目の損得を競う遊戯だな?」
「マスに何も無く、只ひたすら先に目的地を目指しあう物も有りますが……此処では斯ういう仕組みのようですね」
スゴロクという文化が無かった場所で育ったキュアとヘイストが頷き、チェンが興奮する。
「チェンもスゴロクやりたいなー!?」
「今はスゴロク券とやらが一枚しか有りませんから。
暫し我慢なさい」
「自分はもう、色魔がいる此処には来たくないのだが」
「……我慢なさい」
◆◆◆
「───移動方が瞬間移動なのも、彼れが一種のダンジョンだったからなのかもしれませんね」
「なるほどなぁ」
「なるほどなー」
「第二すてぇじ……別のスゴロク会場か。
……また別の色魔が居るのか」
キュア達はスゴロクを終え、現在はスゴロク券を使用した元の場所である。 太陽の位置を見るに、時間は使用した瞬間から経過していないらしい。
「アソコで1が出てれば、宝箱ゼンブ取れてたのになー?」
「其の場合、残り回数で目的達成出来無かった可能性も有ります。
然すれば財宝も御預けであったでしょうし……充分良き働きでしたよ、羽根娘」
「そうだぞ、チェン」
キュアは出目が奮わずゴールする事が出来無かったが……所持金その他道具も、地味に増えたので不満は無い。
途中、何故か草原にポツンと箪笥が有ったマスにて獲得した【スゴロク券】二枚目はチェンが使用。 戦闘マスやHPMP吸収マスを引いたりしたものの、無事ゴール。 ゴールマスに有った財宝と、『第二ステージ』 とやらにチャレンジする権利を貰う。 より利益と危険が増したスゴロク会場に行けるらしい。
キュアとチェン、二回の挑戦で獲得した戦利品は【HP回復薬×4】【MP回復薬×3】【金34000】に、後は安めのダブり装備品。
それとゴールの財宝【サイコロ剣】と【賽子の杖】(魔法名はモェモェが教えてくれた。)。
最初の初心者用ステージで貰える財宝なだけあって、劇的に便利な効果ではない。 どちらも、敵への攻撃ダメージが無茶苦茶になる……専門用語で言う 『乱数が大きくなる』 技である。 たまに巨大ダメージを与えられるが、信頼に値するとは言い難いか。
だがキュアはそれでも嬉しい。
「チェンのお陰で新しい装備品を手に入れられたよ、有難う」
「気にすんなー」
「……チェンが遊んでいる間、あの偽メイドがキュアに色目を使ってきた事についてだな……」
「き、気にすんなー……」
◆◆◆
「おや、キュアさん」
「お久し振りです」
【ロス村】へと辿り着いたキュア達を迎えたのは、村の村長代理である長老の産婆であった。
「斯々然々───という訳で、イーストン達に会いに来たのですが」
「そうかい、実は村長がまだ帰ってきてなくてねぇ。
あの子等は村長に何か在ったのかって言って、ついさっき出た所さ」
「分かりました、追ってみます」
「頼むよ」